第37話 これぞ、茶室監禁
【元亀二年 山田大隅守信勝】
おお。家を継げなくて、色々溜まっていた次男坊、三男坊の勢いはすごい。
おれのストレス発散は、カラオケだったが、こいつらは戦のようだ。
その勢いが人間離れした本願寺勢を食い止める。本願寺勢の足が止まった。
その時
「突撃!!」
間違いない。首元で揺れ、日光を反射している十字架を見て確信した。
右近だ。
ベストタイミング。ここが勝機だ。
「いくぞ!てめえら!全軍突撃!削りまくれや!」
ええい。なんでまたおれも槍をふりまわさんといけないんだよ。せめて刀にしてくれ。
馬を駆け出しながら思う。
帰りたい。
なんで、どうして?おれの戦はこうおれも槍をふりまわす展開になるんだよ。怖いんだよ。
本願寺がじゃない。戦が。
信長なんざ、本陣でじっと戦を見つめ、伝令に
であるかと答えるだけの簡単なお仕事じゃねえか。
そんな怖い思いを払拭するためにも叫ぶ。
「死ねや!死ねや!おまえらの死に場所はここと思い定めろ!」
采を振り回すのも、槍をふりまわすのもどっちも
しんどい。
【元亀二年
下間刑部頼廉】
天の気紛れか。はたまた山田大隅守は天に選ばれているのか。
天満より来襲してきた高山隊は槍衾をついた。
槍衾は反転できない。たちまち蹴散らされ、中をつかれた瞬間、全軍突撃。元々、数に劣る我らはこのように乱戦に追い込まれては、不利だ。
さすがによく鍛えられた我らが兵だが、こうまで好機をつかれては分が悪い。
魑魅魍魎〈ちみもいうりょう〉はびこる北摂津をまとめるだけはあるということか。
別に、天満、大和田を失っても石山さえあれば
本願寺になんの影響もない。
堅固なる石山本願寺に、強力なる兵。
そして、人の心をつかんではなさない上人。
本願寺は織田に勝てる。
「撤退ぞ!」
ここは潔く負けを認めてやる。
【元亀二年
山田大隅守信勝】
なんとか、本願寺勢を退けたおれたちは、隊列を整えていた。
「右近」
「はっ」
「ありがとう」
間違いなく右近が決死の思いで横をつかないと
おれたちは負けていた。
「いえ、神が拙者の力になったのです」
ありがとよと右近に手を振る。
「信濃、わが采はどうだったか」
「……は、大変素晴らしきものにございました」
心にもないことを言うなよ。顔に出てるぞ。まあ、からかうのもこんぐらいにしてやる。
その後、天満砦、陥落。山田軍は大和田砦に向かった。
◇
「今、何と申した?」
おれは使番の口上に唖然とする。
「は、松永弾正忠様がご援軍に駆けつけられた、とのこと」
はあ?どういうことだよ
「困りまする!殿は今お忙しい!至急取り次ぎますゆえ、暫しお待ちを!」
「ああ?おれだぞ!てめえ!山田!会え!」
絶対、弾正だ。うん。もう大和田の兵は追撃しないだろう。弾正を手打ちにして大和に攻めこみ、大和を取ってやろうか。
「こいや、弾正!通してやれ!」
ずかずかと頬に傷がある変態醜悪ごみ虫弾正が入ってきた。
「6千の兵をつれてきてやったぜ。礼をいえ」
「 ど ー も あ り が と う 」
間延びした声で言ってやる。
「礼なんざ、銭しかだせねえぞ?それか、なぜかおれの手元にある三好下野守の松本茶碗をやろうか?」
「いいんだ。これはまあ、本願寺との縁切りだ」
?意味不明なおっさんだ。おれはこの通りに弾正に言うと、このおっさんは
「ハハハッ!そりゃわからんわ!」
「ふん、大和衆は好きに動かせ。北摂津勢はおれが動かす」
大和衆なんざ、おれは知らんから動かせね。こいつをおれの采で動かせないんのは残念だが。
「あいよ」
そう言って手を振る弾正だが、どうせ真面目に働く気はないだろう。
だが、1万6千もの兵で囲んだんだ。少しは楽になるかな。
ならない。楽にならない。
大和衆が働かない。
「弾正を呼べ」
もう、大和衆の指揮はおれがとる。んで、やつらを馬車馬にように働かせてやる。
「お呼びか?隅州」
にやつく弾正。
「見ろ」
「あ?なんだ?」
「折り畳み式の茶室だ。ここの右近は茶の心得がある。茶を用意しよう」
正史で秀吉がつくったという折り畳み式の茶室。
へえと笑う弾正はにやにやしながら、右近についていく。
二人が入ったのをみたおれは馬廻り衆と共に、一気に端をおり、屋根を広げ、縄で縛った。
これぞ、茶室監禁。
「おい!なにしやがる!」
「まあまあ。大和衆に手柄を立てさせてやるんだから」
おれは伝令を大和衆に送り、弾正が副将に任じられたことと、弾正が大和衆全軍突撃を命じたと
嘘をついた。
弾正の配下は弾正に似ず、アホなのでこれを信じた。
大和砦は、陥落。おれは弾正を出してやった。
「おい、弾正、右近になにもやってないよな?」
「なに、茶を飲んでたわ」
わめくと思ってたのによ。おれはむっとした。




