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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第4章 風林火山!!
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第35話 本願寺顕如光佐

【元亀2年 下間刑部頼廉】


「上人、およびか」


わしは、本願寺の兵の指揮を任されれいる。この目の前の、上人、本願寺顕如光佐に。


「おお、よう来たな。もっとこい」


「はっ」


この戦国の世は力なきものでは生きてはいけない。無論、僧侶も。


つまりこの目の前のよく言えば豪放磊落〈ごうほうらいらく〉、悪く言えばいい加減なこの上人も

力があるのだ。


「おう。噂の山田が兵を北摂津に集めとうで」


「左様ですな」


有象無象の北摂津を短期間で統一した男。


「ここでどつけば、山田家は崩壊やで。頼廉」


はて、確かに山田家は地盤が固まっていないが

そこまでうまくいくものか?


「せやで。信なくば立たずって言うやろ」


「は」


「山田家の信つうのはとどのつまり力や。やつは高槻より身を起こしたのも、力や。銭、武力、信長の義弟っていうコネこれらや。それが負けたら土豪どもは離反すんで」


「それに、山田大隅守は権益を奪っておるとか。

義兄にならってですかな?」


「せやな。楽市楽座の実施と関所廃止、豪族どもの家臣団を直臣に命令ひとつでできる先例。

まるで常識が通じん」


おもしろそうに上人は笑う。


「悪人、ですかな?」


「せやね」


上人は寝転がる。


「これ見いや」


懐からだされた手紙をみる。そこには、松永弾正忠から上人への手紙だ。内容は

山田大隅守信勝が負けた暁には、松永が高槻、

本願寺が伊丹、茨木、池田をせめとるという密約だった。


「……たしか松永は長島にむかったのでは?」


「いや、あいつは畿内の公方さんの警護で大和にのこされたわ。どんな手を信長に使ったか知らんけどな」


つまり、山田家はこの天満、大和田をとれなかった時点で滅亡。


「ふ、山田も松永も信長も悪人でございますな」


「せや。やけどな、頼廉、悪人こそが救われるんやで」

悪人正機。これが本願寺の教えだ。


素早く、上人は立ち上がる。


「救うとはもちろん?」


「死や」


下品だが、どこか風格がある笑いをしている。


「いくで!頼廉!悪人、山田大隅守信勝を救ったれ!兵5千をつれて出陣せい!」


「は」


いくでって、あなたは出陣いたさぬでしょうが、

上人。だがそんなこと言ったら、細かいことは気にすんなやと言われるのであろうな。


【元亀二年 山田大隅守信勝】


おれたちは、祐光、慶次、右近、村重、茨木殿をつれて出陣し、天満砦をまず囲んだ。


今回、長盛は補給担当。


おそらく、本願寺は援軍を派遣する。多分、指揮者は戦闘坊主の頼廉。

どれくらいの兵でくるかだ。本願寺が全軍だしてきくれば、勝ち目はないが、全軍だすとも思えない。


「おそらく、5千」


「……軍師がいうならそうなんだろね」


「少しは考えろ」


祐光の軍学にはおれらは遠く及ばない。


「4千で天満の包囲はできるな?」


「できる」


「右近、援軍到来の際、包囲軍の指揮をとれ!」


右近は信頼できる。今回包囲に残すのは、池田の元重臣供だ。これを村重に率いさせれば、よからにことを考えるかもしれない。


「承知いたしました」


……よし。先陣は祐光の鉄砲隊だ。慶次は二陣右翼で

遊撃。村重二陣左翼。茨木殿が三陣で、おれが本陣の四段構え。


てか、なんで弾正が信貴山にいんだよ。

よからぬことというか謀反したら、本願寺と速効で和睦して、信貴山を落として弾正の首を六条河原に晒して、天下の笑い者にしてやる。

うん。白髪首の横に、この男は身の程知らずのアホですとでもかいてやろうか。

で、おれは大和も支配して弾正の悪口を領内に広めてやるわ。


……まあ、こんな妄想はおいておこう。おれは昔から想像がたくましいね、なんて言われているんだから。


弾正が謀反したら、山城か高槻に攻めるんだな。


山城だったら、村井さんと義昭公がどこまでやれるか。まあ、二人とも有能だから死ぬことはないだろう。多分。


高槻だったらやばい。戦闘坊主とぼけ弾正に挟まれておれは命からがら池田山に逃げることになる。

そうなれば非常にやばいし、逃げたおれは、権益とか家臣を奪われた豪族に謀反を起こされて死ぬ。つまり弾正が高槻に押し寄せた時点でおれにできるのは、3つ。


1つ目は、弾正か本願寺に降伏すること。

2つ目は、恥も外聞もなく洛中に逃げること。

3つ目は、軍を2つに分けて戦うこと。


1つ目はあり得ない。弾正の部下なんざ絶対嫌だ。暗殺して腹切るわ。それに本願寺もいや。

坊主になりたくないし、そもそも降伏してその場で斬首もあり得る。


2つ目もない。そんな無様なおれは高野山に追放される。坊主は嫌だ。


じゃあ、3つ目だが、これは難しい。なら応用で速効で本願寺の戦闘坊主を倒し、池田山に戻り、弾正への睨みを利かす。


天満、大和田は戦闘坊主どもを倒したあと降伏勧告でも送ればいい。


「申し上げます!本願寺軍を前方に発見!指揮官は下間刑部頼廉!」


きたか!おれは本願寺の兵をみる。が、そこで絶句した。


一糸乱れぬ行進に、俯きの角度も同じ顔。まるで

コピーしたみたいだ。


そのコピー兵の上を旗が翻る。


進者極楽

退者無限地獄


進めば極楽、退けば地獄。


なんつう愉快な合い言葉だ。

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