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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第3章 元亀争乱!!
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第26話 よいか、朝倉は必ず明日の夜、撤退する

【元亀元年 斎藤内蔵助利三】


比叡山はおちた。我らが攻めたことを知ったほかの織田軍が慌てて攻め上がり、陥落させた。

わしは、稲葉様より、明智殿についていったことを、糾弾されたので、わしはその場で出奔。

明智殿に仕えることにし、明智殿も了承した。


「内蔵助、ついてきてください」


「はっ」


やはり、不思議な御仁だ。自分の家来にも丁寧な物言いだ。


殿の後ろを歩くが、どこへいくのかわかっていない。


「殿、どちらへ?」


「天台座主、覚恕<かくじょ>法親王のもとです」


天台座主、帝の御一門にして最高位の坊主か……なんのようだ。


まあ、わしに殿の、明智光秀の考えなどわかるはずもない。


「やあ、法親王。御機嫌如何ですかな?」


「いいわけないであろう!このような行為をして」


法親王は、逃げそびれたらしく縄に縛られている。顔中、汗だくだ。横に、1人、坊主がいる。


ギャーギャー騒いでいる法親王に向かって、殿が歩き、法親王の頬を平手で打った。


かわいた音が響く。


法親王は、もちろんだがわしも唖然とする。


「黙り遊ばせ。ご自身のお立場をよく理解されるよう」


笑いながら殿は、法親王に言う。


「さて」


立ち上がった殿は、ゆっくりと法親王の周りを歩きだした。


「法親王、貴殿は言うならば敵将。ここで打ち首が妥当ですが、ある条件をのめば命を助けて差し上げましょう」


「う、う、打ち首!?帝の一門たるわしをか!?」


明らかに法親王は狼狽えている。


「ええ」


殿は、そう言うと、刀を抜き法親王の横にいた坊主へ刀を一閃した。坊主の首が床にゴンという音をたてて落ちる。


「ひぃ!な、ななな何をしておるのじゃ!」


血が飛び散り、がくがく法親王は哀れなほどに震えている。


「いや、法親王殿下は、僧の御身。打ち首がどういうものかお見せした次第」


平然と言い放った殿に、わしも身震いがしてくる。


だが、この殿はおもしろい。


「う、うむ。話を聞こうではないか」


帝の御一門らしく法親王は居住まいを正した。


「これより拙者が申すことは上様の御言葉と心得られますよう」


喉をゴクリと鳴らし、法親王が頷く。


「織田上総介信長に、蘭奢待<らんじゃたい>を下賜されるよう帝に上奏なされませ」


蘭奢待、その名は美濃の豪族に過ぎないわしでもしっている。高名な香木であり、

帝が、武家の棟梁と認めるものに下賜するものだ。

足利義満公、足利義政公と言った方々が今まで下賜されている。


「ばかなっ……義昭公に下賜するならともかく、その臣に過ぎない上総介に……!?」


「上様は、近い将来、上総介に天下の政道をお譲りするお考え」


そんなこと、初耳だった。法親王も驚いた顔をしている。


「なれど……」


渋る法親王に殿は刀をつきつけた。


「はようなされよ。首が飛ぶような事態になりかねませぬ」


「は、ははは早よう紙と筆をもって参れ!!」


法親王は叫んだ。まったく無様だ。


「このような志儀に及びただですむと思うなよ……」


「ほう。甲斐に手紙でも書くおつもりか」


法親王は驚いた顔をみせる。


まったく哀れな法親王のその隣に居る清々しい顔をした、殿。わしはこの対比だけでは言い表すことができない凄みを改めてこの明智十兵衛に感じた。


【元亀元年 鳥居兵庫助景近】


織田軍が小浜に入った知らせをうけ、軍議が始まった。


出陣し、木瀬ヶ原ぐらいで織田と雌雄を決する算段だったが、景鏡が反対し、今議論になっている。


そもそも、景鏡と殿は、朝倉当主の座を争っていたのだ。しかし、文武に秀でられていた殿が晴れて朝倉当主となったと聞く。


「ここ一乗谷を守ることこそが、最大の策にござろう!」


援軍の見込みは、江北の浅井だけだ。が、浅井も動けない。ならば野戦で信長を討ち取るしかわれら朝倉に安寧はない。


そんなことすらわからぬか。


わしは、自分に酔いながら妄言を吐いているこの男を罵倒したい気分になった。


「では、採決をとるかの」


殿がぎら、と景鏡を睨んだ。景鏡は、これはしたりと言った顔でにやついている。


「では、各々方!一乗谷の防戦に賛成のお方は起立を!」


すぐに、朝倉孫三郎景建殿が立ち上がった。


……景建殿、まさか


「おお、さすが景建殿!聡明なる御仁!」


「黙れ、景鏡」


景建殿が冷えた目で、景鏡を見下ろした。


「殿」


景建殿が、殿の方を向く。


「必ず、野戦にて信長の首、とりましょうぞ。拙者は必ずや奮戦いたしまする」


ほかの家臣団も立ち上がり、口々に野戦に賛成を表す。


景鏡は、出陣を拒否。わしはこの男を怪しく思い、忍をおくことに決めた。


「皆のもの!」


殿が、立ち上がる。家臣団が静まる。


「必ず、越前に平和をとりもどすぞ!

わしが軍を率いる。軍師は景近にまかす!」


「はっ!」


わしは、平伏する。必ず、殿の御ため、皆のため、必ず、信長の首をとってやる。


【元亀元年 山田大隅守信勝】


「よいか、朝倉は必ず明日の夜、撤退する」


信長は、軍議でそう言い放ち、軍議を打ち切った。


朝倉が、ここ木瀬ヶ原に到着するのは明日の夜だ。で、すぐに朝倉が退却するというのか。


周りのみんなをみても、当たり前だが困惑している。


信長の戯れ言か……魔王の能力か。


ファンタジーじゃあるまいし。


あ、タイムスリップも十分、ファンタジーか。


おれは、1人、脳内でつっこんだ。





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