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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第3章 元亀争乱!!
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第25話 第六天魔王

おれたちは、二条城に集められた。

ここに、織田家の将校も集められている。


……いよいよ、浅井、朝倉討伐か


若狭は、俺らが押さえているうえ、丹羽さん、佐久間殿という織田の宿老に幕臣の合計8千が守っているので、そうそう落ちない。

つまり、おれたちは朝倉、浅井を各個撃破できるのだ。


「そろったか」


上座に義昭公、家臣団筆頭の席に信長がいる。

おれは末席だ。


「朝倉だ」


信長はいつも言葉が短い。主語も述語もあやしいときがある。だから、おれらはこの主語も述語もあやしい言葉の意味を補完しないといけない。

今回の場合は、朝倉、浅井のうち、まずは朝倉を攻めるよ、ということだ。


「浅井への抑えだが、光秀、わかるな」


「はっ」


いつものように、不適に微笑みながら平伏する光秀。多分、光秀はわかっているんだろう。おれはわからんが。てか、わからんほうが普通なんじゃね?

おれは、学校の教師を、こいつの説明わかりずれーとか言っていたが、とんでもない。信長に比べれば全員、神の如しだ。


「どういう意味にございましょうか」


そうだよ。柴田さん。あんたのとこの殿様が意味わからんことほざいているんだよ。どうにかしてよ。


「わからぬか。権六」


逆に、この場で光秀以外だれもわかっていねえよ。


「は、申し訳ございませぬ」


「ふん」


信長は不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「浅井への抑えのため、比叡山延暦寺を攻め落とす。その大将に光秀を配すということだ」


全員、ぽかーんとしている。いや。おれも。


「比叡山延暦寺攻めにございますか……?」


「そうだ」


いやまて。確か、正史における比叡山延暦寺攻めって、延暦寺が浅井、朝倉の残党を匿ったからだよな?こんな、浅井への抑えとして最もふさわしい感じなんでちょっくら焼きますわーって無茶苦茶だろ。


「上様!」


幽斎さんが立ち上がる。


「上様も比叡山延暦寺攻めには賛成でございますか?」


「そうだ。無論わしも心苦しいが……」


義昭公が、訥々と話す。


「わが天下、絢爛豪華なる世の前では、なにごとも取るに足らぬことよ」


そう言い切った信長はいきなり立ち上がった。


「第六天魔王、これが今日よりわが名よ。貴様らは魔王の手先、死しても戦え」


ふつうの人間なら、はあ?とした顔をするだろう。だが、信長の毅然とした顔をみると、平伏する気しかおきなかった。


今回の軍は、織田、足利連合軍2万5千。信長が率いる。おれはこっち。もうひとつが美濃を中心とした比叡山延暦寺攻めの軍1万。光秀が率いる。


じゃあ、いくか……


2度目の越前攻め。前回と違うのは、おれたちが正真正銘の魔王の軍になったことだ。


【元亀元年

斎藤内蔵助利三】


なるほど。比叡山とはまさに城だ。山中には、砦のような規模の寺が各地にあり、頂上の延暦寺は近江を見下ろす。


それにしても、不思議なのは此度の大将である、明智十兵衛光秀殿だ。


美濃の名族、土岐氏の素性らしく、道三様よりその才能を認められていたと聞くが、美濃でずっと働いていたわしでさえ、明智殿のことは覚えていない。


わしは、主君の稲葉様に明智殿のことを聞いてみたが


「ふん、しらぬ」


と、不機嫌そうに答えた。よほど、明智殿のような幕臣に率いられるのが不満なようだ。


不満なのは、わしじゃ。


陪臣たる己が身ではない。


主君についてだ。


稲葉様は、優れたお方であるが、なにか味気ない。


なにか、満ち足りないのだ。


空を見上げたわしだが、背中に視線を感じた。


「ー?」


振り返ってみると、明智殿がいた。


「これは明智様!」


わしが今まで考えていた男がいたことに驚いた。


「いや、斎藤殿に此度の軍議に参加していただこうと思いまして」


陪臣たるわしに……?


わしは、明智殿の真意を知ろうと顔をみたが、長い髪が印象的なこと以外なにも知ることができなかった。



軍議において、明智殿が


「夜襲をしかけ、一夜でおとしまする」


と、言ったことに対して、稲葉様が


「お待ちを!まずは使者をだし、勧告するのが先!」


「一刻を争います。そのような時間は無用。それにあと半刻で日も暮れます」


「なれど!」


なおも嫉妬からか口をだす稲葉様に対して明智殿は


「では、これで軍議は終わりにし申す」


と下がった。


明智殿は兵を1千しか、つれていない。


それでは、この大軍を御するのは難しいか……


わしは、陣を出た明智殿に聞いてみた。


「どうするおつもりでござるか?」


「わが手勢だけで、夜襲する所存。なに、われらだけでも落ちまする」


「……」


傲岸不遜とまで言えるその自信に満ちた物言いにわしは、興味をもったかもしれぬ。



すっかり日がくれた。わしは兵をつれている。


明智殿についていくためだ。


「これは、斎藤殿」


明智殿は、うれしそうに笑った。赤い口の中がわしをのぞいているようだ。


「それがし、明智殿に同行いたす。明智殿、拙者を家臣と思い、お下知くだされ」


わしの手勢は3百。


「頼もしい。では参りますか」


明智殿は、自分の軍団の組頭の、娘婿の弥平次殿、家臣の溝尾殿、藤田殿、叔父の光春殿に合図をした。


闇という舞台はこの明智十兵衛光秀に最もよく似合う。


このもっとも自分にふさわしいはずの舞台を壊すように馬を走らせた明智殿の背中を追う。そして1つの考えが頭に浮かぶ。


この男のもとでは、満ち足りるのではないか。


わしは、ふと空を見てああ、と声を出す。


今日の空は星が少ないな。

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