第16話 高槻城主、山田大隅守信勝
信長は、河内、和泉の三好一党を駆逐。岸和田で三好の当主、三好義継が戦死した。しかし三好家そのものは阿波、讃岐を領有しており、偽公方の義栄を逃れ、今まで阿波を領有していた三好長治が新たに三好当主となった。
京に戻った信長は、堺に自治権の放棄と銭を納めること要求。堺を治める会合衆はどうするべきか対会議を重ねている。
会合衆というのは、12人で構成される自治組織だ。義昭公も、商人が町を治めるとはおかしいと思っている。
おれといえば、代官所でごろごろしている。長盛がいるから、おれに、名代の佑光も慶次もすることがない。
「信勝様。」
お犬様だ。お犬様といえば、おれが足を血まみれにして帰ってきたとき、すごくびっくりした顔してたなぁ。うん、美人はどんな顔をしている。しても似合うね。
「どうした?お犬様。」
「呂宋様が来ておりますよ」
「通してくれ」
「はい。」
呂宋か…。なんだろう?別にあいつが商売で困っているということも聞いたことがないしな。
「お代官様。お久しぶりにございます。」
「うん。で、どうしたの?」
「はい。主人の今井様が織田様に挨拶するゆえ、拙者もその供に。それで今までお世話になったお代官様に挨拶を。」
「今井殿って会合衆だよな…ということは堺は織田様の要求を呑むのか?」
おれが呂宋に訪ねると呂宋は、にやりと笑って手をぶんぶん振った。
「いえ、こたびのことは今井様のみのこと。堺は一切関係ありませぬ。」
…なるほどね。会合衆がぐずぐずしている間に単独で信長に接近。そして、信長の覚えめでたくして大商人になるつもりか…
「今井殿はやるな。機をみるのに優れているわ。」
「左様。では、また。」
呂宋はでていった。
後で聞いた話しだが今井殿は信長に名茶器松嶋の壷を献上。これに信長が、
「なぜこのような名物をわしに?」
それに対して今井殿、
「天下一の茶器は天下一の人物が持つのが相応しいと思いまして。」
これに気をよくした信長が。、これより織田家は一切の物資は今井殿の納屋から買うと名言した。
この後、堺、信長に歯向かうことを恐れ、降伏。三千貫を織田、足利家に献上し、会合衆は解散。堺の代官には織田家の松井友閑が就任。
この後、信長は岐阜に帰った。
◇
ありえないことが起きた。こうしかいえない。舞鶴の代官所で、ごろごろしたおれに突然義昭公より出仕命令がきた。いや、佑光、慶次もきたらしい。なんだ、と思い、まだ建設中の二条城にいったおれに、義昭公がひとこと。
「高槻城主の主を知っておるか?」
「いえ。」
高槻城は、義昭公上洛前は入江なんとかが治めていたが、その入江は愚かなことに信長に逆らい、滅ぼされた。
で、今は主がおらず、京都所司代の木下秀吉が管理している。あ、ちなみにもう一人は光秀。
「それでだ。高槻はわが蔵入れ地とすることになった。しかし、高槻は遠く、ここからでは政務が難しい。故に」
故に?おれは言葉の続きを待った。
「山田太郎左衛門信勝。貴殿を高槻城主とする。与力として沼田三郎兵衛佑光、前田慶次郎利益、それに高槻の豪族、高山右近を与える。」
おれは頭がポカンとなった。いや、いや、18齢のおれが城主?ええー?
後ろを振り替えると、慶次はにやにや笑い、茫然としてると思われた佑光も、なんでかにやにやしている。
高槻は5万石ある。5万石の大名になるのかよ。
「拙者にできますか…?」
おれの疑問だった。
「信勝。おれがおるわ。」
佑光が笑っている。
「戦は任せろ!」
と、慶次が大声をあげた。…ここ殿中ですよー。
「お主ならできる。いや、やれる。」
義昭公がこう言うのならできそうな気がする。
「はっ!ありがたくお受けいたしまする!」
「うむ。城主が無官というのもおかしいからの。もってきた。従五位上、大隅守だ。
高槻城主、山田大隅守信勝!」
「はっ! 」
「しっかり精進いたせ。」
「はは!」
おれは額を畳にこすりつけた。




