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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第13章 荒木、官兵衛、宇喜多!!
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第149話 山田様は

【天正七年 小寺官兵衛孝高】


 目の前に現れたのは此度の標的にして、美作備前の太守である大悪党の宇喜多和泉守直家。


 いらぬところで。


 横目で七郎殿を見ると彼もまた唖然とした顔を浮かべていた。


 知らなかったか。七郎殿もまた。


「悪党」


 和泉は口許にやった扇を一切動かさず言葉を発した。


「……は」


 文脈的にわしであるかと思い、和泉を仰ぎ見る。


「何用じゃ」


「七郎殿との久闊を懐かしんだ次第」


「……隅州殿の使いか?」


「いえ」


  和泉が姫路の方角を向いていると気が付いたのは今更であった。


「まあ、いい」


 扇がばしっという音を立てて閉じられる。


「いずれ、天下は一統されよう。我らは山田殿に協力するのみ」


 和泉は笑っていた。その背中をわしは無言で見詰めた。


 あの者、自らが悪党であることを隠そうともしておらぬ。今まで播磨の有象無象は自分を取り繕っていた。如何に善人であるか、律儀であるかと。だが、それがどうだ。宇喜多和泉は自信を持っているのだ。自らが悪党であると警戒されても、すべての謀略を成功させ、望みを叶えられると。


 それはあるべき姿ではない。取り繕ろい、隠し、偽装し、欺き、善人ぶり、正義面をし、奥で笑う。これが才知ありし男のあるべき姿だ。


 そうでなくてはならない。


 ようやく決心がついた。


 あの男は消さねばならん。小寺官兵衛が小寺官兵衛であるために。


「七郎殿」


 いまだ、状況が掴めておらぬ風の七郎殿をもう一度、大声で呼ぶ。


「えっ。な、なんですかな!?」


「七郎殿はこの天下をどう見ますか」


 天下ですかなと七郎殿は上ずった声を出す。天下。言うには容易いこの空の下全て。毛利や幕府、宇喜多和泉などという話ではない。

 恐らく、考えたことなどなかったのだろう。七郎殿は。備前美作が精一杯。いや、岡山までがその思考の範囲内で他は、苦しみし末の思考の行き場なのかもしれぬ。


 なら、見させてやる。


 わしとて天下を把握しているわけでもない。そんなものいないのであろう。姫路の山田様も、安土の織田右大将も天下を知っているわけでもない。


 なら、わしはわかる。わしの、小寺官兵衛が見る天下は。


 駒よ。そして我が才知こそが盤上。


 七郎殿。駒を動かすテコとして、存分にお働きを。


「いずれ幕府が一統します。しかればその後」


「そ……の後?」


 七郎殿の声が上擦ったところを、わしは逃す気はない。


「管領同士の権力争いに発展しましょうぞ。山田、羽柴、明智、柴田、滝川、丹羽……」


「それが如何しました?」


 淵をのぞき込むように七郎殿はわしの目を上目で見た。


「宇喜多家は変わらず山田家を支える存年かと……」


「ぞ、それは隅州殿のお言葉で……」


 わしは、一先ず、言葉を区切り七郎殿を見る。広大な領土を持つ管領家が権力争いに走る。その図は理解できたようだ。


「いかにも」


 じっと、吐き出すように言葉を言う。


「左様か……」


 山田様がこの言葉を七郎殿に伝えた。山田様は今、鳥取を落とし正に飛ぶ鳥を落とす勢い。その武将が宇喜多に信を置いていないと内々に親族衆筆頭たる七郎殿に伝えた。


 これが何を意味するか。また七郎殿はどうでるか。


「こ、小寺殿っ」


「何でござるか」


「兄者は悪評高きゆえん、山田様にいらぬ疑いをかけられし様子。しかし、しかし、兄者は隅州殿を尊敬しておりまするっ」


「左様か」


 不安であったのか、どうなのか。七郎殿は更に口を動かした。


「小寺殿。姫路へ登り隅州殿に宇喜多は忠節を尽くすと隅州殿にお伝えしてくださりませぬか」


「七郎殿」


 ずっと用意していた。この言葉を。


 思わず笑うのをどうにかこらえ、前座となるべき言葉を出す。


「存じておりますよ」


 七郎殿の顔が僅かに緩むのを見た。


「宇喜多七郎殿こそ、無二の御仁。山田様は常常こう仰っておりますから」


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