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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第13章 荒木、官兵衛、宇喜多!!
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第148話 宇喜多来襲

【天正七年】


 荒木信濃守村重は姫路城に登り、山田大隅守と謁見を果たした。


 城下、万、整っておりますとの言葉を受けた山田大隅は顔をしかめた。


「あ?城下の視察はてめえだったか?」

 村重は即座に額を畳にこすりつけ、差し出がましき真似を致しまして申し訳ございませんと言った。


 山田大隅はその、いつにない信濃守の態度に混乱したのか下がれとやや半音上がった声を出していた。


「失礼します」


 信濃守はそう言い、頭を下げたまま退出し、ゆっくりと右膝から立ち上がる。


 わしはあの男に負けのか。


 すぐに何故という言葉がつく。こればかりが最近の信濃守の頭を掴んで離さない。


 だが、それに支配されていると言ったことはない。


 次は宇喜多だ。


 そうは言っても頭上に立っている山田大隅に自分と小寺官兵衛の動向を悟られないかとの不安もある。


 だが、信濃守は落ち着いていた。それこそ不気味なほどに。


 摂津での屈辱に、物乞いをしながら四国まで落ちたこと、そして鳥取での飢えと決意。


 それらをすべて与え、奪った山田大隅を此度だけは出し抜ける。そういった謎の自信が信濃守にはあった。


 信濃守の目的は、人質の部屋だ。


 襖を開けると、男と目が合った。


「貴殿か」


 男、高山右近助重友は不快な表情を隠そうともしなかった。


「高山殿にござるか」


 右近助は反応せず、時のみが流れる。やがて右近助は口を開いた。


「何用ですかな」


 信濃守はとっさに、少し興味がとのみ答え押し黙った。


 右近助と信濃守の付き合いは長い。摂津での頃からの知り合いではある。尚のこと、右近助は村重の不気味さを好きにはなれなかった。


 だが、明智日向守様は……


 右近助は一度だけ、明智日向守光秀と言葉を交わしたことがある。


 当時の日向は京都所司代であった。所用で京に赴いた際、屋敷であった。


 片眼でみられるだけで全身の毛が総毛立ったのを覚えている。


 あれは人では非ず。


 その不気味さ、禍々しさは右近助の記憶に留まり、戦慄を与える。


 信濃守は右近助の密かな戦慄を知らない。ただ目だけを動かし、やがて目当てを見つける。


 あれか。宇喜多八郎とは。


 鳥取の頃、吉川駿河守が宇喜多和泉守は子煩悩ではあると苦笑まじりに答えていたのをこの男は覚えている。


 それに主君の山田大隅も吐き捨てるが如く、宇喜多和泉を八郎マニアと評していた。


 マニア、の意味はわからぬが、駿河守と趣旨は同じであろう。


 八郎はその凛々しく、また涼やかな顔を信濃守に見せている。


 あれが梟雄の一粒種か。


 地獄にいくことなども怖くはないであろう宇喜多和泉の唯一の心配事か。


 目の中に入れても痛くないと聞く。


 息子のう。すべて見捨てたな。そういえば。


 信濃守は右近助に丁重な礼をして姫路の屋敷に戻った。


【天正七年 小寺官兵衛孝高】


 宇喜多和泉守などは、ほうっておいても滅びるのだ。尋常でない手段で成り上がったものなど、一抹の栄華のみしか誇れないのは自明の理である。


 松永弾正しかり、斎藤山城しかり。


 宇喜多和泉守は自分の義父の殺害、義息を嫁にやった自分の娘もろとも殺害などその悪行は数しれない。


 宇喜多和泉守とはどういう御仁か。それは知らぬ。だが、このような悪人、賢しらな民草の噂話は耳に入ってくる。


 どうやら、宇喜多和泉守はその備前、美作を自分の力単体でとったものだと考えているらしい。


 たわけが。


 安土の右大将でさえ、あの栄華は右大将の為に死んでいった無数の死体、また生きている織田の家来たちの汗、血の上に成り立っているのだ。


 別にわしは宇喜多和泉守を嵌める訳ではない。武功の機会を作るだけだ。非常に爽やかな武将的な振る舞いではないか。


「これは、小寺殿」


 柔和な笑顔を宇喜多七郎兵衛忠家殿は浮かべた。これだけ見るとあの和泉守の弟だとは思えない。


「先に申し上げてくれれば、もっと歓待の準備をしましたものを」


「いえ、急に七郎殿に会いたくなりましてな」


 膳が並べられている。


「ささ、どうぞ」


 しばらく、戯れ話に花を咲かせていたが急に七郎殿は真面目な顔になった。


「しかし、小寺殿はなにか山田殿からの内意を得ているのではないですかな?」


「これは、七時殿には適いませぬな」


 わしは、頭をかく。別に山田様の意思など関係ない。この山陰山陽を地獄絵図にしても、わしは武功を立ててみせる。


 さあ、かかれ。宇喜多和泉守直家。


 後ろで僅かな音と共にふすまが開かれた。


 何故か、背中がざわつく。


「これは、小寺殿」


 高くもなく低くもない平坦な声。それでいて口許を扇で隠しているせいか、その細い狐目が際立っている。そしてそれは、悪党の証でないかという思いに変わる。


「これは宇喜多和泉殿」


 宇喜多和泉はその狐目を崩さずじっとこちらを見据えている。





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