第136話 降伏
【天正七年 山田大隅守信勝】
越年だ。越年。陣を敷いたまま正月が過ぎちまった。申し訳程度酒宴をして今年の正月は終了。
明日ともしれない身で馬鹿みたいに騒ぎまくるこの時代の正月になれたおれは少し寂しかった。
そんなおれをいらつかせた情報がただ一つ。
京都馬揃之次第というものだ。
あの派手好きの覇王、第一志望は皇帝の信長が企画した軍事パレードだ。とにかく派手だったらしい。
天皇、親王、五摂家を筆頭とする公家百官を目の前にしての軍事パレード。こんなこと初めてらしい。
ここまではいい。ここまではただの信長さんかっけーだでもここからだ。
馬揃えの一番手は信長であるのは当然だったし、二番手は公方信忠殿であるのも当然。三番手は丹羽殿。織田家直轄領の総覧に努力し続けてきたご褒美みたいなものだ。
四番手は光秀。明智日向守光秀。
坂本衆、丹波衆、丹後衆、和泉衆、河内衆、大和衆を率いての登場に皆息をのんだらしい。
その煌びやかさにだ。
五番手が次男の三介信雄六番手が三男の三七信孝(頭いい)で、七番手に柴田殿。
まあ、光秀はまたその権威見せつけたという話。
ちなみに、光秀と柴田殿、丹羽殿以外の管領は欠席。敵が強いからね。上杉はごたごたしてるけど、武田はまだ強い。
「ご朗報っ。右大将様が尼子殿の鳥取城城主就任並びに因幡旗頭をお認めになられました」
む。随分遅かったな。
「尼子殿。おめでとうございます」
「ありがとうございます。これも単に山田殿のお陰です」
「お世辞でも嬉しいですよ」
笑いながら、ふと前を見ると鳥取城が目に入る。すると自然になんだか溜息が漏れた。
「反乱もねえのか」
既に食糧はつきている。そんな中でも反乱が起きないなんて、村重の野郎、余程慕われていると見える。
「御意。荒木殿とは名将でありますな」
「そうだな」
しみじみと官兵衛に返答する。
「助けませぬか」
「どういうことだ」
官兵衛は無言で鳥取を見詰める。
「荒木信濃守を家臣となさいませ」
「だがよお、花隈は多羅尾のものだしな」
帰ってきても与えるもんがない。
「ただの武将からの出発でいいでしょう。禄は千石で相当かと」
「おれも賛成だな」
化粧が嫌でも、見慣れたところで目立つ慶次が大声を出した。
「毛利を倒すにはあいつも役に立つだろ」
それを皮切りとしてか、右近に茨城殿、多羅尾、そして祐光といったおれと同じく村重と因縁浅からぬ物たちも賛成していった。
「説得はするさ」
どうしようもなく因縁があるが。それもまた一興だろ。
【天正七年 荒木信濃守村重】
このように年を明かすというのは些か予想外であったな。ろくに最近などは飯も食えておらぬ。
日に何度か兵らの視察にいくが死体を切り取りそれを食っているのを見た。わしもそれに混じったが、意外にも美味かった後、どうしようもない気味の悪さが頭を叩いてきた。
まあ、それもまた一興よ。
目を閉じてみると、わしの荒い息使いが聞こえる。反乱が起きぬのは、中村、森下、高杉らがよくおさめているからよ。
まったく、ここまでわしに尽くすとはさすがに予想外であった。
「殿……」
その三人だ。三人寄ればかしましい。
「今日も無事にございます」
兵士に不満は見られないということだ。
「殿の昨日の視察のお陰にございます」
視察など、ただ兵らと話し雑草を口にしただけだ。
こやつらも、いやだれもやせ細っておるわ。
「降伏するか」
まるでわしの口が意識を持ちそれで自立したかのように自然に言葉を紡いだ。
時がとまったかのように、このかしましい三人啜り泣く声が聞こえた。
思うに、北摂津の大名の家臣の倅から北摂津の王となるを望み
、主家を飲み込みそのまま北摂津を呑み込もうとしたが果たせず、花隈の城主に落ち着きながら、満足せずそしてここに朽ちるか。
いずれも夢を砕いたのは山田であった。
「申し訳ありませぬ……我等がふがいなきせいで」
「いや」
それは違う。
「戦を分けたのは……」
もう一度、目を閉じて開いた。窓の奥には帝釈山が、そして頂上に掲げられている金の唐傘が見える。
「大将の差だ」
最後までわしはこの三人に向き合うことができないままであった。




