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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第11章 鳥取!!
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第134話 雁金争奪

【天正六年 荒木信濃守村重】


 惜しみ無く放たれる弾丸は間違いなく我々の思考を奪っている。


「殿っ!出陣の御下知をっ!」


「はやまるでないっ!」


「しかし、前田隊のみ先行とあらば、これを叩けば各個撃破能いますっ!」


「はやまるなっ!」


 一喝し、肩で息をする。しかし、この状況とは裏腹に心は澄み渡り始めていった。


 わしが山田ならどうする。


 わしが山田なら。


 同じ言葉を反芻し、じっと目の視点を一点に定める。


 雁金陥落。これだけを狙うことはない。


 雁金などの支城の敗残兵を鳥取に集め兵糧の減りを早めるはずだ。


 わしらは一度、兵糧の輸送に成功した。必ずこれを狙う。


 敗残兵を大量に鳥取に集めるためにはどうすべきか。


 わずか一当てで降伏、ないしは兵が逃げるしかない。つまり、それを成し遂げる為には、大量の兵が必要。


 だれが率いるか。沼田か。


 但馬を治める男の顔を思い浮かべる。


 いや。わしはそれを打ち消す。


 山田大隅。


 あやつだ。あやつは自ら雁金を落とす。間違いない。あれの常識の無さは嫌というほどわかっている。


 フッ。


 思わず笑みがこぼれる。だが、すぐに表情を引き締める。


「兜を!」


 そう叫びながら刀を抜いた。


 必ず山田は来る。


【天正六年 前田慶次郎利益】


「うりゃあ!もっと近付くぞっ」


 おれの言葉に一人の部下がぎょっとする。


「本気ですかっ」


 確かに、この坂を昇ったところを見ると、火縄銃を構えた集団がいる。だが、それがどうした。


「おれらは陽動だ!」


 おれたちが近付けば近付くほど敵が惑い、勝利の可能性が高まる、それが山田の言葉だ。


 それを信じるしかねえ。


「おい。前に作った旗を掲げるぞ」


「……はっ」


 おれがこんな時の為に作らせた旗。それを披露してやる。


 一呼吸開けて掲げられたその旗は大ふへんものとあった。


 大ふへんもの。いい響きだ。ああ。まさに天下無双のかぶき者たるこの前田慶次郎様に相応しい旗印よ。


「竹束を用意!」


 竹束が置かれ、何故か喧騒が遠くなった。そんな気がする。


「進めっ!」


 ときの声に大ふへんものがたなびいた。


【天正六年 山田大隅守信勝】


 今になって、そう本当に今更なんだが村重の野郎が雁金に目を向けているのかが無性に気になっていた。


 この策の根本はつまり村重もおれも雁金を注視しているというのがそもそもだ。


 もし、あの村重がおれの想像以上のあんぽんたんで、あいつは愚直におれの首を狙っているんだとしたらそもそもが間違いなのだ。


 それはそれでいい。そんなおたんこなすならいくらでもやりゆはある。今すぐにでも策を立案させ、それを実行すればいい。こんな簡単なことはない。


 だが、もう一つの懸念というか最悪のことはあいつが古今無双の名将で尼子殿の雁金攻めを見破った場合。


 それは破滅だ。おれの身が。金箔と朱色に固められた安土の王、織田信長によっておれは終わる。


 おれの後任あたりには蜂屋兵庫とか池田とかがなるんだと思うと気が滅入る。奴等は勝ち馬に乗ってきただけでなんの気概もねえじゃねえか。安土の御殿で二言三言話しただけなのだが。


 ともかく、それはないようにと願うしかない。


 こんな兵糧攻め初めてなのだ。思考は絡まるし景色も歪んでみえるし。


「尼子隊に伝令を出せ」


 村重が、荒木信濃守村重があんぽんたんのおたんこなすなのか、はたまた古今無双の名将か。


 またはおれが、山田大隅守信勝が最強無敵、世紀の武将にて、僥運の持ち主なのか。


 まあ、答えは決まってやがる。


 馬に飛び乗ったおれは横の助衛門に大声を出した。


「用意しやがれっ!この人もどきが」


「人もどきってなんですか」


 呆れ顔の助衛門をおれは思わず笑った。


「見ろ」


 おれは刀で前方を指した。


「慶次がすげえ」


 言葉に出すとなんだかおかしいと思ったが、気にしない。


 慶次率いる前田隊はかなり前方に突出している。村重がアホなら前田隊はかなりの打撃を被るだろう。


 でも、あんなに前に出ている。ただの馬鹿にも見えるがおれはそうは見たくない。


「前田殿は勇気がありますね」


 その微妙に口角をあげたその顔になにか含みがあるように感じた。


「なんだ」


 助衛門は笑った。


「拙者はもっと勇気がありますよ」


「言うたな」


「はい」


 本当がどうかはこの際、どうでもいい。


「出るぞ」


 おれは采を高々とあげた。丁度、真上に来ていた太陽が采に光を反射させ、思わずおれは眩しさに目がくらんだ。

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