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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第10章 狂気乱舞!!
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第127話 太郎

【天正六年 山田大隅守信勝】


 すべて諦めていた。世界を。世の中を。そして自分を。周りと比べては嘆息を漏らし、時間を恨んで瞳を閉じた。


 だが、それはすべて終わる。


 そう。子供が生まれたッッッ!


 そして今は酒宴中!


 池田城からの早馬が発した一言がこの騒動の引き金だった。


「お、どうした?」


 そいつは見知ったやつだったから、お犬様の近況報告かと思った。


 そいつがすっと息を吸って大声を出した。


「奥方様、嫡男をご出産にございます!」


「……まじか」


 それを聞いた助衛門が一言。


「ヒョオオオオオ!」


 奇声じみた歓声はおれの顔を緩ませた。


「嫡男か!いくいく!池田山にいく!」


 おれは立ち上がって興奮気味に叫んだ。


「行くって、殿……」


「あん?」


 助衛門をにらみながら歩く。


「ちょ、増田殿に怒られますよ!」


「心配すんな。長盛に見つからないようにする」


 この山田家の内政になくてはならない長盛は、最近、武将顔負けの迫力でおれの家臣を叱るようになっている。これで播磨衆と摂津衆が仲違いせずに仕えてくれているのだが、いかんせんうるさい。


「はあ……」


 助衛門の溜め息はすぐに聞こえなくなった。


 なんかフラグぽかったが、おれは姫路を抜けることができた。さっきの早馬は、おれに気をつかってか少し後ろで走っている。


「肩を並べてくれ。話せないだろが」


「はっ」


 そう言ったこの男は少し馬を急かした。


「犬の様子は?」


「つつがなきご様子にございます」


 つつがない、ねえ。


「出産明けだが。そういうもんか」

 

「……はっ」


 そう言った男の顔をちらりと見る。


「武功を建てる機会を作ってやれなくてすまんな」


「いえ。池田山の治安維持がお役目にござれば」


「そういえばお前はいつから仕えていたっけ?」


「拙者、元々、池田家の陪臣にございました」


 ああ。そういえば池田家を滅ぼした時、陪臣を直臣に引き上げたな。その内のひとりか。


「ああ。思えばあの日から今日まで色々あったな」


 村重の謀反とか、武田戦とか。手取川とか。


「はい」


「ふん」


 まるで信長のようにつまらなだそうに鼻を鳴らした。


「飛ばすぞ」


「御意」


 池田山はいつも通りにそびえていた。太陽が燦々と輝いている。


 城に入り、廊下を歩いていると否応なしに思う。子供かと。正直、おれが種が無いのか、はたまたお犬様が石女だったのか、はたまたタイムスリップ者だからかは知らないが、子供は諦めていた。養子選びをそろそろ始めようかとも思っていた。


 それが、生まれた。


 いや、恐らくおれの子供だと思う。だけど万が一、お犬様が不貞を働いて、子供をこさえたとしても別に構わない。お犬様の血を引いているのならそれでいいと思う。


 ふすまをがらっと開ける。


「よう」


「あ、信勝様」


 そう言うお犬様の手の中には赤ん坊が眠っていた。


 人間らしいじゃねえか。


 もっと猿みたいなものかと思っていたがちゃんとした人間の形をしていた。


「かわいいな」


 おれはそう言ってその小さな手を軽く握った。相変わらず赤ん坊は寝ている。


 だが、この光景でも自然と顔が険しくなる。徳川家の信康切腹のことが思い出されたからだ。謀反を企てた信康殿を成敗したとされるが本当にそうなのかはわからない。ただ、必要とあれば自分の子すら殺さなきゃならないと言うことは胸に響いた。


「しかし、この子は犬が育てるのか」


「はい。なにかありますか?」


「いや……」


 なんか、甘やかされてしまうのではないかと少し心配なだけだ。

 言うべきか。言わざるべきか。いや、言おう。


「甘やかされてしまうのじゃないか」


「……いえ、大丈夫です」


 お犬様は、兄譲り、信長譲りの鋭い眼光をおれに向けた。思わず、たじろぐ。


「山田家の跡取りとして立派に育てます」


「……そうだな」


 にこっと笑う。お犬様を信じよう。


「……信勝様。お名前を」


「名前?」


「はい。子供の名前です」


 ああ。そうか。そうだな。おれらの子供なんだ。おれが名前つけなきゃな。


「太郎だ」


 そう気負わずに決められた。


「いい名ですね」


 向日葵のような咲くような笑い顔をお犬様は浮かべた。




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