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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第10章 狂気乱舞!!
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第124話 筆頭管領

【天正四年 堀久太郎秀政】


 日ノ本を壊して新しい日ノ本を作る。右大将様のお言葉はそう言える。確かに、聞こえる分にはそれで構わないにだが、深く考えれば考えるほど、どつぼに嵌まりわからなくなってくる。


 思うに、織田信長公の言葉というものは、感覚で聞くものなのだろう。故にその短い言葉だって感覚で自然、どうなるかを感じ、家臣団は思い思いに行動する。無茶苦茶なようである意味理に敵っているのかもしれない。


 尾張の土豪から天下を取るとなればそれくらい無茶苦茶なことをしなければならないのかもしれない。


 感覚で知れるか。はたまた考えてわからなくなるか。


 それは織田家臣の一つの試練のようなものだろう。


「右大将様、佐久間様がお目通りを願っております」


 右大将様の寵愛を受けし小姓、お乱が口を開く。


 たしか顕如は石山明け渡しを受け入れたと聞いたが。


「入れ」


 お乱が襖を開けると、佐久間様が入ってきた。なにやら思い詰めた顔をしている。


「どうした」


「いえ、右大将様。今更ではございますが……石山を攻めませぬか?」


「言え」


「はっ」


 佐久間様が汗を垂らしたその顔をあげる。


「斑鳩の蘇我家しかり、平安の平相国しかり朝廷をその抑え込もうとした勢力はすべて滅しております。ここは朝廷と争わぬ方がよろしきかと……」


 まさかの意見か。いや……諫言か。


「佐久間ぁ!」


 透き通った大声を上げた右大将様は勢いよく立ち上がり、佐久間様の顔に右拳を思いっきりねじ込んだ。


 佐久間様の体が飛ばされる。


 そのまま屹立した右大将様は悠然と佐久間様を見詰めた。


「佐久間右衛門尉……その職務怠慢、武功を挙げぬことはもはや許されぬ。その行為に目はつぶれぬ。あまつさえわれの決定に口を挟むなど増長も甚だしい。管領の任を解き、その領土を没収する。乱丸!」


「はっ」


「こやつをつれていけ」


「参りましょう。佐久間様……」


 ふらふらと立ち上がった佐久間様は乱丸の肩を借りながら退出していった。


 しかしわしは知っている。右大将様が、織田信長公が長い台詞を発するときはやるせない時なのだ。


「……佐久間様は、覚悟しておったと思われます」


 慰めにもならぬが、右大将様に平伏する。


「残念だ」


 そこで終わると思われた言葉にはまだ続きがあった。


「あの時、家老で

 われの家督相続を支持したのはあやつだけであった」


 ふと、遠くに視線をやっている。それは遠き昔、尾張の豪族に過ぎなかった時期を見ているのか。どうなのか。


「光秀を向かわせよ」


「はっ」


【天正四年

 下間刑部頼廉】


「似合ってるか」


 そう言っておどけた上人の服装は杖、網笠、白い着流、それにお椀といった托鉢僧の格好であった。


「お似合いです」


「うれしいこと言ってくれるやないか」


「しかし、まことお一人でよろしいのですか」


 この人は紀州鷺ノ宮に一人でいくと言ったのだ。それも船ではなく歩きで。


「ええんや。そろそろ修行しなな。それに頼廉。あんたはもうちょっと活躍できるんちゃうか」


「……わかりませぬ」


「はは、そうか。なあに、わしはな、説法しながら物乞いしながらいくんや。おもろそうやろ」


 そう言って笑う上人は本当に嬉しそうだ。見ていてこっちも嬉しくなる。


「まずはお経からやな」


 上人は、本願寺顕如は負けた。だが間違いなく信長に勝っている。これは間違いない。わしはこう思う。


 日はぎらぎらと輝き、肌寒い風を和らげている。それを知ってか知らぬか石山の小川は綺麗なせせらぎをわしに見せていた。


「ほなまた」


 そう言って歩き始めた上人の後ろ姿に頭を下げた。


【天正四年

 斎藤内蔵助利三】


 勝者とはかくも禍々しき御仁なのか。斜め前の殿の横顔を見るとふと思う。


「うぬを大坂代官とし佐久間の寄騎のうぬの寄騎とする」


 右大将様のこの一言により、役職などすべてを剥がれた佐久間様の権益と本願寺の権益はすべて殿の掌に収まるかたちとなった。


 坂本に丹波、それに大坂、更には後見人を務める大和に傘下と相成った和泉の蜂屋、河内の池田。


 つまりもう我が殿、明智日向守を越えるのは安土の右大将様と岐阜の上様だけだ。


 莫大な権益に動員兵力。すべてにひけをとらない。


 そう。幕府筆頭管領と成ったのだ。


 織田家に仕え始めたのは山田大隅守と同時期。しかし室町に仕え始めたのはこの方のほうが遅い。


 一番遅くに仕え、筆頭となったのだ。


「内蔵助」


「はっ」


 人の注目、羨望、嫉妬、妬み、それらを一身に背負うこととなった御仁の言葉に反応する。


「これから忙しくなりますよ」


「望むところでございます」


 不適に笑う殿をじっと見る。


 よき人に仕えたものよ。いや……


 空を仰いでため息をついた。


 禍々しきは力の証しなのやもしれん。だからこそ筆頭管領の席次に座しているのやもしれぬ。


「大坂に向かいます。付いてきて下さい」


「御意」


 しかし筆頭管領を狙うのは他の管領も同じ。今度からは狙われる。だがそれがどうしたというのか。


 この御方が、明智日向守光秀が負けるはすがない。



 

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