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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第10章 狂気乱舞!!
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第123話 救民

【天正四年 織田右近衛大将信長】


「近衛を調略致しました」


「……彼奴も阿呆か」


 大政大臣とてこの程度。われが朝廷を滅ぼさぬと信じきっておる。


「これにてあとは顕如の意向のみと……」


「ふん」


 あやつはどうでるか。わからない。だが、ここで本願寺顕如という男がわかる気がする。


【天正四年

 本願寺顕如光佐】


 救民。民を救う。こんな大それたことを思うようになったのは何故か。それは、はっきりとしない。


 強いていうのならばわしは体が大きかった。


 人よりも大きい体躯を持った意味を考えると、それは民を救う、そういう結論になった。


 幸いにも堅牢なる石山に大量の財貨と兵糧はあった。それに本願寺を信奉する信者もおった。


 だからこそ、世をぶち壊し何もかもを呑み込もうと欲する織田右近衛大将信長にも抗えた。


 だが、それも終わりのようや。今から決めなあかんのは幕開きのこと。


 石山を明け渡すか玉砕覚悟で籠るか。どっちでもええ。ええが、最後まで信者と向き合いたい。


「いくか……」


 石山、また別名を大坂に住む信者と話し合おうやないか。


「あ、顕如はん!」


「顕如はーん!」


「おうおう!今からちょっとわしと話せんか!」


 わしを歓待してくれる信者に対応する。皆と車座になる。


「ほんま、堪忍してや。織田に負けてもうた」


 そう言って、べろをちょろっと出すと、周りで爆笑が起きた。


「上人はん!なにやってますのや」


「ほんまやほんまや」


「まあまあ、話し戻さしてや!」


 多人数と話すなんざやっぱ難しいもんや。


「でや、石山を明け渡すか、最後まで抗って死ぬか。抗うんやったらここも燃やされる」


「でも、ほんまに石山を明け渡したら織田は何もせんのかー?」


「それは心配ないで」


 朝廷の名を借りてまでの降伏勧告。信長の考えは十中八句、朝廷を支配下に置くことだ。それならば、のめばなにもしてこないはず。


「顕如はんが言うんやったらそうなんやろな」


 一人の信者の物言いに周りもうんうんと頷く。まったく。敗北したはずのわしをこうも信用してくれるんか。感謝とかを通り越して苦笑いしかでてこない。


「明け渡したら上人はんはどうなんのや」


「紀州鷺ノ宮で暮らせやと」


 鷺ノ宮など聞いたこともない地名だ。だがまあどうにかなるやろ。


 場が静かになる。なんだかわしは耐えきれず口を開く。


「わしのことはどないでもええ。やからもっと気楽にいこうや。な?な?」


 両手を広げて皆の衆の意見を求めるが、みんな唸るように言葉を出さない。


「まあ、みんなが戦う言うんならわしも全力で、戦う。そして華々しく散ったる」


 どんと胸を叩く。


「うーん。上人はんがいない石山はちょっと想像できん。なんかなあ、不安なんや」


「せやなあ。なあ顕如はん。顕如はんがおらんようなったらここは誰が治めんのや」


「佐久間はん、やな」


 ここ本願寺方面軍を率いてきたのは佐久間はんやからなぁ。多分、そうなるやろ。多分、代官という形やと思うけど。


「ええ~なんかおもんないなぁ」


「おもんないってお前!おもろさは関係ないやろが!」


 どっと場が沸く。よかった。やっとようやく盛り上がった。


「じゃあ、戦いたいわ。上人はんがおらん石山なんざわからん」


「せやな」


「おいおい、本気か?」


 戦えば死ぬ。それは間違いない。信長の考えは無視として逆らえば殺される。


「まあ、しゃあないやろ」


 結構、あっけらかんとしている。


「上人、上人」


「なんや」


「ほら、あれや。祇園精舎の鐘の声……これなんやったっけ?」


「平家物語かいな」


 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きありから始まるやつだ。


「ようしっとうな。そんなもん」


「学あるのぉー」


「まあまあ、ちょっと喋らしてや」


 どう言ったさっきの男は少し首をもたげた。


「この日ノ本やって長年の時が流れて、そしてたくさんの人が栄えていったわけや。琵琶法師はん曰く」


「なんや。琵琶法師は作者やないで」


「ちょっと、上人はん。茶化さんといてや」 


 また笑いが起こる。こういうのは楽しい。


「でや、色んなもんが興っては滅びてまた興っては滅びて、それを繰り返してきたわけやろ」


「せやな」


 今、興っている信長やってその歯車の一つに過ぎへんのかもしらん。


「でもかわらんもんだってあると思うんや」


 なぜか言葉に重みがあり聞かないといけない。なんだかそんな気がした。


「いつもわしらをな、大それた理想を持ち、それに向かってあきらめずに進み、結果としてわしらを導いてくれる、そんな人が必要なんはいつの世でも変わらんと思うで」


 冬の真昼の空は抜けるような青空で、それには似合わない寒い風がふわっと立って、わしらの体を揺さぶった。それはそれは今まで飽きるほど体感してきたものだったがなんだか新鮮やった。



 

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