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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第9章 播磨平定!!
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第111話 隅州、筑州

【天正四年 山田大隅守信勝】


 毛利浦上連合軍は四万もの大軍で最前線である上月を囲んだらしい。


 ここから上月まで三日でいける。そこで上月を救援する。


「備中が出陣か」


「恐らくそのようで」


 毛利家当主、備中守隆元が率いているのだったら、向こうも本気ということだ。


 ただ、まあ、まさかあいつらもおれが別所小三郎を討ち取っちまうとは思ってもいなかっただろう。

 

 山田軍一万二千。敵は一万を上月に割くとして三万もの大軍とあたることになる。


 それにしても憎きは宇喜多だよ。


 何が機を見て裏切りますだ。いつまでも浦上遠江の犬じゃねえか。


 この乱世、騙される方が悪いと言う。ならおれが悪いんだったら

 挽回してやる。宇喜多、てめえは八つ裂き決定だ。


 そんなこと考えながら進んでると桐三七の旗印が見えた。


 室町幕府でよく見た旗ではあるが、誰だ。


 そんなこと考えていると、その軍勢の先頭で馬に乗りながらぶんぶん手を振り回している小柄な男が見える。


「……筑州殿か」


 秀吉だな。うん。秀吉だ。


「ワハハハッ!隅州殿!久し振りですなっ!われら八千、右大将様の御下知で参上!」


 ワハハハと高笑いをあげる秀吉は信長の真似か、なんなのか南蛮マントを着用し、冑も金ぴかのんが無数にある、太陽の後光をイメージしたやつを付けていた。


「八千とは……三好のほうは大丈夫なんすか?」


 阿波は三好の本貫であり本拠地でありその財源の捻出元である場所だ。


「ええ、もう手筈はついておりますよ」


 ニヤッと笑った秀吉は、目をぎらつかせた。


「逆賊、義栄めも討ち取れまするな」


 一応、包囲網の勢力に担がれている足利義栄を討ち取れれば、過大な成果である。


「それに」


 いきなり、秀吉はおれの手を握った。おれはぎょっとして、その目をまじまじと見下ろす。


「ここで毛利を倒せば、四国中の豪族がわしに従うであろうし」


 それが本当であつかどうかはわからないが、そうでなくとも、状況は幕府に有利に働くに違いない。 山陰山陽。それに四国、西国が平定されれば、一気に九州に雪崩れ込んでやる。


「そうですね。上方は不識庵との戦を避けられないと同様に、

 こっちも毛利備中との戦は避けられないでしょうし」


 北陸を怒濤の勢いで南下してきそうな上杉不識庵謙信とは恐らく越前でぶつかり、毛利浦上とは上月でぶつかる。どちらも落とせない天下平定の大事な試練だ。


 この毛利浦上来襲は、浦上の上月攻めを毛利が援軍しているという建前だ。だからおれらがきたら浦上が上月を囲み、毛利がおれらを迎撃しようとするだろう。


 こい。毛利。


 山田羽柴連合軍、二万。こっちの指揮官は、農民から幕府管領にまで登り詰めた出頭人、羽柴筑前守秀吉と、なんといっても最強無敵、生けるチート、山田大隅守が率いるんだ。そうそう負けねえよ。


「奈佐水軍っ!上月の海路、封鎖成功との由!」


「よっしゃ!」


 使者の報告におれはガッツポーズをあげる。それを見ていた助衛門がにたにたしながら真似していたので


「うるせえよチビ!」


 とそのまま、振り上げた拳を降り下ろし、鉄拳教育を施してやった。



【天正四年 宇喜多和泉守直家】


「此度の目的は尼子討滅にあり」


 連合軍の実質的総大将である毛利備中守が口を開き回りを見回した。


「山田大隅の首ではないので?」


「左衛門佐」


 間髪いれず、備中守は発言した小早川左衛門佐の名をよんだ。


「大隅の首をとったとて、誰に播磨を任す?」


「一族、もくしは浦上殿でよろしきかと」


「一族はわが経営にかかせぬ、浦上殿は播磨一国を経営する人材がおるかね?如何か、遠州殿」


 一応、わが主である浦上遠江様に話がふられる。


「残念ながら、備州殿のおっしゃる通り……」


 おい。待たぬか。没落せし宇喜多を復興させ主家であった浦上と並ぶ勢力を保持したわしを忘れたとでも言うつもりか。


 だから、行け好かぬ。この疑似貴族は。だが、誤解してほしくはないが、好きだろうが、憎かろうが、恩があろうが、なかろうが、浦上家は滅ぼす。それが宇喜多の為なのだ。それに、浦上家に殺された、浦上に尽くしたが、殺されたわが祖父の為でもある。


「播磨を任すに値せし、別所小三郎殿は既に討死申した。三ヶ国の国境にある上月、さらには毛利の不倶懐天たる尼子討滅にのみ全力を注ぐべし」


 馬鹿か。馬鹿であるか。織田を見ろ。狂ったかのように領国を拡大させながら滅びず、転びず、まだ現在まで残ってるじゃないか。それが現実。この乱世、後先考えぬ者ほど生き残れるのだ。まあ、そこに少ないながらの計算も必要だがな。


 毛利備中守、噂と違う木偶か。なんぞや。


 ……幕府に身を寄せるときは近いのやもしれぬ。


 ふいに、山田大隅の大笑いしている顔が思い浮かんだ。


 はて。山田大隅のこのような顔、見たことないのだがな。それが何故、浮かぶ。


 そういえば、一人息子の八郎も笑っていたな。


 何を考えているのだ。苦笑いを浮かべる。八郎と大隅など比べるべくもなし。


 浦上を食い破り、山田に取り入り、宇喜多を末代まで残す。それがわしの戦国よ。

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