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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第9章 播磨平定!!
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第107話 博打を打つ播磨の両雄

【天正三年 山田大隅守信勝】


 高砂城の梶原重衛門は城下に火を放ち、三木にまで逃れた。このまま野口まで攻めよせてやろうかと思ったが、野口城は堅牢で名高い。無理をするのはやめておいた。


 姫路に帰って、別所成敗の会議をやっていたときに、使者といかつい男が入ってきた。


 そいつは加古川城の糟屋玄蕃の使いでその横の世が世ならやくざの男は、玄蕃の次男で助衛門武則という男だった。


 糟屋武則の名は知っている。正史における七本槍の男だ。七本槍の中では唯一、西軍についた。


 加古川の糟屋玄蕃は次男を人質に出し、おれにつくということだ。つまりようやくやっと三木まで出れる。喉元に刀を突き刺してやった気分だ。


「助衛門、おれの小姓にしてやるよ」


「ははっ」


 いかつい面を少し輝かせた。


「殿っ!」


 すると、また男が飛び込んできた。


 なんだ。またいい知らせだといいな。


「上杉が春日山に兵を動員させているとのこと!」


 下座を纏める家臣たちが一斉にざわつく。


「落ち着けっ!」


 落ち着けと叫んだやつが一番ざわついているものだ。それは今も昔も変わらない。


「助衛門、こうなったが裏切ることは決して許さぬ」


「存じておりますよ」


 にやりと助衛門はした。


 とにかくだ。これにあわせて、毛利、別所、浦上は来る。信長抹殺にはこれは最大にして最高にてそしてもしかしたら最後のチャンスかもしれない。必ず来る。


 市川で負け、加古川を奪われ、播磨西部を取られた別所はここで巻き返さないとならないだろう。


「出陣だ」


「どこにざいますか」


「三木だ」


 手首を返し、扇で官兵衛を差した。


「毛利が来る前にどうにかせねばならねえだろ」


 毛利、浦上が来る前にも時間がかかるし、さらには上月も持つ。ならばその間に別所小三郎の首を取る。


「周りの城は如何しますか」


「捨て置け」


「しかし、三木は播磨一の堅牢なる城。時期尚早かと」


 ふうと小さく息を吐いた。


「浮浪人より成り上がったおれは何も失いたくはない。だからこそ、何もかもを失う覚悟をしないとだめなんだ」


 場が一瞬の静寂に包まれた。三木を二ヶ月やそこらで討てると考えるなんて正気の沙汰じゃない。むしろ馬鹿者の考えだ。だが、だからこそ、この戦国乱世に相応しいんだろ。


「さすがは、殿」


 助衛門が立ち上がり文字どおり叫んだ。


「策はいかがなさいますか?」


 にやつく官兵衛におれは真面目な顔をして対応する。


「それはてめえと祐光が考えんだな」


「御意!」


 床に頭を叩きつけるかのごとく官兵衛は思いっきり平伏した。


「神吉、櫛橋、糟屋も動員致せ。一万二千の兵にて三木を落とす」


 馬を曳かせ、飛び乗ったとき、使いが来た。


「別所側の僧兵、及び、野口城と淡河城以外の兵、三木に入りました」


 籠城のため防備を固めたか。三木で耐え、毛利、浦上を待つつもりらしい。極めて常識的よ。だが、それでいい。常識的な相手にほど博打はうちがいがあるんだろ。


【天正三年

 別所小三郎長治】


 三木を僅かな期間で落とすつもりか。山田大隅よ。奇跡を願うか。ただ、願うのであれば、忘れるな。奇跡を願うのは、そなただけではないことを。


 奇跡を願おうた場合、その者は目の前のことしか見えなくなる。その様な相手にこそ。博打は通りやすいものだ。


 確率がもっとも高い時が来た。この誰もが思い付く一撃必殺一発逆転の戦略。


 それは奇襲。


 敵は平井山に陣取るであろう。ならば、夜半にそれを奇襲する。


 奇策を用い、予想外なことばかり考えてきた貴様は、それだけしか考えていなかったお主はここで死ぬ。


「不慮の儀のさいのためわが息子を淡河に送ってほしい」


 息子は淡河殿のもとへ送る。その意味は淡河殿ならわかるであろう。わが命をうけた家臣は平伏する。


「わが別所四千のみ準備致せ」


「それはどういう……」


「奇襲よ、平井山にやつらが布陣したときの晩、奇襲をしかけん」


 場が静まり返る。どうした。怖じ気づいたのか。


「小三郎」


 叔父が真剣な眼差しをこちらに向ける。


「あの小さかったお前がよう博打を打つことをきめた。それでいい。家も別所も子々孫々も先祖も家臣もおまえの好きに致せ」


 腰の刀が抜かれ、上に掲げられた。


「なあ!お前ら!死ぬ気でいって山田の奴等に吠え面かかせようや!」


「うおおおおお!」


 それぞれの拳が天に突き上げられる。


 まさか、籠城するとばかり思いこみ、一世一代の博打をうってくるなど思わないだろう。また博打を打つのは自分だけだとでも思っておるだろう。山田大隅。


 その思い込みが敗因になる。付け入る隙になる。


「者共、その命運を天に任せよ」


 家臣たちが膝を床につき、二歩三歩、後に下がり、指をつき、平伏した。


 

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