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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第9章 播磨平定!!
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第105話 加賀で兵が徴発されておるらしい

【天正三年 山田大隅守信勝】


 信長に会う前に上月によることにした。

 上月を守る尼子孫三郎率いる尼子家臣団には正史通りにいけば悲しい運命がまちかまえている。


 それは、おれにどうにかできるかっていう問題でもない。


 だから、会ってなんかあったら逃げるように言うつもりだ。


「おお、山田殿」


 突然のアポ無し訪問だというのに、尼子殿はその端正な顔を一つも歪めず、おれを迎えてくれた。


「ちょっとな、顔を見に来たんだ」


「それはそれは」

 

 おれと尼子殿はくだらねえ雑談をやって、そして笑いあった。


「ちょっと、山中殿と話してもいいか?」


「ええ、呼びましょうか?」


「いや、おれが行くよ。部屋はどこだ?」


 よく考えたら武家の当主に、危なくなったら逃げろや、なんて言えるはずもない。それは侮辱だ。



「よう。鹿之助」


 その後世でも有名な名を呼び捨てにする。


「これは……山田様」


 訝しげな目をおれに向けてくる。


「まあ、単刀直入に申していいか?」


「はい。むしろまどろっこしいのは好きませぬ」


 それを聞いて、一つ小さく頷く。


「上月は前線だ。不慮の儀があれば尼子殿を説得し、城から出してくれ」



「不慮の儀……その儀がおきたとき山田様は何もしてくれませんので」


「そう言うな。東でもうるさいやつらが多いんだよ」


 正史通りにいけば、おれはこいつらを見捨てることになる。


「誤解致してほしくはござらぬ。七難八苦はむしろ望むところ。御家再興が為」


 おれは、じっとこちらを見据える鹿之助から目線を外した。


「幕府を頼んできたぬしたちを見捨てたくはないのだ」


「ありがたし」


 鹿之助が軽く頭を下げてから頭が上がるのをまって上月を退出した。


 ◇

 馬を走らせ、近江坂本に入った。ここは光秀の本拠地だ。相変わらず、光秀の人格からは想像できないぐらい、洗練されている。


 その光秀は東丹波を完全に抑え、西丹波を調略中であり丹波亀山城で政務を執っているという。丹波戦線は順調だ。どっかのだれかさんとは違って。


「はあ……」


 おれは安土の大手門をくぐった。


「遠きところご苦労様にございまする」


 安土にいる童がいた。前、登城したときにもいたな。こいつ。


「すまんが、名前は何て言うんだ?」


 そう言うと、この童はニコリと微笑んだ。


「森乱丸と申します。以後、お見知りおきを」


「蘭丸か。覚えたてぞ」


 森蘭丸か。信長の小姓として有名だな。そしてそのイケメンさで

 信長に取り入ったと聞いていたが、やはりイケメンだな。


 ……おれはホモじゃないぞ。


「右大将様は」


「お忙しきようで、暫しお待ちを」


「相わかった」


 おれは詰め間で待たされた。正座をするのもしんどいんで胡座を書いてみる。そして頬杖をついた。


 さて、おれは何故信長に呼ばれたのか。


 毛利攻めを命じられたのに、播磨平定に手こずっているおれを叱責するつもりか。


 いや、それだったらもっと早くに呼ばれているだろう。


 じゃあ、何だ。わざわざ安土にまで呼びつけて直々に言う用事とは。


「入れ」


 信長の声だ。あの朗々とした短く甲高い声。そしてここいら会ってないのに、その声を聞いていないのに、脳みそはこの声を覚えている。


 ふすまを小さく開け、八角形の間に、着座、平伏。


「無論、われはよく考えてうぬをよんだ」


 おや?とまずは思った。信長は少なくともおれといたときは、じっと長い時間をかけて口を開く。でも今回はすぐに言った。



 しかも、えらく抽象的なことを言っている。


「存じております」


 おれはすっと顔をあげた。


「そうか」


 信長はふっと笑った気がした。あくまで気だが。


「修理からの知らせよ。上杉領と相なった加賀で兵が徴発されておるらしい」


「それはっ」


「そうだ」


 信長は頷き、頬杖をついた。


「上杉不識庵、上洛よ」


「しかしまだ上洛と決まったわけでは……」


「見よ」


 そういうと言うと、信長は蘭丸より紙をとり、それをこちらに放り投げた。


 そこには、足利義栄公が御為に畿内に進撃し織田右大将めを駆逐する所存とあった。


「これは……」


「近衛よ。殊勝にもな」


 つまり、謙信が近衛にこの手紙を渡し、それを近衛が信長にわたしたと言うことか。大政大臣の近衛前久の名が出されて、おれは思わず肩が跳ねた。


「近衛殿にもということは公家調略も行っているということで……」


 思わず、不識庵が、という主語が抜けた。


「だったらなんだ」


 信長は眉ひとつ動かさない。


「われが信じるのはわれと貴様らよ。それ以外は眼中に無し」


「はっ」


 なんの、返事かおれはおれに疑問を持った。


「恐らく、毛利、浦上は来る。だが援軍は出せぬ」


 謙信上洛の為、南下すればそれに呼応して毛利、浦上は東進してくるだろう。だが、謙信に相対する信長率いる織田家は援軍が出せない、つまり単独で毛利、浦上に好戦しなくてはならないのか。


「死ぬ覚悟をしておけ。そうなれば犬の面倒はわれが見る」


「ご安心を」


 おれは、なぜかうれしそうに笑うことができた。


「覚悟はとうの昔にできております」


「そうか」


 おれは、安土を退出し、姫路へ馬を走らせた。



 

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