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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第9章 播磨平定!!
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第104話 別所小三郎長治

【天正三年 山田大隅守信勝】


 山田本陣二千五百と小寺五百あわせて

 三千は一気に慶次、多羅尾のもとへと合流しそのまま守勢より攻勢となり市川を押し渡るべく、前方の敵に切りかかった。


 総攻撃は大きな賭けだった。数に余裕がある右近、茨城殿に切りかかっている部隊が数を割き、こちらに向かわせれば包囲される危険はあった。


 だか、それはないと判断した。


 それぞれの部隊は豪族が自分と同格のはずの豪族や僧兵を率い、士気系統が不明確だ。それに向こうへいけなどの下知ができるはずもない。そんな部隊を寄騎などといって自由自在に付け替えていけるのは信長ぐらいなものだ。


 案の定、包囲はされず新手を得たおれたちは別所側を圧倒している。


 ここを突破し、祐光と共に別所小三郎を挟む。


「押せ押せっ!山田武士の武勇を示せっ!」


 左手で手綱握り締め、右手で刀を振り回す。中指がないからそんなに勢いよく振れないのが悲しい。



「ひけー!ひけっ!」


 やがて、敵が引いていく。


「真一文字に、別所小三郎のもとへ急げっ!追い首は捨置き捨てよ!」


 置き捨てる、つまり首を捨てることを命令する。


「置き捨てっ!置き捨ての御下知じゃあ!」


 馬廻り衆がおれの下知を馬を走らせながら反復する。


 下知が行き渡った。おれはこう判断し、刀を別所がいる方角に向ける。


「いくぞっ!小三郎の首をとれ!」


 おれが叫ぶや否やその方角へみんな走り始めた。

 

【天正三年 別所小三郎長治】


「北よりの軍勢の旗は杏葉牡丹、沼田三郎衛門かと」


「数は」


「およそ二千」


 ここで沼田か。山田大隅の右腕、竹田城城主と聞く。


「山田大隅、動きましたっ!」


 ……ほう。ここで前進か。つまりは沼田が南下、山田大隅は知っておったということか。いや、はなからこれが狙いで?


 ようはわしは、まんまと奴の掌の上で踊っていたに過ぎぬということか。


 前田、多羅尾、小寺、山田でおよそ五千。別所本陣を上回る。


 ほかの軍勢は、高山、茨城を打ち崩せておらぬか。


「小三郎、退くか?いまなら無傷で三木まで退けるぞ」


 

「いえ」


 敵、まず沼田は但馬よりの南下で疲弊しておるはずだ。ここはどうにかできる。ならば、今、迫ってきておる山田だが乱戦に持ち込めば勝敗は神のみにしかわからぬ。


「叔父上は一千を率い、但馬衆と当たってくだされ」


「……小三郎は」


「残りを率い、山田大隅へうちかかる所存」


 肩を、叔父に捕まれた。思わず睨んでしまった。


「死ぬ気か」


「いえ、山田大隅を討ち取るつもりにござるが、如何に?」


「待たぬか。死ぬぞ」


 肩を持つ手に力が入っている。それをふりほどく。


「死にませぬ」 


 戦はやってみないとわからないではないか。それを何を言っている。


「聞け。小三郎」


「何を申される。飽かば去りますぞ」


 少し挑発したが、叔父は動じなかった。長幼の序、別所の誇りと煩かった叔父とは思えない。


「山田大隅を倒すと決めたあの日より貴殿は成長した。あの臆病な小三郎が既にわしでは到底及ばないところまで成長した。だからこそ、だからこそ生きねばならんのだ」


 何かを言おうとしたが、それは言葉になる前に消えていった。


「ここで退けば、盟主の地位を失いまするぞ」


「それがなんじゃ」


 次は叔父の両手が肩に添えられる。ふっと汗の臭いがした。


「ほかのやつらがついてこんくても、わしらが、別所武士がついておる」 


 ここでわしが示した通り死ぬ気でうちかかれば山田大隅の首を討ち取れるのかもしれない。ただ、こんなに叔父が、家臣が、わしのことを認めて、わしのことを考えての発言を無下にすることなどできなかった。


 いや、それだけではない。


 別所武士と一緒なら、播磨を攻めとれる気がする。そんな気がする。


 右手を挙げる。思わず笑みが溢れる。


「退却じゃ」


 有史よりこんな希望に満ちし退却があったか。


「ハッハハ」


 あげた右手をおろし尻に鞭をやった。


【天正三年

 山田大隅守信勝】


 退却する別所四千を確認する。これで盟主の座を失ったに等しい。放り出された豪族共へも調略できるな。


「山田様、如何されます」


「とりあえず、祐光と合流すっぞ」


「はっ」


 とまあ、こんな感じで南下してきた、功労者(仮)、MVP(仮)の

 沼田くーんと合流。


「よう。但馬はどうだい?」


「平定した」 


「ほう」


 南但馬を制圧した時点でおれはこいつに貸した摂津衆をこっちに戻した。それで北但馬を平定したということは、南但馬衆だけを率いて成し遂げたということだ。


 やるじゃねえか。


 だが、そんなおれの心の声はいっきにかきけされた。


 ふと、祐光を見た。


 あっかんべーをしていた。


 おれは無言で平手で打った。


「冗談が通じねえんだな」


 なんか但馬でキャラが変わった気がする。


「で、どうする」


「馬首を西に向ける」


「ほう」


 つまり、右近、茨城殿に攻めかかっている豪族を攻撃するということだ。それぞれと結び、挟み撃ちだ。


「但馬衆と慶次は茨城殿へ向かへ。おれと官兵衛と多羅尾は右近のところへいくぞ」


「了解」


 そのまま、馬を走らせた。


 ◇


 残された豪族、僧兵の首をかなり取った。結果的には大勝利だ。だが、別所を逃したことは残念だ。


 とりあえず、姫路に戻ったおれは豪族共へ使者を発した。条件は本領安堵を認めてやるし、向こうへ求めたのは歴とした当主の嫡男、もしくは子供を差し出すことだ。


 さて、どこまでくるか。


 そんなおれのもとに来た。安土より発せられた使者が。


 曰く、安土に参上すべし。


 勿論、名前は織田右近衛大将信長。

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