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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第六章 ハーレム生活

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錯綜する情報

 冒険者ギルドの中を、俺は早足でせわしなく移動していた。


 まずは、依頼先から帰ってきて、リーダーのルナが受付で終了報告をした。

 食堂を借りて卵とじ丼を作って、食堂の従業員とギルドマスターに試食してもらう。

 食堂で一角ウサギの肉を全て買うというので、値段交渉。

 ギルドマスターから、一時間後に拘束している妖精族に卵とじ丼を差し入れるように言われた。


 そこで、また急がないといけなくなった。

 ギルドの解体部門に食堂の人と一緒に行って、一角ウサギを全部出す。

 数人分の肉だけ、すぐにくれと頼む。

 さらに、毛皮はぬいぐるみを作るから廃棄しないように説明。


「ああ? こんな破けやすいの、大変なんだけどな。丁寧にする分だけ時間がかかるから、手間賃を上乗せするぞ」

 それでもいいのかと訊かれ、了承する。


 サァラが、声を弾ませて言った。

「かわいいぬいぐるみ、絶対に流行るから!」


 ぬいぐるみの実物を見ていない解体職人はピンと来ないようで、軽く笑った。

「わかった、わかった。手間賃をもらえるなら、そのとおりやるから」

 物好きなやつもいるもんだなぁ、くらいに考えていたのだ。



 数日後、一角ウサギが大量に持ち込まれ、「早く丁寧に革にしろ」と急かされることになるとは、予想もできなかった。




 その間に、フォンと別の食堂の従業員が、米と醤油を買い足しに出かけていた。

「買い占めてしまったわ。大丈夫かしら?」

「この分量じゃ、明日のメニューにしたらすぐ完売になっちゃいますね。

 追加注文してきたのが、早く届くといいんですけど」


「食堂って、一日でそんなにたくさんの量が出るのか」

 ルナが驚いている。

「するすると食べられてしまうので、おかわりをする冒険者がたくさんいると思うんですよ。この、甘じょっぱさには、中毒性がありますからね」

 従業員は明日が楽しみだとニコニコしていた。



「あ、そろそろ差し入れの分を作るか」

 俺は壁の時計を見て立ち上がり、料理を始めた。


 街で暮らしていると太陽と鐘の音でざっくりした時間しかわからないが、ギルドのように時計がある場所ではきっちりと物事が動いていく。


 エレッサの街では時計を持っていることがステータスで、金持ちの証だった。

 こんな冒険者用の庶民的な食堂にも時計があるなんて、この国は本当に豊かなのだと思う。




 出来上がった丼ものは、ギルド職員が運んでいった。

 不用意に被害者と会わせることはないとのこと。


 ギルドマスターの部屋で、取り調べの内容を教えてもらった。


「あいつらが言うことだぞ。まだ、事実確認は取れていないからな」

 そう前置きをして、ギルドマスターは話し出した。



 捕まった人たちは、フォンの親族が送ってきた密偵だった。

 一攫千金を狙うような者でないと、別の大陸に行くような依頼は受けないらしい。


 風魔法の防音結界を無効にしたのは、同じだけの風魔法をぶつけたからだそうだ。

 つまり、魔力操作がとても匠だということが窺える。


 まず、フォンを育てた乳母は、指名手配されている過激派のメンバーだった。

 フォンの両親もそのメンバーで、フォンはその拠点で生まれ育ったという。


 ダンジョンの研究からその危険性を知り、その封鎖を訴える団体である。

 聞き入れられないので、徐々に現場で実力行使をするという行動を選択するようになった。


 ダンジョン内で、一般の冒険者たちを脅したり、拉致したり、暴行を加えたりしていた。

 そこで死亡者が出て、過激派として取締対象となった。

 両親と乳母たちは先頭に立って多くの被害者を出したため、殺人容疑で捕縛命令が出た。


 拠点を包囲されたときに、乳母はフォンを連れて逃げた。

 両親は抵抗するときに負傷。裁判を経て処刑された。


 フォンの祖父母は孫の行方を心配していたが、大陸を捜しても見つからないため、生存は絶望的かと諦めていた。


 ところが、エルフの国で指名手配犯が見つかり、その関連のニュースで孫らしき人物を見かけた。

 それで、人をやって探ろうとしたというわけだ。



 フォンはそこまで聞いて、顔をしかめた。

「調査対象に卑猥なことを言って、手を出そうとしたんですか?」

 言外に、「最低」と思っていることが滲み出ている。



「あの男たちがどこまで信用できるのか、どこまで本当のことか、現時点では判断できないな」

 ギルドマスターも同意する。ただ、聞き取った情報を共有しただけだ。


「もし、本当だったら、その乳母の居場所を教えてくれという依頼も来るかもしれないが……。

 事件に時効があるか、別の大陸にまで捕縛要請を出すのか、国によって違うだろう。

 どうなるかわからん。

 だが、乳母を逃がそうとはするなよ」

 逃亡を幇助したと見なされるとギルドマスターが忠告する。



 フォンの顔は白くなっていた。

 育ての親から聞いていたこととまったく違う情報に、感情が追いついていない。


 フォンの手を握ったら、驚くほど冷たかった。


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