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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第六章 ハーレム生活

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美味しいは正義

 翌日の午後に冒険者ギルドに寄ってみた。

 捕まった男たちは妖精族ということは認めたが、黙秘を続けているという。


 事態が動いていないならやれることはない。

 帰ろうとしたときに、俺は掲示板の古びた依頼書が、なぜか気になった。


 一角ウサギの討伐依頼だ。

 集団生活をする、さほど強くないモンスターなので、駆け出しの冒険者に好まれる依頼のはず。

 ギルド職員に声をかけて尋ねてみる。


「現場の養鶏場まで行くのに、森を抜けないといけないんです。そこは時折トレントが出るため、Cランク以上のメンバーがいないと受注許可がおりません。

 ですがCランクにとって、この依頼料は安すぎる。

 一角ウサギ自体はDランク、頑張ればEランクでも倒せるモンスターですから」

 職員が悩ましげに、ため息を吐いた。


「それで、受ける人がいないんね。あたいも読み飛ばしたもん」

 サァラが苦笑いした。

「冒険者としては当然の判断だと思います。けれど、時間が経つほど数が増えますでしょ?

 養鶏場も、ニワトリの被害と収入が得られないことで、そろそろ限界らしいんです」


「もしかして、最近卵の値段が上がっているのって……」

「この養鶏場からの納品が激減しているからです」

 トーマが興味を示したことで、職員は希望を見いだしたらしい。熱心に説明を始めた。


 ルナもサァラも手応えのないモンスターに食指が動かない様子。

「一角ウサギ、久々に食べたいな」

 焼いても煮てもいい。毛皮をきれいなまま仕留めれば、小遣い稼ぎにもなる。


「え、一角ウサギを食べるの?」

 ルナが驚いた声を出す。言われたこっちが驚く。

「あっさりしてて、美味いぞ。二、三年前のレスタール王国の一角ウサギブーム、知らない?」


「あ~、あったな。弱いやつらが雑魚を食ってるとか、そんな感じだった」

 ルナが頭をかきながら言った。

 なるほど。国が違えば……いや、レスタールもあのブームの前は貧乏人の食べ物って言われていたっけ。

 血液の中に味を落とす成分が含まれているから、一瞬で蒸発させるか丁寧に血抜きをすればいい。

 逆に言うと、それをしないと確かに不味いんだ。


「じゃあ、俺が美味いのを食わせてやるよ」

「ありがとうございます!」

 他のメンバーの反応を確認する前に、職員が大きな声でお礼を言った。

 すまん。先走った。




 二日後、俺たちは養鶏場の近くの林にいた。


 一角ウサギの巣穴の前に、フォンの風魔法で下草を刈って小さな広場を作る。

 入り口で薪を焚いて、風魔法で巣穴に送り込む。

 脱出してきた一角ウサギの角を、格闘家のサァラが掴む。その首をルナが落とした。


 俺はすかさず一角ウサギの足を、木の枝の間に張っているロープに吊した。二本重ねたロープの隙間に足を通せば、一角ウサギは宙づりになる。



 十羽ほど吊したところで、俺は「プランBに移行!」と声をかけた。つまり、今やっていたのがプランAだ。


 フォンが、小さな広場をぐるりと風の結界で囲む。


 ルナは腰を落として、飛び出してくる一角ウサギをなぎ払う。

「剣は水平を意識。足だけ狙って」サァラの指導が入った。


 ランクが低いモンスターなので、剣技を磨く訓練を兼ねているのだ。

 軌道がブレると、一角ウサギの本体を傷つけ、毛皮の値段が下がってしまう。


 複数頭がまとめて出てきたときは、俺がフォローして仕留める。

 でも、短剣と角の長さがほとんど変わらないものだから、ヒヤヒヤする。度胸試しみたいな気分だ。


 薪の煙と一角ウサギの血の臭い。懸命に生きようとしている者同士の戦い。こちらだって油断したら大怪我をする。


 

 ルナが疲れて腰が上がってくると、刃が斜めになって一角ウサギの胴体を傷つけてしまう。

 「ちっ、しくじった」

 俺は集中力が切れたところで、角で腕に擦り傷ができた。 

 風の結界が薄くなったところから逃げ出したのを、サァラが仕留めて「ここ薄くなってる!」と指摘する。


 もっと効率的な戦い方もできるが、今回は強化トレーニングだ。

 苦しいのを乗り越えたら、実力アップしてるかも。がんばろー!



 ルナが「太ももがぷるぷるしてきた」と泣き言を言い始めた。

 フォンも「均等に魔力を注ぐのが……そろそろ限界」と、額に汗が浮いている。


「じゃあ、今日はここまでだねん?」

 サァラが確認してから、パンと手を叩いた。終了の合図だ。



 商業ギルドから借りてきた保冷バッグに一角ウサギを詰め、養鶏場に戻ることにした。

 依頼主は五十羽以上いるのを確認すると、依頼完了証明のサインをくれた。


「数を減らしてくれるだけで、ありがたいよ。

 けど、角だけでいいのに、本体まで持って帰ってきたのかい」

 不思議な顔をする。



「ふふふ、まあ、見ていてくださいよ」

 俺は不適な笑いを漏らし、台所と作業場を借りる。


 作業場では、ルナとサァラに血抜きをしていない一角ウサギを処理してもらう。


 卵とタマネギを譲ってもらい、血抜き済みの一角ウサギを解体する。

 食材をもらって、代わりに養鶏場の人たちの賄いも作る。

 昨日、市場で仕入れてきた米と醤油を取り出した。


 フォンが米の炊き方を知っているというので、そちらは任せる。

 逆に「トーマはよく米を食べようと思ったわね」と言われてしまった。

 こちらは小麦粉が中心だから、珍しいかもな。


「宿屋で働いていると、商人からいろんな話を聞けるからさ」


 一角ウサギはニワトリよりもパサつくから、薄く切って使う。タマネギも薄切り。

 フライパンから砂糖と醤油のいい匂いが立つと、養鶏場の従業員も台所をのぞきにきた。

 時間があったら出汁から作るんだけど、体を動かしたあとは味が濃くてもいいだろう。


 溶き卵を半分入れて、固まりかけたところをかき混ぜる。

 仕上げに残りの卵を入れて、蓋をして余熱を通す。



 血抜き作業を終えたルナとサァラが戻ってきた。

 作るところを眺めている従業員に、他の人にも声をかけてもらうように頼んだ。



 炊き上がったご飯を器によそって、その上に卵とじを乗せたら完成。


「卵とじご飯、できました。順番に取りに来てください」

 声をかけると、「待ってました」と元気な声が返ってくる。


 うんうん。匂いだけで美味しいってわかるよね。



 フォンが「オヤコドンだわ」と呟いた。


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