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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第六章 ハーレム生活

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過去がちらつく

 居酒屋で暴れた者たちを引き取りに、ギルドから腕っぷしに自信がある職員が来た。

 第一線を離れた冒険者なので、それなりに強い。


「なんだ、こいつら? 冒険者にしちゃあ……汚れてない?」

「ぷは。それじゃあ、俺たちが汚いみてぇじゃねえか」


 ギルド職員とは顔なじみの冒険者が混ぜっ返す。


「埃まみれで飲みに来てるくせに、きれいなつもりかよ」

「そんなのを気にするなら、冒険者になるなってんだ」

「ちげえねぇ」

 酔っぱらい達は、どんなことでも盛り上がる。


 トーマの戦いを巡る賭けに負けた者が、勝った者に金を渡す。それだけの行為なのに、悔しがる者や賭けに参加していなくてもはやし立てる者がいて、賑やかさを増す。



 素面の職員は、ふっと笑いを漏らした。

「こいつらは放っておいて、花猫風月は同行してくれるか」


 サァラが揚げた肉を口に放り込んで、指を舐める。

 先ほど代金は精算している。追加注文をしないで、のんびりとギルド職員を待っていたのだ。


 ルナが麦酒を飲み干し、テーブルにタンと音を立てて置いた。

「よし、行くか」




 ギルドマスターは、俺たちの顔を見るなりげんなりとした顔をする。

「またお前らか。……もう、帰ろうと思ってたのに」



「あたし達だって、晩飯を切り上げて来てあげてんだけど」

「まあ、そうだな。で、今度はなんだ」


 連行してきた職員が、経緯を説明する。


「酒場で因縁をつけてきた奴らが怪しいと?」

「冒険者に偽装した何者か、という印象ですね」



「レスタール王国から来た人間じゃなさそぅだよ。ごま油の匂いじゃない」

 サァラが自分の鼻を指さした。


「……妖精族ですわ」

 フォンが手の震えを押さえながら言った。


「海の向こうからってことか?」

「ええ、おそらく。私のことを確認しに来たんだと思います」


「うわ、また厄介な案件か。勘弁してくれ」

「ギルド職員なのに、さっきから何なの? 失礼にもほどがある」

 ルナが怒り出した。


「今日、娘さんの誕生日なんですよ。すでに約束の時間を過ぎてるんです。

 これで帰らなかったら、離婚の危機で」

 ギルド職員がさらっと事情を漏らした。


「それなら、後日でよろしいんじゃありませんか? 怪しい者たちは捕縛していますし、明日にしましょう」

「どんな事情か、このままじゃ気になるんだが……」


「家庭と仕事とどちらを取りますの?」

 フォンが顔だけは笑顔で、詰問する。


「くそ。ホテルに延泊していいから、身の回りに気をつけろよ」

 言い放って、ギルドマスターは慌ただしく出て行った。


 それをフォンは目を細めて見送っていた。

 なんだか、泣きそうな……?



「さて、簡単な調書だけ作りたいんですけど、ご協力願えますか?」


「ホテル代くらいは、協力するにゃ」

 サァラはフォンの手を握って、ソファーに座った。


「部屋の主がいなくなったけど、このままここでいいのか?」

 ルナが訊いた。


「本当なら移動した方がいいんでしょうけど……面倒くさいし、許してくれると思います」

 職員はおおらかに笑った。




 フォンが彼らを妖精族だと推測した理由が語られた。

「私の父は妖精族でした。発表した研究が権力者の気分を害して、一族が連座で処刑されています。

 幼かった私は、使用人の子としてこの大陸に逃げてきました」


 フォンは息を吐いた。

「トーマの件でエルフの指名手配犯がつかまりましたでしょ。

 おそらく、それでトゥルメル支部を気にかけていて……私が妖精族だと気付いたのかもしれません」


 ルナもサァラも驚いた様子はない。知っていたのか。


「その事件の生き残りだと?」

 職員はメモを取る手をとめ、顔を上げた。


「いえ。研究内容を理解できるかわからない子どものことなど、海を渡ってまで追いかけてこないと思います。

 妖精族という種族自体、あまり拠点を離れることがありません。念のため、事情を確認したいのではないでしょうか」


 納得できるような、できないような……気持ち悪さが残った。


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