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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第六章 ハーレム生活

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気になる状況

 ルナの好奇心を相手にしていたら、苦悩はどこかに押しやられてしまった。

 普段は男のようなしゃべり方をする口から、可愛い声が出てくるのも新鮮だった。

 自然に愛おしいという気持ちが湧いてくるのが不思議だ。



 事後の余韻を味わうというよりも、鍛錬の後のような爽快さがあったように思う。

 さっと湯を浴びて着替え、部屋の掃除を頼んでホテルのロビーで二人を待つことにした。


 今夜もこのホテルに四人で泊まるのに、事後の空気が残っていたら駄目だろ。



「トーマは気にしぃだな」

「ルナは気にならないのか?」

 女性の方が神経質になるものだと思っていた。


 ホテルの入り口が見えるソファーに座り、飲み物を注文した。

 今日までのホテル代は、冒険者ギルドが捜査協力として出してくれている。だから、飲食はいつもより贅沢できた。ホテルの中の食事は、高いけどな。


 明日にはチェックアウトするから、贅沢を味わってしまおう。

 果実水が冷えていて美味しい。常温の果実水とは違うおいしさがある。



「なんとなくだけど、こういうきれいな環境に慣れていると、動物的な感じが気になるんじゃないかな」

「なんの話だ?」

「交わった痕跡が気にならないのかって話」


 まだ、その話は続いてたのか。果実水を吹き出すかと思った。



「色気のない話をしているわね」

 いつの間にかフォンが目の前に立っていた。

 向かいのソファーに腰掛けながら、飲み物を注文する。


「サァラが戻ってきたら、外に食事に行きましょうか。魔石が品薄になっているみたいだから、そういう依頼があるかもしれないわね」

 フォンがさらりと話題を変えた。



「ホテルのレストランじゃなく、外に行くのか?」

 あれから野次馬に絡まれるのと、レスタール王国からの接触を警戒して、できるだけホテルに籠もっていた。


「周囲の反応を見て、明日からの宿を考えたいの。

 依頼を受けて出発するまで二、三日だろうけれど、警備がいる宿にする必要があるかどうか」


 そうか。そういう観点から選ぶ必要があるもんな。



「おまたせ~」

 サァラがフォンに背後から抱きついた。


「いい感じの依頼はあったのかしら?」

 フォンがサァラの腕を撫でる。


「ん~、あ、いいもの飲んでる。あたいも飲みたい」

「それでもいいけど、外に食べに行こうって話をしてたんだ。すぐに麦酒の方がいいんじゃね?」

 ルナがサァラをからかうように言った。


「モチのロンだ! 今、すぐに行こうにゃ」




 庶民的な居酒屋で、麦酒の入った木の器で乾杯をする。

「ぷは~。いいね、この感じ。

 お上品なのもたまにはいいけど、生き返るって気がする」

 ルナが楽しそうに言った。


「肉も、肉肉しくて、うまいにゃ」

 サァラが肉にかぶりつく。ここでは、上品に一口大に切り分ける必要がない。


 フォンはチラリと周囲に目を向け、そっと風の魔法で防音の結界を張った。

「サァラ、どんな依頼を受けてきたの?」


「ああ、それにゃ。迷って、まだ受注してないん」

「珍しいわね。どんなところで迷っているの?」

 フォンはサーモンとタマネギが乗ったパンを手にしたまま、サァラに先を促した。


「その前に……指名依頼を断った」

「なんで? 指名料が付くからお得だろ?」

 ルナが片肘ついて、サァラの方に身を乗り出した。


「……レスタール王国の貴族からだって。ギルド職員さんが教えてくれた」

 サァラが口元に手を添え、悪巧みをするような楽しげな顔で囁く。


「ああー」と納得の声が、誰からともなくあがった。


「俺狙いかぁ~」

 思わずテーブルに両肘をついて顔を覆う。しつこいな、レスタール。


「だろうね」

 ルナがポンと肩を叩いた。

 その手に……心なしか距離が近い感じがした。


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