トレント討伐
森と山岳地帯の境目が目撃現場だ。
トレントは森の中にいるだけなら、それほど問題はない。
今回は鉱山の近くに来てしまい、討伐依頼が来た。
鉱山まで定期輸送便があるので、それに乗せてもらった。
荷物を運搬するものなので、正直、乗り心地はよくない。
だが、行き交う獣人たちを、それとなく眺める旅は楽しかった。
ウシの獣人と放牧されているウシの違いとか……気になるが、訊いたら失礼に当たるんだろうな。
ネコ獣人もネコと違うわけだし。
「荷物がコンパクトで楽!」
ネコ獣人のサァラが荷物を背負ったまま、ぴょんぴょんジャンプする。
鉱山の麓に着き、荷馬車とは別行動になった。
「いや、重量は変わってないぞ。うまく詰めてるだけで」
「それが、不思議と快適なんですわ」
「左右のバランスを気にしないでいいからじゃねぇ?」
フォンとルナにも褒められた。
嬉しいような恥ずかしいような気分だ。
目的地までの上り坂が苦にならないって、どういう理屈なんだろう。我ながら単純だな。
鉱山の森が残っている部分で野宿をする。
トレントの縄張りに入って、襲ってくるのを待つのだ。
これ、トレントが平和に暮らしているところを人間たちが鉱山開発しちゃっただけでは……?
まあ、依頼を受けてしまえば、あとは倒すだけなんだけど。
野宿して二日目、無事にトレントを遭遇した。
まず、フォンの風魔法で枝先を切り落としてく。複数の枝から同時に攻撃されるのを防ぐためだ。
次に、幹に風刃を飛ばす。表面に傷をつけるのが精一杯だが、今回はそれでいい。
俺の周りに風で防御壁を張ってもらい、表皮の傷の中から、致命傷を与えられそうな場所に短刀を突き立てる。短刀には、樹皮を柔らかくする薬が塗ってある。
数カ所マーキングしたら、すぐに離脱。
風の防御壁を格闘家のサァラに譲り、サァラが短刀を柄まで押し込む。
俺が刺すのよりも、力を入れて押し込むのは時間がかかる。
しかも、どこを攻撃されるか予想できる状態――トレントの反撃も容易なのだ。
三つ目のナイフを押し込んだとき、トレントの枝がサァラを襲った。
風の防御壁が衝撃を吸収しても、大きめの枝は避けられない。
ごおっと音を立てる枝。動きが鈍くなっても、重量級の威力だ。
飛ばされたあと、フォンが防御壁を解除する。飛ばされる方向と逆側から風を当て、落下の威力を削いでいく。
その下に俺が走り込む。間に合え!
なんとか、頭を打つのだけ防げればいい。
サァラの腕を掴んで、抱きかかえる。勢いが消せずに、木の幹に体を打ち付けた。
俺はサァラを抱えたまま、木の根元にへたり込んだ。
フォンはそれを見届けると、トレントに向き合う。
剣士のルナは、トレントが俺たちの後を追わないように、ずっと半月刀を向けて牽制している。
太い枝が弧を描き、空気を震わせた。半月刀とぶつかり、硬質な音が響く。
フォンはルナに防御壁を張る。
「よっしゃぁ」とルナが気合いを入れ、刺さった短刀と短刀の間に切り込む。
「ぐあぁあ」とトレントがうなり声をあげた。
一旦、トレントの攻撃範囲の外に退避したルナは、呼吸を整えて、もう一度別の短刀のラインを攻撃する。
木こりが木を切るように、横に裂け目が現れた。
そこから樹皮がこぼれ出す。
サァラの意識が戻ったのを確認し、俺は走ってトレントの方に戻った。
さっと、ナイフを投げる。短刀より細いナイフ。
急所を攻撃するのではなく、意識をルナから離すためだ。
トレントの視線が俺のナイフに向く。
意識が逸れたところに、ルナが最後の一振りで傷を作る。
「これで、どうだ!」
トレントは苦しんでいるが、まだ倒れない。
そこにサァラが駆け込んできた。
フォンの風の防御壁は間に合わない。
動きが緩慢になっても、振り回される枝は肌を切り裂くだろう。
それをかいくぐり、サァラは渾身の蹴りを叩き込んだ。
「おりゃぁあ!」
トレントはルナが切りつけた線で上下に分断され、地響きを立てて倒れた。
何本もの、モンスターではない木々を道連れに。
フォンがうずくまり「ま、魔力切れ」と言って、パタリと倒れた。
ルナは半月刀を地面に横たえ、腕をぷるぷるさせている。
サァラはしゃがみ込んで、ぜえぜえと荒い息を吐いている。
俺も、地面にペタリと座り込んだ。
せ、背中が痛え!




