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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第四章 ハーレム状態

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驚きの現在地

 ふわふわの毛並みが気持ちよくて、とろとろに蕩かされて、俺は天国にいるのかと思った。


 朝日で目が覚めたとき、彼女は俺の腕の中にいた。

 もしかしたら昨夜の甘い時間が再び……と思った俺は悪くない。普通だよな?



「ん~、すっきり爽快。いい朝だね」

 ネコ獣人のサァラは、ベッドの上で伸びをした。


 恥じらいもなく裸でベッドから出て、戸棚から服を出してパパッと着替える。

「今日は、あたいが朝食を作ったげるね」

 と、鼻歌交じりで出て行った。



 え、なにこの流れ……。呆気にとられる俺。

 軽く失意のまま、パンツだけ履いて、昨日の服を抱えて客間に戻る。

 そういえば、この服、客間の戸棚の中から選んだやつだ。

 サイズも趣味も様々で、一人暮らしの女性の家になぜだろうと、ちらっと思ったんだっけ。



 いつもと変わらない朝。変わらないサァラ。

 俺は気力を振り絞って、気にしていないフリをした。だって、他にどうしようもないだろう。


 二日かけて山を降りる。そのための準備は、慣れているサァラに相談しないとできない。


 山猫亭で聞いた言葉を思い出した。

「一度寝たくらいで彼氏面しないでほしいのよね」

 酒を飲んでいた女性冒険者たちの本音が、脳内で再現される。



 助けてもらって、世話をしてもらって、感謝と情が湧くのはしかたないよなぁ。

 俺は、二人分の洗濯物を取り込んだ籠を抱え、空を仰いだ。

 山の夕日は、空気まで燃やすように赤かった。

 目が痛くなって、ちょっとだけ涙ぐんだ。




 翌日、下山を始めると、何カ所も難所と呼べそうな場所がでてきた。

 こんな場所を乗り越えて、気を失った俺を運んでくれたのか。


「ん~、山の逆側からだよ。だから、違う道」

 サァラはなんてことないと、笑った。


 笑顔に心臓が鷲づかみにされたように、ぎゅんっと締め付けられる。

「俺は彼氏じゃない、彼氏じゃない、じゃない」と心の中で繰り返す。


 二人きりで進む道。

 目についた植生を教えてくれる姿。

 俺の心は、天国と地獄を行ったり来たりする。


 幸せだけど、疲れた。

 街に着いたらギルドで金を下ろして、食費とか受け取ってもらえる分を払って、そこで別れよう。

 そう、決めた。




 冒険者ギルドのある街に到着した。

 外壁の門で冒険者プレートを見せて、街に入る。


 そこでわかったのだが、ここは隣国だった。

 領境に近いところでブロンズタートルを討伐し、追われて逃げた滝は領を区切る川の上流の位置にあった。

 サァラの住んでいる山脈は、そのまま国境線になっている。

 つまり、俺を抱えたまま一つの領を越え、国境の山を渡ったのだ。


 冒険者は国境を越えても咎められない職業だが、すごいことだ。

 背負って山を登る労力だって……。

 見捨てても、誰も文句は言わない状況だった。


 これは……感動に打ち震えてしまっても、仕方ないだろう?

 感謝の言葉だけじゃ、足りない。

 体の芯から湧き上がる暖かさ……。




 街の広場でパーティーメンバーと待ち合わせだという。

 俺は、少しだけ緊張していた。

 女性ばかりのパーティーだと聞いている。


 こちらに向かって手を振っている人がいる。

 筋肉質な体に、まさかのビキニアーマーだ。


 一緒に歩いて行く俺に気付いたようで、手を中途半端に下げた。

「ええ? 隣りの国で有名な『下ごしらえ』君じゃん。

 生きてたの?」


 初対面の金髪美女の第一声が、それだった。


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