第九話 「襲撃」
──翌日。
刹那と優駿は、道沿いの見晴らしの良い崖の上に陣取っていた。
「…………。」
刹那は遠くの景色を眺めながら、隣に座っている優駿の話を思い出す。
「明日の昼、領主は隣の領地まで出掛ける予定らしい。……そこを襲おう。」
隣の領地に出掛ける為だけに、千を超える軍隊を全て連れて行くとは考え難い。領主が連れて行く護衛の数は、少なからず確実に減っていると予想される。
「だから普通に領主邸を襲うより、幾分は簡単になると僕は思うよ。」
優駿は、笑いながらそう答えた。
これで本当に人数が減っており、見事領主を討ち取る事が出来たのなら……。
それは、優駿の功績が大きいと言えるだろう。しかし、これは決して大した策とは言い難い。だが刹那は冷静さを欠き単身で挑み、千を超える軍隊をたった一人で相手取ろうとしていたのである。
刹那は正直、優駿の事を馬鹿にしていた……。と迄は言わないものの、心の何処で優駿の事を下に見ていた所があった。
少なくとも、刹那は優駿の事を足手まといだと思っていたの事実だろう。しかし、それは優駿の事を見下しているのでは無く、刹那なりの優しさであった。
しかし冷静さを欠いた刹那を制止し、刹那の復讐を成功させる為。一日中街を駆けずり回り情報を集め計画を立てた優駿に、刹那は少し優駿に対する認識を改める。
刹那はちらりと、隣に座っている優駿の姿を見る。
「……何?」
「何でもねぇよ。」
…………。
「……んー。」
優駿は遠くの景色を見ながら、話始めた。
「本当はね、一番警備が手薄な所を狙っての夜襲を考えていたんだ。だから僕は領主の館に出入りしている人を探して、話を聞いて回ってたんだよ。領主邸への侵入経路、そしてそこから逃走を計る脱出経路等をね。領主の寝室が分かるだけでも、大分違うと思うんだ。この街の人は皆、領主を恨んでいるからね面白い話が沢山聞けたよ。……でも今日たまたま出掛けるだなんて、刹那は運が良かったね。」
…………。
「……ああ。」
刹那は不思議な感覚に陥り、優駿の話に少しだけ気圧されていた。
…………。
「優駿、お前……。」
「何?刹那。」
「…………。」
「……いや、何でもねぇ。」
遠くの景色を見つめる刹那、その刹那の姿を見て優駿は不思議そうに首を傾げていた。
「そろそろか?」
「……ねえ刹那、一応聞くけど。やっぱり領主の襲撃は、明日朧の団の人達と一緒にする気は無いの?」
「あいつらに仇の首をやるつもりはねぇよ、村の仇の首は必ず俺が取る!」
「……だよねぇ。」
一応聞いてはみたものの、優駿は刹那の返答にがっかりと肩を落とす。
──!?
「来た!あれじゃないのか?」
刹那の声に反応し、優駿は遠くの方からやって来る馬車を確認する。
「あれだよ、間違い無い。……あれは領主の馬車だ。」
刹那と優駿は、その馬車の周りに居る護衛の数を確認する。数は……。
「五十程度しかいねぇ!俺は行くぜ!!」
刹那は剣を握り締め、勢いよく崖から飛び降りた。
「…………。」
何も出来ない優駿には、ただ祈る事しか出来なかった。
「刹那、気を付けて……。」
──だだだだだだだだ!
「おいっ、止まれ。何だ貴様は!?」
「シッ!」
──ザシュ!!
刹那は素早い動きで、瞬く間に五人の護衛兵を仕留める。しかしすぐに護衛の兵士達が集まり、刹那は周りを囲まれてしまう。
……その数、約四十。
「刹那ー!!」
刹那の身を案じ、叫び声を上げる優駿。だがその様な心配等、刹那には必要無かった。
──ザシュ、ザシュ!!
四十人如きで、止められる刹那では無い。一瞬で十数人の兵士を凪ぎ払い、その強さに怯え足が竦む護衛兵達。そして刹那の強さにお驚き、慌てて馬車の御者は馬を走らせ逃げ出して行く。
「させるかよっ!!」
刹那は急いで駆け出し、何とか馬車に飛び移りしがみつく。
──ばっ!
扉を開け放ち中へと飛び移り、そして剣を構え標的の首に剣を突き付けた。
「てめえかっ!!」
「…………。」
その姿を見て、刹那の動きは止まる。……その者は怯え瞳を閉じ、がたがたと震えていた。
…………。
「畜生!!」
刹那は怒り、馬車の扉を蹴破った。馬車の中に居た人物は領主では無く、若い女性一人だけだった。
刹那達の襲撃は、こうして失敗に終わる事となる。
武将紹介
「優駿」
武力 ?? かなり低い
知力 ?? 意外とあるかも?
主人公オーラ 50 あまり無い。
一応これでも主人公。
亡き国、優国の王子。
生き別れの妹を探している。
祖国の復讐の為、蛇国と戦う決意をすが。諦めて物乞いや盗みを働いている。
頭は悪く無いのだが、使い方を知らない。
こんな治安の悪い、しかも圧政に苦しむ翔国に来た事を少し後悔している。
「刹那」
武力 89 かなり強い。
知力 54 ちょっと低め。
髪型 95 かなり気合い入れてる。
村の自警団の一員。
剣の腕は相当な物で、盗賊百人を平気で蹴散らす実力を持つ。この大陸でも屈指の実力を誇ると言えるだろう……。
でも頭の方は、お察し。
綺麗な長髪の黒髪が特徴。毎朝一体何時間掛けているんだ?って位に気合いが入っている。




