第三十五話 「百戦錬磨の勘」
「…………。」
厳狼将軍は左右に分かれている反乱軍の様子を眺め観察し、その動向を探っていた。そして厳狼将軍は、ある事に気が付きその目標を見定める。
「ふーむ、右じゃ。……あちらの方が、幾分かは御し易そうじゃの。」
厳狼将軍は兵を四万では無く三百だけを率いて、右側に居る月影団に狙いを定め進軍を開始した。
この判断は特に厳狼将軍の知略による物でも無ければ、戦況を正確に見抜き判断した訳でも無い。
……只単に、厳狼将軍の長きに渡る戦いの勘だった。戦場では弱い者から叩く、そして危険な罠がある様ならば避ける。厳狼将軍にとって、それは至極当然の事であった。……そして又、それを見極める力も優れていた。
ならば、厳狼将軍のやるべき事は決まっている。左側の朧の団では無く、右側の月影団目掛けて進軍を開始していく。
厳狼将軍は、気が付いていたのである。左側は、何か嫌な予感がすると。……そして、右側の相手は只の雑魚に過ぎないと。
「弱い者から狙うのは、戦場の常識よの。」
──ドドドドドドドド!
「おいっ、奴らこっちに向かって来ているぞ。一体、どうするんだ?」
「へっ、たかが三百人程度で慌てるんじゃねぇ。」
厳狼将軍が率いている数が、たった三百しか居なかった所為なのか。……それとも、余程腕に自信があったのか。
この五千を超える盗賊団の中心人物。月影団頭目である呉頭は、さも余裕ありげな表情で厳狼将軍を見下ろしニヤリと笑っていた。
──バカラッ。
何を思ったのか厳狼将軍は更に、その三百からも離れ。崖の上に居る盗賊団五千人の前に単身で姿を晒し話し掛ける。
「儂の名は、厳狼と申す。この討伐軍を率いておる者だ。どうだ?ここは一つ、儂と一騎打ちをせぬか?……儂は今、一人じゃぞ?それとも全員揃って、この様な老いぼれが怖いと逃げ出す腑抜けかのぉ。」
崖の下、しかもたった一騎で五千の数相手に挑発する厳狼将軍。巨大な矛を携え、そして厳狼将軍は恐ろしい迄の殺気を放っていた。
ある程度の武を識る者ならば、厳狼将軍が只者で無い事くらいすぐに分かる事だろう。
それで尚、挑む者が居るとすれば……。
それは、厳狼将軍以上の猛者か。あるいは、余程の馬鹿だけである。
「…………。」
それを遠くから見ている公孫翔達、朧の団。公孫翔は只静かに、その光景を黙って傍観するしかなかった。
「……不味いな。」
何時に無く、公孫翔は不安の声を上げる。
「なっ、厳狼将軍だと!?」
「……まさか、あの"天覇十傑"の?」
「と、討伐軍の総大将じゃねーか。」
崖の上に居る五千の盗賊達は、その名に驚き騒ぎ始めた。
「てめぇら、少し静かにしろ!」
呉頭は大声で叫び盗賊達を黙らせ、そして先頭に立ち厳狼将軍に向かって大声で話し掛ける。
「いいだろう、この俺が一騎打ちに応じてやる!……ただし、お前が俺達を騙して部下に襲わせる可能性がある!だからもう少し、一人でこちらに来て貰おうか?」
──バカラ。
「これで、良いかの。」
素直に指示通り従い一人、前に出る厳狼将軍。……それを確認し、呉頭はニヤリと笑って崖を駆け降りていった。
「行くぞ、てめぇら!誰が馬鹿みてぇに、一騎打ちなんぞするかよ!全員で、奴を仕止めろ!奴を殺れば、俺達の勝ちだ!!」
「オオオオオオオオオ!!」
呉頭を先頭に月影団の盗賊達は一斉に崖を降り、一気に厳狼将軍の元へと走り出す。
「あんな老人、一人なんざ楽勝だぜ!!」
「やっちまえ!"天覇十傑"も、一人なら殺れる筈だ!」
「こんな手に引っ掛かるなんて、あの爺さんは余程の間抜けだぜ!」
我先にと、盗賊達は叫び声を上げて厳狼将軍に襲いかかり始めた。
──!?
「不味いっ!退くぞ、急げ!!」
公孫翔は叫び、急いで踵を返し馬を走らせる。
──ドドドドドドド!
「…………。」
退去をする途中、黄牙は普段見せる事の無い公孫翔の姿に驚いていた。何時如何なる時でも、常に沈着冷静で涼しい表情を見せる公孫翔。それがこんなにも焦り険しい表情をしている公孫翔の姿を、黄牙は今まで一度も見た事が無かったのだ。
……余程、不味い状況と言う事なのだろう。公孫翔の身を案じる黄牙は、公孫翔の姿を見て戸惑い、声を掛けるのを躊躇っていた。
武将紹介
「優駿」
武力 45
知力 85
主人公 オーラがあまり無い。
一応これでも主人公。
亡き国、優国の王子。
生き別れの妹を探している。
祖国の復讐の為、蛇国と戦う決意をすが。諦めて物乞いや盗みを働いている。
頭は悪く無いのだが、使い方を知らない。
こんな治安の悪い、しかも圧政に苦しむ翔国に来た事を少し後悔している。
「刹那」
武力 89
知力 54
髪型 95 かなり気合い入れてる。
村の自警団の一員。
剣の腕は相当な物で、盗賊百人を平気で蹴散らす実力を持つ。この大陸でも屈指の実力を誇ると言えるだろう……。
でも頭の方は、お察し。
綺麗な長髪の黒髪が特徴。毎朝一体何時間掛けているんだ?って位に気合いが入っている。
「公孫翔」
武力 92
知力 99
髪型 98 美容院通ってるの!?
朧の団の若きリーダー。義賊。これでもかって程、髪型に気合いを入れている。え?毎日、美容院通ってる?ってレベルに気合いが入っている。後、仲の良い妹が一人居る。
「黄牙」
武力 96
知力 77
自称 最強剣士。
公孫翔の相棒。非常に腕の立つ剣士。最強を自負しているのだが、実際は……。
「劉士元」
武力 97
知力 67
暗殺 最強の一族
大陸最強の暗殺者一族、"剣竜"。
「臥龍」
武力 96
知力 68
体格 98
"天覇十傑"に名を連ねる、最強の将軍の一人。その実力は、剣竜とも互角に戦える程の強さを持つ。翔国が誇る、二大将軍である。
「張翼」
武力 94
知力 87
自分 大好き
翔国、臥龍配下の部隊長。その実力から、将来を有望視される人物。野心家で、自信過剰な所がある。
「青辛」
武力 74
知力 92
糸目 では無い。目を閉じているだけ。
知将。その知略は翔国一と称される人物。翔国の軍略を一手に取り仕切っている将軍である。二大将軍に隠れがちだが、非常に優秀な将軍と言える。
「呉頭」
武力 85
知力 38
悪行 96
大陸最大の盗賊団、月影団の頭目。朧の団以外で唯一、討伐隊を退ける程の武闘派集団の親玉である。かなりの怪力の持ち主。かなり悪事を働いているが、領主程嫌われてはいない。
「士龍」
武力 84
知力 58
努力 家
志願兵の一人。刹那にその実力が認められ、一隊を任せられる。槍の使い手で、実力はそこそこ。割と勘が冴える事もある。
「司馬晋」
武力 78
知力 89
糸目 開眼しないタイプの糸目。
掴み所の無い、何考えて居るのか良く分からない糸目。……その糸目が、開眼する事は無い。
「厳狼」
武力 98
知力 84
最強 お爺ちゃん
"天覇十傑"に名を連ねる将軍。翔国軍、筆頭の大将軍でもある。……そろそろ引退して、孫とゆっくりしたいお年頃。身長二メートル以上の巨体を誇っている。




