第二十一話 「ある一つの疑問」
──二日後。
朧の団は拠点を移し、ここ領主の館に拠点を置いていた。公孫翔に会いに行く為、領主の部屋に向かう優駿。公孫翔率いる朧の団は次なる戦いに備え、その準備に取り組んでいた。
「…………。」
部屋に入ったはいいのだが、その話辛い雰囲気に優駿は黙りこくる。
「……怪我の具合は、どうだ?」
机に座り、筆で何かを記しながら公孫翔は優駿の方を全く見ずに語り掛けた。
優駿は公孫翔に一つ尋ねたい事があり、ここ元領主の部屋に来たのだが……。しかし何やら話辛い雰囲気なので、優駿は口ごもりながら他愛の無い返事をする。
「うん、お陰様で。……刹那は、まだ寝てるけど。」
「……だろうな。」
優駿は以前から朧の団の行動に、ある疑問が浮かんでいた。その件とお礼を兼ねて、公孫翔に会いに来たのだが……。
「…………。」
……やはり、何処か少し話辛い雰囲気なので喋るのを躊躇う優駿。
「……どうした?何か、俺に用があるんじゃないのか?」
公孫翔は忙しいのかそれとも興味が無いのか、先程から優駿の方を全く見ずに作業を進めていた。
優駿は少し話辛い雰囲気な為、後日日を改めた方がいいのでは。と、少し頭を悩ませる。
……しかし、今は時間があまり無いのである。それに公孫翔は何時も大体、こうなのだ。
優駿は、その疑問を公孫翔にぶつけてみた。
「あの……。これから、どうするつもりなんですか?」
「……どうとは?」
公孫翔は作業の手を全く止めずに、優駿に話し掛ける。
「えっと……。」
公孫翔の意外な返答に、戸惑いを見せる優駿。少し口籠るが、優駿は話を進めていく。
「どうして、逃げないんですか?領主邸を占領していたら、次は軍がここを攻めてきますよね?」
……そう、それが理解出来ない人では無い筈なのだ。
このまま領主邸に留まっていると、必然的に翔国軍の軍隊が攻めてくる。それは、誰もが予想出来る事だろう。
確かに朧の団は今迄に、何度も国の討伐隊を退けてきたのかも知れない。……だが、今回は違う。領主邸を占領し、領主を捕らえたとなれば話は違ってくる。
……恐らく、国が黙っていないだろう。下手をするとあの将軍が、直々に軍隊を率いてやってくるかも知れない。
そうなれば、たった二百しか居ない朧の団に勝ち目など無い事は、誰にでも理解出来る事なのである。
……それなのに何故、朧の団はこんなにも悠長にしていられるのだろうか?、と優駿は疑問を感じていた。
「……ほう。」
優駿の言葉に怒りを覚えたのか、それとも興味を示したのか。……公孫翔はぴたりと作業の手を止め、静かに優駿の顔を見る。
「なーに、難しい話?あたし、ちょっと外出てくるね。」
「ああ、どうやらそうらしい。……悪いな。」
そう言うと先程から公孫翔にぴたりとくっついていた女性は公孫翔から離れ、部屋から立ち去って行った。
「……あの、何かすいません。」
「いや、気にしないでいい。……続きを聞かせてくれ。」
……色々複雑な気持ちになりながらも、話を続ける優駿。
「このままだと、領主邸に国の軍隊が攻めてきますよね?それが理解出来ない公孫翔さんじゃ、ないと思うんですけど……。このままここに留まるのは、少し危険じゃないですか?……まさか、本気で戦うつもりなんですか?」
「…………。」
その優駿の問いに、公孫翔は答えなかった。
「……ふむ。」
「…………。」
暫く待てども公孫翔からの返事は全く返ってこず、どうしたらいいのか分からず戸惑いを隠せない優駿。
「あのー、えーと。」
返事を待つ優駿の元に返ってきた言葉は、良く意図の分からない返答だった。
「……で?」
呆気に取られる優駿。
「……はい?」
公孫翔は少し笑みを浮かべながら、面白そうに優駿を見ていた。
「で?……どうなるんだ?軍隊が攻めてくるんだろ?」
……優駿は意味が分からなかった。公孫翔が一体何を言っているのか、理解が追い付かなかったのだ。
……こちらがしている筈の質問と全く同じ質問を返された事に、戸惑う事しか出来ない優駿。
「……つまりだ、優駿。お前は朧の団の心配をしてるんだろ?領主邸に国の軍隊が攻めてくると。……で、どうなるんだ?」
「……?」
……どうなる?優駿は、意味が分からず混乱する。この人は、一体何を言っているんだ?と、驚いていた。……そんな事、答えは分かりきっている筈なのだから。
「そ、それは……。」
……勝てる筈など無い。いや、勝負にすらならないだろう。……そもそも、数が違い過ぎるのだ。
国の軍隊が攻めてくると、朧の団は逃げるしかない。その為に、優駿は何故逃げないのかを公孫翔に尋ねているのだから。
──!?
そこで優駿の頭の中に、ある一つ考えが浮かび上がる。……まさか、本当に戦うつもりなのかと。
いや、勝てる筈が無い。朧の団は、二百人程度しか居ないのだ。それに比べ翔国の軍隊は、少なくみても五、六万は居ると考えられる。
……そして、あの将軍の存在。翔国には"天覇十傑"に名を連ねる、二大将軍が居るのだ。
その為、誰もが勝てる筈が無いと思うのは至極当然な事なのである。
「…………。」
そんなぶつぶつと一人、考え事をしている優駿の姿を。公孫翔は笑みを浮かべ面白そうに、じっと見つめていた。
……勝てる筈が無い。優駿はそう結論を出し、もう一度公孫翔に尋ねてみる。
「あ、あの……。本当に、戦うつもりなんですか?……勝つ、つもりなんですか?」
その言葉に公孫翔迷う事無く、こう言い放った。
「ああ……。無論、勝つつもりだ。」
武将紹介
「優駿」
武力 45
知力 75
主人公 オーラがあまり無い。
一応これでも主人公。
亡き国、優国の王子。
生き別れの妹を探している。
祖国の復讐の為、蛇国と戦う決意をすが。諦めて物乞いや盗みを働いている。
頭は悪く無いのだが、使い方を知らない。
こんな治安の悪い、しかも圧政に苦しむ翔国に来た事を少し後悔している。
「刹那」
武力 89
知力 54
髪型 95 かなり気合い入れてる。
村の自警団の一員。
剣の腕は相当な物で、盗賊百人を平気で蹴散らす実力を持つ。この大陸でも屈指の実力を誇ると言えるだろう……。
でも頭の方は、お察し。
綺麗な長髪の黒髪が特徴。毎朝一体何時間掛けているんだ?って位に気合いが入っている。
「公孫翔」
武力 92
知力 99
髪型 98 美容院通ってるの!?
朧の団の若きリーダー。義賊。これでもかって程、髪型に気合いを入れている。え?毎日、美容院通ってる?ってレベルに気合いが入っている。後、仲の良い妹が一人居る。
「黄牙」
武力 96
知力 77
自称 最強剣士。
公孫翔の相棒。非常に腕の立つ剣士。最強を自負しているのだが、実際は……。
「劉士元」
武力 97
知力 67
暗殺 最強の一族
大陸最強の暗殺者一族、剣竜。
「臥龍」
武力 96
知力 68
体格 98
"天覇十傑"に名を連ねる、最強の将軍の一人。その実力は、剣竜とも互角に戦える程の強さを持つ。翔国が誇る、二大将軍である。
「張翼」
武力 94
知力 87
自分 大好き
翔国、臥龍配下の部隊長。その実力から、将来を有望視される人物。野心家で、自信過剰な所がある。




