第十二話 「もう一度」
巨大な鎧を身につけた、その熊の様な大男の放つ戦斧の前に、刹那は全く反応出来ず壁へと叩き付けられる。刹那にはその男が巨大な戦斧を、いつ放ったのかすら理解出来てはいなかった。
壁に強く打ち付けられ、意識を失う刹那。壁に激突した際に頭を強く打ち、その頭からは血が流れ、もはや立ち上がる事はさえ不可能に見えた。
「……全く、運がいい小僧だ。」
「冗談、手加減したでしょ?大将。」
運が良かったのか、その恐ろしい殺気に反応したのか。その男の放つ巨大な戦斧は、左に構えていた刹那の剣に当たり、刹那は僅かに一命を取り留めていた。
「……ふん。」
「…………。」
強かった、刹那にはその男の攻撃さえ見えてはいなかった。その身に戦斧を受け、完膚無き迄身も心も打ちのめされ……。そのまま気を失い、立ち上がる事が出来なかった。
……刹那には、もう立ち上がる気力さえも残されてはいなかった。
──ガチャリ。
玄関の扉が開かれ、外から誰かが入ってくる。
「……終わったか?」
「ご覧の通りだ、領主よ。」
「ふん、この虫けらがっ。俺様の命を狙うとは……。」
──ピクッ。
「……領主、だと?」
意識を失っていた筈の刹那の手がぴくりと動き、そしてその言葉に反応し刹那は目を見開く。
──!?
「…………。」
しかし、その光景に刹那は自分の目を疑う。
「……優、駿?」
そこには、領主と思われる豪華な服を着た男と。それに先程の、領主の娘……。
そして、倒れて動かない優駿の姿があった。
「おいっ!優駿、しっかりしろ!!」
優駿は大量の血を流し、生きているかどうかさえ分からない状態だった。刹那は頭を押さえながら、激しい頭の痛みに耐え立ち上がる。
「……ぐっ。」
しかし立ち上がったものの、意識は朦朧とし目も霞んでいた。
「ひぃっ、何をしているお前ら!早くあの者を始末しないかっ!!」
叫ぶ領主の声に反応し、刹那は一気に領主の所迄駆け寄る。
「がっ!」
──ザシュ、ザシュ!!
刹那は一瞬の内に、領主の前に立ち塞がる衛兵を凪ぎ払っていく。
──だが。
「……どっちだ!?」
刹那は迷っていた。領主の首を取り、村の仇を討つのか?それとも瀕死の優駿を助け、この場から逃げ出すのか?
……刹那は、そのどちらかを選ばなければならなかった。背後にはあの大男が待ち構えている、今の刹那では到底太刀打ち出来ないであろう強敵が。
すぐにこの場から立ち去らなければ、命が無い事を刹那は理解していた。……その両方を得る事等、不可能なのだと。
だが肝心の優駿は、生きているかどうかさえ分からないのだ。勿論、既に死んでしまっている可能性もある。
しかし刹那は、そのどちらを取るか覚悟を決め。その者の名を叫び、走り出す。
「優駿、しっかりしろ!」
刹那は優駿を肩に担ぎ、扉に向かって走り出した。
「させんよ。」
──!?
大男の巨大な戦斧が、刹那に襲い掛かる。
──ドゴォ!!
何とか辛うじて、戦斧を防いだ刹那だが。そのまま二人は外へと弾き飛ばされてしまう。
「ぐはあっ。」
立ち上がろうとする刹那だが、その体は疾うに限界だった。跪き、立ち上がる事が出来ない刹那。
「……畜生、どんだけ化け物なんだよ。」
「ふははははは……。」
刹那の前に、大男が笑みを浮かべながら立ち塞がる。刹那は跪き、地面に剣を刺し必死に立ち上がろうとする。
「……ぐっ、どうやら俺もここ迄かよ。」
だが、刹那には立ち上がる気力も戦う力も残されてなどいなかった。
「…………。」
「……刹那?」
──!?
生を諦めかけた刹那の耳に、優駿の微かな声が届く。
「優駿、生きてたかっ!?」
「刹那、早く逃げて。このままでは二人共……ぐふっ。」
「優駿!!」
刹那は叫び声を上げ、歯を食い縛り奮い立つ。
「があっ!!」
「ひぃ何をしている、早く奴を仕止めろ!!」
領主のその声に、刹那の周りに兵が集まり出す。剣や槍を持った衛兵十数人と、それに騎兵三人。
刹那は一歩も動く事が出来なかった、既に視界はぼやけ方向感覚すら失っていた。
その刹那に、衛兵達は叫び声を上げ一斉に襲い掛かる。
「…………。」
……刹那は、戦う事を諦めていた。仇も討てず、優駿すら救う事の出来ない自分の弱さに。
……刹那の心は嘆き、哀しんでいた。
「死ねぇい!」
──ザシュ、ザシュ!!
刹那の周囲に血飛沫が飛び交う。刹那は一歩も動く事が出来ない為、その場で待ち構えるしか方法は残されていなかった。
刹那の刃が衛兵五人を瞬時に斬り裂く、しかし騎兵の馬だけは斬る事が出来ずに、刹那は馬に弾き飛ばされる。
しかし馬に弾き飛ばされる中、刹那はそれと同時に馬の手綱を握り締めていた。そして最後の力を振り絞り、刹那は馬上へと飛び移る。
「すまねぇ優駿、必ず助けに戻る。其まで無事で居てくれっ!!」
──バカラッ。
そう叫び、刹那は馬を走らせた。
「何をしておるか!?早く追え!奴を決して逃がすな!!」
────────。
馬を走らせ薄れ行く意識の中、刹那は思い出していた。
……刹那は今迄自分はこの大陸で、いやこの世界で最強なのだと、信じて疑わなかった。
……自分はこの世で最強だと、疑う事すら無かった。それが昨日今日で、三人もの強者の前に敗北し、刹那は自分の弱さを初めて認識させられる。そして優駿を助ける事が出来なかった、自らの弱さを恥じた。
──どさっ。
刹那は手綱を握る力さえ失い、そのまま固い地面に叩き付けられる。そして刹那の後を追う衛兵に追い付かれ、その身に槍を突き付けられた。
「……すまない優駿、助ける事が出来ない……。この俺を許してくれ。」
──ザシュ、ザシュ。
無情にも、その刃は振り下ろされる。
……悔しかった、強くなりたかった。刹那の脳裏にあの男達、三人の顔が走馬灯の様に甦ってくる。自分にもう一度機会が与えられるなら、今度は過信する事無く研鑽を積んでみたかった。
……もう一度。
そう、後悔しながら刹那は意識を失っていった。
武将紹介
「優駿」
武力 ?? かなり低い
知力 ?? 意外とあるかも?
主人公オーラ 50 あまり無い。
一応これでも主人公。
亡き国、優国の王子。
生き別れの妹を探している。
祖国の復讐の為、蛇国と戦う決意をすが。諦めて物乞いや盗みを働いている。
頭は悪く無いのだが、使い方を知らない。
こんな治安の悪い、しかも圧政に苦しむ翔国に来た事を少し後悔している。
「刹那」
武力 89 かなり強い。
知力 54 ちょっと低め。
髪型 95 かなり気合い入れてる。
村の自警団の一員。
剣の腕は相当な物で、盗賊百人を平気で蹴散らす実力を持つ。この大陸でも屈指の実力を誇ると言えるだろう……。
でも頭の方は、お察し。
綺麗な長髪の黒髪が特徴。毎朝一体何時間掛けているんだ?って位に気合いが入っている。




