第十話 「悔恨」
────────。
刹那達は、優駿が予め見つけておいた空き家に一時避難していた。
「…………。」
刹那は優駿の様子をちらりと伺い、そして目を閉じ少し考えを巡らす。
「やっぱり、今すぐ乗り込んでくる。」
落ち着く気が全く無い刹那。置いてある剣を手に取り外に向かう刹那を、優駿は慌てて声を掛け制止する。
「待ってよ刹那、行くならせめて夜にしてくれよ。それより、今は少しでも情報を集めないと……。」
「…………。」
刹那は振り返り、二人の様子を見る。
「私を殺しても、父は悲しみませんよ。」
先程捕らえた領主の娘は、特に騒ぐ事無く落ち着き払い大人しく椅子に座っていた。まあ優駿が今正に縄で縛っている為、動けないのもあるのだが……。
「お前、殺されるかも知れねぇってのに。よく、こんな状況で落ち着いていられるな。」
「…………。」
領主の娘は少し俯き、暫くしてから刹那に向かって話し始める。
「父が……。恨まれているのは、知ってましたから。いつかはこうなるのでは無いかと、ある程度は覚悟はしていました。」
「……へぇ。」
縄を縛り終え、刹那と領主の娘二人の話をあわあわと慌てふためく優駿。
「いやっ、殺さないよ?安心して。明日には解放するからさ、いやでも明日は危ないから明後日の方がいいかなぁ?」
「…………。」
「でもさ、何で領主じゃなくて君が馬車に乗ってたの?」
話したく無いのだろうか、領主の娘は俯き少しの間黙り口を噤んでいた。……しかし、暫くすると優駿の顔を見つめ話し始める。
「……父は怯えているのです。ここ最近ある盗賊団から狙われていると知り、父は国に助けを求めて兵を集め、館から一歩も出ようとしません。……それで、私が代わりに。」
「……なるほどね。」
ある盗賊団と言うのは、勿論朧の団の事だろう。国に助け……。朧の団は確か、領主の護衛の兵数は千数百と言っていた。もしかすると、今はもっと増えているのかも知れない。どちらにせよ、一筋縄では行かないと優駿は何やら考え始める。
「…………。」
顎に手を当て、一人ぶつぶつと何か考え事をしている優駿の姿を見て。刹那は何か話す事があったのだが、まあいいかと横になり静かに夜を待つ事にした。
そんな二人の行動を領主の娘は、不安を感じながら浮かない表情で大人しく二人の様子を見ていた。
────────。
「暫くは危険だから、家には戻らない方がいいよ。それじゃ、僕達は行くから……。えと、気を付けてね。」
深夜になり、優駿は領主の娘をそのまま解放した。領主の娘は困惑しながらも、去って行く二人を何処か寂しそうに静かに見送る。
二人は物陰に隠れ、遠く離れた所から丘にある領主の館を様子を伺っていた。朧の団から狙われていると言う事もあり、領主の館はかなり厳重な警備体制が敷かれていた。
「ここからじゃ暗くてあまり良く見えねぇが、思ったより警備の数が多いな。」
──カチャリ。
数は百強と言った所だろうか?数を確認しながら、刹那は剣を引き抜く。
「…………。」
殺気に塗れ剣を構える刹那だが、背後に優駿の気配を感じ振り返った。
「……お前はここにいろよ、来るんじゃねぇぞ。」
「わ、分かってるよ。ねえ刹那、やっぱり一人で乗り込む気なのかい?」
「当たり前だろ、お前はもう戻ってろ。」
「…………。」
やはり千を超える軍隊が待ち構える領主の館に、たった一人で乗り込んで行く刹那を、優駿は流石に無茶だと心配する。
「……刹那。」
「じゃ、ちょっと行ってくるぜ。」
「…………。」
たった一人で剣を手に闇の中へと消えて行く刹那の後ろ姿を、優駿はただ黙って見守る事しか出来ず、自分の無力さを嘆いていた。
優駿は何も出来ない自分が悔しかった。一応優駿は、街の人達に聞いた館の情報を刹那に伝えていた。これで領主の居場所が分かり、無駄な戦闘を省く事が出来るかも知れない。
しかし千を超える軍隊を相手に、たった一人で挑む刹那に、命を懸けて村の仇を討とうとする刹那に……。
優駿は、何も出来ない事が悔しかった。
もっと自分に出来る事は、あったのでは無いか?もしくは自分が刹那の様に剣が扱えれば、刹那をもう少し助ける事が出来たのでは無いだろうか?いや、その方法は何でも良いのだ。ただ刹那が無事に戻って来さえすれば、それは例えどんな方法でも良かった。
……無事に、戻って来さえすれば。
もしかすると、これが刹那との最後の別れになるかも知れないのだから。
──だだだだだだだだっ!
「待っていろよ!!」
刹那は村の仇を討つ為、千もの敵が待つ領主の館に一人斬り込んで行った。
武将紹介
「優駿」
武力 ?? かなり低い
知力 ?? 意外とあるかも?
主人公オーラ 50 あまり無い。
一応これでも主人公。
亡き国、優国の王子。
生き別れの妹を探している。
祖国の復讐の為、蛇国と戦う決意をすが。諦めて物乞いや盗みを働いている。
頭は悪く無いのだが、使い方を知らない。
こんな治安の悪い、しかも圧政に苦しむ翔国に来た事を少し後悔している。
「刹那」
武力 89 かなり強い。
知力 54 ちょっと低め。
髪型 95 かなり気合い入れてる。
村の自警団の一員。
剣の腕は相当な物で、盗賊百人を平気で蹴散らす実力を持つ。この大陸でも屈指の実力を誇ると言えるだろう……。
でも頭の方は、お察し。
綺麗な長髪の黒髪が特徴。毎朝一体何時間掛けているんだ?って位に気合いが入っている。




