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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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4-2<フィオの過去>

※今回の回想話は1章5-1並の欝話になります。苦手な方はご注意ください。

そもそもの始まりは義父の奥手な性格からだった。



義父は幼少のころより、2歳年上の従姉であった私の母と親しくしていた。


時には遊び、時には学び、同じ時を過ごし、何時しか義父は母に恋心を抱くようになっていた。


けれどもそれは、親同士の仲が良く、歳が近いから一緒に居る事が多いだけの関係。


内気な義父は、関係を進める事が出来ず、自分の恋心を隠し、打ち明ける事が出来ずにいた。



今年こそは、何か成果を得られたら、自分が結婚できる歳になったら。



そうやってまごついている内に母は婚礼可能な歳になり、早々に婚約を交わし、結婚した。


何のことは無い。母の家は没落しだしており、政略結婚に使われてしまったのだ。


相手は金だけはあるロクデナシ貴族。


権力欲しさに5大家の血縁者を後妻に娶ったに過ぎず、その関係は冷めたものだった。



その後、当たる事も無く砕け、恋破れた義父は研究に没頭。外に目を向けず研究室に篭りがちになっていった。



そうこうする内に私が生まれた。


だが、それが最初の悲劇だった。


生まれた私は、人ではなかった。


それはバルナムの先祖が亜人を妻とした事があった為に起こった先祖帰り。


珍しくはあったが、可能性はあった。


だが、耐久力と回復力が高いだけの程度で外見的には人と然程変わりない亜人、小鬼族だったために、最初はそうと気づかれる事無く私は育った。



3歳のころだ。


急にバルナムの本家から訓令が届き、母が出来たばかりの王家の後宮に送られることになった。


本家に近い所に適齢の娘が他に居なかった為だった。


父は喜んで送り出した。上手くすれば王家にもツテができると。


私は貴族の家に残された。


そして、庇護者を失った私に対するイジメが始まった。



母の嫁いだ貴族の家には先妻の息子が二人居た。


当時11歳と13歳。その二人に、殴られた。


きっかけは些細な事だった。


だが、止めるものが誰も居なかった。


そして、当然の如くエスカレートしていった。


何度も何度も殴られた。何度も何度も蹴られた。


それでも、それらの暴行には耐える事が出来た。皮肉にも亜人だった為に。



5歳になった頃、


私の額に生え始めていた小鬼族の証である角が、ついに隠せないほどに伸びて、周囲に気づかれてしまった。


普通子供は、両親どちらかの特徴を持って生まれる。


私のような例外はあるが、それこそ数百万人に一人、ともすれば数千万人に一人有るか無いかという確率。


父は、知らなかった。


だから私を自分の娘で無く母の浮気で出来た子、と誤解した。


そして私に対する興味を失った父は、兄達の行為を完全に黙認するようになった。


怒りに任せ私の角を根元から抉り、削ぎ落した彼が残した言葉は


「あれが戻るまでは殺すなよ、面倒だ」そんな程度だった。



それからの私の生活はさらに酷いものになった。



15になり剣と魔法を習いだした兄は練習と称し、面白半分に私を刻み始めた。


普通の人ならば死ぬ程の怪我を何度も何度も負った。


けれども、死ねなかった。勤めて殺される事もなかった。


首を切り落とす、心臓を刺し貫く等の直接的な致命傷を与えるような傷を負わせる度胸は、遊び半分だった彼らには無かったようだ。


もしかしたら、父が釘を刺した効果も有ったのかもしれない。


そして私自信も彼らを刺激するような事が無かった。


ただ漫然と、毎日繰り返される虐待を受け入れていた。


…3歳の頃からずっと、誰にも何も教わる事が無く、何も知らなかった当時の私はそれ以外の常識を知らず、それが当然なのだと疑ったりはしなかった。


そしていつしか私は窓も無い牢のような地下の一室に閉じ込められた。人に見られない為に。



…この体は消えない傷だらけだ。



角を父に強引に削ぎ落とされたせいで、前髪に隠れた額には酷い傷跡が残り、左目は失明している。


それでも顔はましな方。全身をくまなく切られたり、刺されたり、焼かれたりしたのだ。


無事な所など、何処にも残っていない。


さらには剣を習ったばかりの兄達に面白半分に腹部を貫かれた際に、


運悪く将来機能する筈だった女としての機能も破壊されてしまっていた。


いつしか私は、女でも、人ですらもなくなっていった。


兄達の所有する玩具の人形。


玩具も人形も知らなかったが、それが当時の私の自分に対する認識だった。



8歳になったころ、母が後宮から戻ってきた。


老いた王は最早子を成せる体では無かったので、後宮に送られた娘達は皆帰ってきていたのだ。


だが、それも運が悪かった。


役目を果たせなかった母は、「何処の馬の骨とも知れぬ亜人に抱かれ子を成した不貞の売女」と父に罵られ、私と同じように地下に監禁され、虐待を受けた。


そしてそれには留まらず、母はまるで安淫売のように扱われ、時には客へのもてなしとして使われた。


…もちろん私もだった。



それから僅か数ヵ月後、母は病に倒れた。


性病だった。幸いなのか、私はかからなかった。


そして病は母の脳を犯した。



そんなある日。義父が研究の成果を認められ、近い将来にバルナムの家督を譲られる事になり、


10年越しに失恋の痛手をやっと乗り切って母に手紙を出した。


懐かしい初恋のあの人にも祝って欲しい。と願って。



だが、その手紙は届かなかった。父が握りつぶしたのだ。


幾度か手紙を送り、返事が無い事に疑問を持った義父は調べた。


そして知ってしまった。


母と私がボロボロになり監禁されている事を。



10歳のころ、義父は母と私をバルナムへと取り戻した。


強引な手法だった。不正を暴き貶める為だけに物凄い速度で新しい魔道具を開発し、使用した。


さらに義父はそれに満足せず、結局父の家は、消えた。父も兄達も、死んだ。



しかし、全ては手遅れだった。


母は死んでこそ居ないが稀に正気を見せる事のある程度の半ば生きた屍に過ぎず、私は体も心も壊れていた。


そして、義父は人と接する事が不器用な人だった。



私は癒される事無く壊れたまま一般常識を学んだ。


バルナムの人々は皆、義父を恐れ、私を腫れ物のように扱うだけ。


それでも何も知らなかった私はスポンジが水を吸うかのように物事を吸収していった。


基礎的な文字を学べば、後は独学で辞書を使い、1年とかからず問題なく本も読めるようになった。



だから分かった。自分の異常性が。


褒められても、怒られても、殴られた時と同じ。何も感じない。


美味しいはずの食べ物を与えられても味を理解できない。


たまに義父の学術書以外の伝記や物語を読んでも、事務的に記憶し、解析し、理解するだけで、実感は全く伴わない。登場人物の心情を自分に当てはめ、推し量る事が、出来ない。


何もかもが彼岸。だが、感情が無い訳でもない。


物事を覚える事は楽しかった。


そして時折義父の作る魔道具を使ってみたり、解析するのも楽しかった。


不幸な事に、壊れた私は魔道具を誰よりも理解し、使いこなせてしまった。



まるで自らが魔道具の一部になったかのように。




そんな生活が数年続き、ついに母が助からない事が判明した頃、義父は決めた。


「こうなった原因である腐った貴族を一掃する」と。


決めたからには行動を起こす。


義父は捜査局には不可能な強引な手法を用い様々な情報を集め、実態を掴んでいく。


さらに、金の流れを調べる内にそれが王にまで繋がっている事に気づいてしまった。



王家も同罪、そして王家の失脚は最も手っ取り早い改革の手段。



そう目標を設け、計画を練り、その為の魔道具を研究し始める。


<傀儡子の腕輪>の原型は偶然手に入れた。知人から送られたものに混じっていたそうだ。


それが、決め手になった。


義父はレキに命じ秘密裏に隣国から奴隷を買い集め、船に乗せ外海へと送り<人工人型>に変えた。


一度作れば後は簡単。海流を計算し往復させるだけで<人型>は分裂し、兵数は鼠算式に増えた。


さらにモンスターは食事をしなくとも死なない。


<傀儡子の腕輪>で大人しくさせてしまえば普通の兵士よりも管理も維持も簡単だった。


準備は進む、何かに後押しされるかのように着々と。


もう、後戻りは出来なかった。



そんなある日、王女が<召喚魔術>を強行し、消えた。


絶好の機会が訪れた。



私は、14歳になっていた。

9/9誤字修正しました

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