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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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3-2<空戦2>

2匹のワイバーンが両軍を離れ、その中央で小さな円を描いて飛ぶ。


これは空戦の開始前の問答。空で睨み合った軍隊が、戦闘の意思の確認をする様式的な行為。


相手の代表は<空軍の撃墜王>の異名を持つゼネスだと思っていたのだが…



「まさかお前が来るとはな、フィオ。ゼネスのヤツはどうした?」


「……謹慎中。義父(ちち)に賛同しなかったから。」



殆ど顔の見えないうっそうとした濃い紫色の前髪の隙間から見える感情の伺えない片方の瞳。


その下にある小さな唇から放たれた抑揚の無い声でフィオが答える。


…あのバカもこいつも相変らず、か。



正直コイツが来るのは予想外だった。フィオは開発局の人間だ。空軍での立場は確か名誉小佐の筈。


ワイバーンの騎乗をより一般的にする魔道具を開発した功績で送られた、肩書きだけで実力を伴わない少佐。


あのバカが強情張って来られなかったから代わりに来たということか?



「そうか、まぁアイツらしいか。それで? 一応聞いておこうか、何用だ?」


「……降伏勧告」


「断る」



予想通りだった答えに、即答する。



「……なら、実力行使になる」


「確かに、お前の所相手では分が悪いだろうが…引く訳にはいかないな。」



相手は空軍、空の本家だ。さらにこの部隊は制空権を取る為の部隊、かなりの精鋭部隊だろう。


本隊は恐らく足の遅い空爆装備のディノスバーンで後方から追ってきているはずだ。



「……命を粗末にするものじゃない」


「そういう訳にもいかない。反乱軍を野放しには出来ないからな。」


「……今はもう、貴女達が反乱軍。」



抑揚の無い声で、聞き捨てならない事を言う。



「ふふん? 何を持って反乱軍と言う? 人数か?」


「……私は政府の命令で来た、だから正規軍」


「政府、政府ね。どうせお前の義父の命令ではないか。ならこちらは王と王妃の命令で来た。王国軍だ」



私の言葉に息を呑む。そうだ。ユートとソフィーまでは想定外だろう?


そしてコイツのフルネームはフィオーネ=フィル=バルナム、


夫人の連れ子らしいから血は繋がっていないのだが、末席とは言え件の首謀者バルナム卿に家督相続権まで与えられた戸籍上の子。


そこもまた不思議だ。コイツを最前線に送り込む意図が分からない。


魔道具関連技術の天才ではあるらしいが、騎兵としては並以下の筈だ。


…いや、そんなことは向こうの都合か。気にしても始まらない。



「………居るの? 王…も?」


「あぁ、居るとも。それも、私の夫に相応しい程の男だ」


「……メリアの? では、メリアより強い、と?」


「あぁ、それも圧倒的にだ。この時期の<鎧付き>の<人型>を無傷で返り討ちにしたぞ? それも魔法でなく、剣でな!」



珍しく戸惑いの色が篭った声を出すフィオに自慢する。自重せずに自慢する。


溢れ出す高揚感。顔がにやけて行くのを止められない。私は既に戦闘の空気に酔い出しているようだ。



「……俄かには、信じられない」



それはそうだろう。当然だ。だが



「王は後ろだ。実力行使したならば分かるさ…分かった頃には全員死んでいるがな」


「……引き下がる訳には、行かない」


「なら好きにするんだな。王も王妃も勤めて犠牲を求めては居ないが、情けをかける余裕は空には無いぞ」



そう。空で撃墜されると言う事は、たとえ無傷でも高高度から地面にたたき付けられると言う事。まずもって死しかないのだ。


そして勿論それは敵、味方共に。



「……新兵器、使う。そちらの方こそ、降伏するなら早いほうが良い」


「あのでかいワイバーンか」



フィオの後方、敵軍の隊列にディノスバーン程ではないが、人を騎乗させていない無人の一回り大きいワイバーンが居る。数はおよそ…15、か?



「……そう。<ヴイーヴル>と名づけた。モンスター化させたワイバーン。速さも、強さも、ケタ違い。」


「そうか…モンスターを操るだけでなく作り出しても居たのかバルナムは」



新兵器の素性は割れた。恐らくあの豚の使った物と同系統のもの。


それを用いてモンスターを兵に、隊にしたのだろう。


モンスターの膂力を持った兵による軍隊。…確かに、強力だ。


それに私には無かった発想だが、操れるならば作ったほうが早いのもその通りだ。


外海に数日連れ出せば良いのだから。


それによってワイバーンのようなマナ異常に敏感で、モンスター化する前に逃げる翼を持ったものまで手駒にできる。


…用途、用兵の可能性も広く、高い汎用性が期待できる。…良く出来ている。見事なものだ。



「……この日の為に。義父さんはもう既に手段を選ぶ気が無い。」


「そしてお前が来たのはアレを操るのが一番上手いから、と言った所か。」


「……御明察」


「なるほどな。では、交渉は」


「……決裂」



「致し方ないな」


「……貴女はバカだ」



溜息が出る。双方相手には分からない鬼札を持っているからの強気での開戦。


同じ国の兵同士で殺し合う事になるなんて。



「バカはどっちだか、な。だがこれだけは礼儀として言っておこう。無駄に死ぬなよ。」


「……貴女も」



「では、やるか」


「……容赦はしない」



円を描くように飛んでいた2匹のワイバーンが翻り、円が崩れる。


一度大きく離れ、方向転換し、速度を上げて正面からすれ違う。


これは儀式。いや、様式。交渉決裂、戦闘開始を告げる為の最初の狼煙。


だが躊躇いは無い。一撃で堕とすつもりで<剛爆炎の腕輪>に魔力を込め、<爆裂火球>を作り出す。


後は全力で打ち込むだけ、そう開戦の合図となる一撃を――



すれ違う刹那、空に大きな爆発が起こった。

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