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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第2章 合流編
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4-3<悪魔の囁き>

「は、は、は、」



乾いた笑いが漏れる。


照明を消し、一人、寝台に仰向けに身を投げ出し顔を抑える。


どうしてなんだ。


私はどうしてこうなんだ。


やっと、見つけたと思ったのに。


運命だと思ったのに。



運命なんて無い。



神様なんて居ない。



さっきまで胸の内で燃え上がっていた炎は消え失せ、


焼き焦がした心が傷跡になりずきずきと痛む。


痛い、痛い、痛い、



「うっぐ…うう…」



嗚咽が、もれる。抑えた手から涙が滲み出し、零れる。


一度堰を切った涙は次から次へと溢れ出し、零れ落ちる。


止まらない。



どうして、どうして、どうして、


嫌だ、嫌だ、嫌だ、


あんまりだ、酷い、ふざけるな、なんで、嫌だ、たすけて、ゆるして、お願い、やだ、だれか、だれでもいい、助けて、このままでは、狂ってしまう。


乱れた思考が胸の痛みに同調し悲鳴を上げる。


痛みが、ますます酷さを増す。


たまらずうつ伏せになり、枕に顔を埋める



「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!!嫌、だよぅ………」



そのまま顔を力の限り押し付けて叫ぶ。胸の痛みを吐き出すように。



「助けて、こんなの、ない、私も、私だって、あああああああああああああ!!!」



兎に角大声で叫ぶ。


枕に埋もれたままでは声はこの部屋から漏れはしない。


吐き出したい。この苦しみを。


逃げ出したい。この辛さから。


助かりたい。


幸せになりたい。


彼が愛しい。


彼が欲しい。


でも、


でも、






『諦めるのかや?』





誰も居ない筈の部屋に声が、響いた。


ハッとして起き上がり、涙に濡れた顔を拭いもせず声の聞こえた先を見返す。



『諦められるのかや?』



暗闇の中だというのに、何故かはっきりと見える。


金髪と褐色の肌をした20センチ程の小さな姿。



「おまえ…は…」



ユートの頭の上に居た、妖精。それが無感情な表情を浮かべ、私の前を浮いている。



『本当に、諦めて、良いのかや?』



問いかけてくる。それは………



「だって、彼は、<召喚されし者>で、」


『それは建前に過ぎん。おんしの心に聞いておる。諦めたいのか、と。』



私の、心。


私の、心は、



「諦めたくなんて、無いに決まっている!でも!だけど…!!」



彼は、ソフィーの夫、なのだ。


ずきり、と胸が一層激しく痛む。


そう、ソフィーが、今までずっっっと切望してきた、相手なのだ。



『ならば、無いのか?おんしの想いを遂げる術は、おんしの想いを正当化する術は、』


「そんな物は…」


『ある、はずじゃぞ?』



妙に自信に溢れた、確認するかのような言葉。


ある、はず…


思考が巡る。先ほどまでの悲鳴と違い、具体的な救いを求めて。


そして思い至る。


10年前に、貴族達によって無理やり施行された、だが結果として形骸になった法律、施設。



『火が、点ったの』


「そうだ…、ある。だが、それは…」


『何を躊躇う?おんしの想いを満たし、誰にも後ろ指刺されぬ術があるというのに。』


「……」


『諦めるのは嫌なんじゃろう?どうかや?先ほどのようにその胸の炎を消そうとし、心を引き裂き、踏みにじられるような痛みに苛まれたいのかや?


その術を行使して、誰が傷つく?誰が悲しむ?誰も、誰もじゃろう?ならば何を躊躇う。何を諦めようとしておる?』



いっきにまくし立てる。全く異議を唱えられない、甘い甘い誘惑。


なんなのだ、この妖精は?まるで御伽噺に出てくる悪魔のような………



「その…通りだ。」


『ならば、もう大丈夫じゃな』


「あぁ…」



確かに、胸に灯った新しい炎が、無理矢理消されようとしていた炎を救い、再び燃え広がり始めている。


痛みが薄らぐのを感じる。そして理解した。焼け焦がした心が傷跡となって痛んでいたのでない。


消されかけた炎が、無理矢理殺されかけた恋心が悲鳴を上げていたのだ。死にたくない。と



「お前は、何だ。何が望みだ?悪魔、なのか?」


冷静さを少し取り戻し、問う。


悪魔は願いの見返りに何か大切なものを求めるという。


この妖精は最早そういう存在にしか思えなかった。



『悪魔か、あながち遠からず、といった所かの。何度も言っておろう?魔族じゃ。と』


「何が、望みだ。」


『別に何も望まぬ、と言いたい所じゃが納得いかぬようじゃな、ふむ。では「妾を楽しませてくれ」これでよかろう。』


「私が、この想いに殉じることが、楽しいと?」


『ふん。我が主が幸せに苦しむ姿が楽しい。と言っておこうかの』


「は、酷い悪魔だ」



言うに事欠いて、幸せに苦しむとは。



『魔族じゃ。』


「そうだったな、酷い魔族だ」


『褒め言葉と受けとっておこうかの。』


「ああ…感謝する。私は、救われた。」


『ならば誓約を果たすんじゃな。ククク、楽しみじゃ。』


「期待を裏切るつもりは無い。全身、全霊で挑ませてもらう。私はもう、迷わない」


『その意気じゃ』


「ああ」


『では、もう良かろう。妾はいぬ。』


「ああ、ありがとう」



そう言って小さな魔族は夜の闇に溶け入るように消えていった。


私の涙はいつの間にか止まり、胸の痛みは再び燃え広がった炎に完全に包まれ霧散し、歓喜だけがそこにあった。

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