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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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8-5<それぞれの戦い、追う者たち3>

眼下で自由を取り戻した<ヴイーヴル>が、乗っていた3人を振り落としたのが、見えた。



『は、はははハハハハハ!!!! そのまま落ちて、全員挽き肉になってしまえ!!!!』



レキが叫ぶ。切り離された翼を浮かべ、接続させようとしながら。勝ち誇るように。



『ハハハハハハハ!!! 下等生物の人間ごときが、我ら神の使徒たる竜の民、長寿族に敵う筈が、無いのだ!! 堕ちろ! 堕ちて無様に潰れる様を見せてみろ!! ハハ、ハハハ、ハハハハハ!!!!!』


『…やはり、そうじゃったか。それにしても、トカゲの眷属程度が神だ神殺しだの。実に片腹痛い』



レキ以外誰も居ないはずの空での独白に、応える声が聞こえる。



『!? 誰だ!?』



声はする。だが、姿が見えない。



『誰でも良かろう。っとそれ所ではないか、幸いここに落ちかけの翼が数枚ある。これを拝借するかの」


『何を』


『<竜化>』



唐突に、レキが接続しようと浮かべていた切り離された翼が7枚とも集まり、一つの塊となる。


そして、塊になった翼が変形を始める。


その姿は、人並みの大きさではあるが、24枚の翼を持った、<大空の竜王>の姿。



『馬鹿な、それは』


『術は見た。現物にも触れた。ならば貴様ごとき下等生物の魔法を模倣するなど容易い。だが、ふむ。見てくれは良くないな。アレンジを加えようかの』


『お前は、お前はなんだ!』


『くどい。人にも劣るトカゲの眷属風情の貴様にそれを知る権利は無い。知りたくば精々自分の主にでも泣き付いてみるのだな。――<魔人化>』



再び塊となった小さな<大空の竜王>が、今度は人の姿を取る。


腰まであるウェーブのかかった豪快な金髪に、黄金色の眼、褐色の肌に白いラインが引かれ、頭部には2本の濃い真紅の歪曲した角。


髪と同じく金色の毛皮で下半身の大半を覆い、ふさふさの先の膨らんだ尾っぽが揺れる。


12歳程の少女に成長したマールが、現れる。


そしてその腰部には新しく、一対の真紅の翼が生えていた。



『馬鹿な、お前は、あの時確かに殺して』


『あの程度で殺せる、などと思える時点で貴様は下等なのじゃ。見逃してやる。とっとと帰るんじゃな、貴様の信ずる神…いや、<神に愛されし者>の元にでも、な』


『!? お前は、何を知って…!!』


『何でも。じゃが貴様と問答する気は無い。妾の主の女達がピンチじゃからの』



そう言って、翼を羽ばたかせマールが降下を始める。



『なんなのだ、一体。あの女は、何を召喚したのだ…』



起こった出来事、言われた言葉に理解が及ばず、呆然と飛び去る少女の背中を見送る。



『王に、報告しなくては……』



単身であれだけの絶望的戦力差を覆し、神の姿と力まで借りた自分を追い詰め、


かつてその神すら殺めた魔法まで煩わしい、とばかりにぞんざいに砕いて見せた、圧倒的過ぎる力を持った勇者。


バラバラに切り裂いても死なず、あまつさえ我々の秘術をあっさり使いこなし、何もかもを見透かしたように語った、妖精では無かった謎の女。



………得体の知れないバケモノに付き合っていては、危険だ。



今は、急ぎこの事を王に伝え、判断を仰がねば。


奴らは、これからの計画の障害になりかねない。



そう考え、踵を返し、全力で、逃げるように飛び去った。




◆◆◆◆◆◆◆◆




堕ちる。


このままでは、皆地面に叩きつけられる。時間はそれ程無い。


手を伸ばし、まずは目の前のソフィーを捕まえる。



「フィオ! 手を、伸ばして!!」



少し離れた所で落下するフィオに手を伸ばす。しかし届かない。



「……無理です」



そう言って首を振り、腕をこちらに向ける。


フィオの腕は、いつの間にか二の腕の半ばまで失われていた。



「……自壊術式が進行しました。術式回路の侵食も既に全身に及んでいます。……このまま私は他の<傀儡子の腕輪>同様、砕けます。……もう、助かり、ません」


「そんな…」



<拡声の首輪>の効果のせいで、それ程大きくも無い声で酷く淡々と語られるフィオの言葉が一言一句余さず俺に届く。



「……だから、堕ちて死んでも同じ事です。……何か助かる術が有るのでしたら、お二人だけで、お使いください」


「だめだ!!」



腕を、伸ばす。


届け、と。必死に。



「……もう、良いのです。……幸いソフィーリア様を取り戻す事には成功しました。きっと、義父も、母も喜びます。バルナムも…二人の新しい子がきっと立派に継いでくれます。……私は、居ないほうが…良い」


「………」



かける言葉が、見つからない。



「……ありがとうございます。私の体を治して下さって。……今なら、分かります。これが、この体の中から湧き出し広がる暖かな感覚が、嬉しい、幸せだな。って感じているという事なのですね。……貴方の、貴方達のおかげで、私は人間には戻れた気がします。……だから、もう十分です」



そう言って、フィオが儚く微笑む。


いつかの凄惨な笑みでなく、柔らかく、切ない、フィオ自身も初めて浮かべる、心からの笑顔。


けれども、そのまま徐々に距離を開けていく。



「……さようなら。私の…」



そこで口ごもり、言葉は続かなかった。


目じりから光るものを散らし、儚い笑顔を隠すように背を向け、フィオが離れて行く。



「畜生………」



これで、いいのか? どうせ死ぬからと言われて、救わなくても、良いのか?



「それでも、俺は…」



ソフィーは言ってくれた。


言い訳をしてまで人を救ってきたと。


俺には、救えると。そうだ、


決意を固める。


そうだ、今の俺は。


もうあの時の俺とは違うんだ。



「救いたいものは、救ってみせる!!」



怒りに身を任せ思考を放棄し、作業的に殺戮に明け暮れたあの頃の俺とは違う。


目標を失い、ただ漫然と流されるままに時を過ごした、今日までの俺とも違う。


自分が頼るべき信念は、俺の芯となるものは、最初からあった。


認めてしまえば良いだけだったんだ。


だから声に出して叫ぶ。俺の、これからの新しい行動理由を。



『よくぞ、吼えた! ソフィー嬢はまかせい!』


「マール!?」



死んだ、と思ったマールの声が頭に響いた。



「お前…てっきり死んだのかと…!」


『感動の対面は後じゃ、今すぐソフィー嬢を手放せ! 後は妾がおんしをあやつの所まで送り届けてやるわ!!』


「……分かった!」



ソフィーを、手放す。と、同時に何かが俺の腹に横合いから思いっきりぶつかり、俺を弾き飛ばした。



『行って来い! 色男!!』



視線をめぐらせる。


一瞬だけだったが、翼の生えた子供サイズになったマールが、


ドロップキックをしました。といったポーズでそこに居たのが見えた。

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