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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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7-3<それぞれの戦い、玉座の間防衛戦0>

今年に入って王宮警護兵に配置された時、俺は家族と小躍りして喜んだ。


何故ならそこは、誰もが羨む職場だったから。


まず給料面。一般の兵士よりもやや色がついていて、高額。


さらに毎日のように課せられる過酷な訓練は無く、友好国の戦に借り出される事も無く、国内の荒事を治める事も無ければ、モンスター討伐に借り出される事も無い。


つまり、荒事とは縁が無く基本的にぼんやり立っているだけで、高級が得られる職場として兵の中では有名だったのだ。



それが、何故、こうなったのか。


只の一兵卒である自分が、平和な筈の王都でこんな凄惨な戦いを強いられる事になるなどと誰が予測できただろうか?



「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、はぁ、」



息を切らせ、槍を突き込んだ<人型>が崩れるのを見送り、周りを確認する。


また、減った。



最初から寡兵だったのは確かだ。


クーデター当初に、この王宮警護兵の隊長級や反抗した者たちは、<人工人型>に手ひどく痛めつけられ、治療後は王都警護へと回された。


王都は3重構成になっている。一番中央に王城・王宮、その次に貴族街、その周りに市民街があり、3つの城壁でそれぞれが隔たれている。



今までは、王城・王宮が一番兵士が多かった。


だが、今は違う。早々に王城を制圧したバルナム卿率いる空軍は、少数で指揮系統を維持する為に、王城から大半の兵士を追い出した。


代わりに配備されたのが<人工人型>だった。空軍の仕官は一人頭2、3体の<人工人型>を操り、我々一般兵に命令した。


それが、幸いだったのか、不幸だったのかは今何処にいるかによる。


自分は間違いなく、不幸だろう。



<人工人型>が暴走した直後、元からの王都警備兵だった門番は早急に城壁を閉め、隔離した。


マニュアル通りの対応。普通なら彼らを責められるものは居ないだろう。


だが、今回はそれが逆の効果を及ぼした。


貴族街、市民街に配備された<人工人型>は少ない。問題なく倒されるだろう、だが、自分達はどうか?


見渡す、立っているものはもう、20人も居ない。



王宮に居た兵士は約100人。普段のそれと比べると1/3以下だ。


その上半分近くの人数を割いて、孤立しているだろう人の為の救助部隊を複数組派遣していた。


だからこの場で防衛戦を繰り広げた兵士はおよそ50強。だが既にその2/3近くが負傷し、後方の非戦闘員である王宮労働者達に、治療を受けている。


死者は、何の奇跡かまだ10人に届いていない。



運用されていた<人工人型>が少なかったのと、避難が迅速に行われたおかげだろう。


だが、避難した玉座の間でバリケードを作り、乗り越えて来ようとする<人工人型>を矢で、槍で落としていたその矢は尽き、


乗り越えた<人工人型>と戦い次々に兵士は負傷していく。



「くそ……」



悪態を付く。



「はぁ、はぁ、おい、槍は、無いか?」



近くに居た兵士が歩み寄ってきて、語りかけてくる。


見ると、そいつの槍はへし折れ使い物にならなくなっている。



「そのへんに、負傷兵が置いていったのが、あるだろ、」


「そうか、…そうだな!」



そう言って後ろに走っていく。



「な、んで、…俺たちは、こんな目、に、あってんだろな…」



また別の兵が息を切らせつつぼそり、と、だがしっかりと聞こえる声で言った。



「知るかよ、急に『<傀儡子の腕輪>が壊れた』とか言ってとっとと殴り倒されたクーデター派様のおかげだろ。」



俺に言った訳ではないだろう呟きに律儀に答える。吐き捨てるようにだが。



「畜生、死にたくねぇなぁ」


「折角楽な部署に就けたって喜んでたのに…」



次々と、他の兵士も泣き言を言い始める。


限界を、感じているのだろう。


恐らくこのままでは、もう後1時間すら持たせられない。



「くっそう!」



玉座の間の入り口は、崩すと内側は階段状、外側はおよそ3m強の壁になるよう設計されていた。


初めて使ったその機能は見事に用を成し、今までの俺たちの命を繋いでくれている。


そのバリケードに8分程登り、よじ登って来ていた<人型>に、槍を振り下ろす。


刺すのではない。殴りつけ、落す。


少しでも突破されるのを防がないと、身が持たない。



「うわぁ!!」



悲鳴が上がる。見ると、数メートル離れた所でまた別の兵士が叩き付けた槍を握られ、へし折られている。



「くそっ」



慌ててフォローに走り、乗り越えようとした<人型>を槍で突き落す。だが、それが不味かった。


俺が居なくなった隙をついて、一体の<人型>が背後からよじ登り、乗り越え、俺を背後から押し倒した。



「がっ、あ!」



右肩に焼けた火箸を押し付けられたような痛みが走る。


背後から、肘から先が尖り剣のようになった腕で、鎧の上から貫かれていた。


<剣持ち>だ。



<剣持ち>とはその名の通り、剣状の武器を持ったまま<人型>になったものだ。


特徴は片腕が大小様々だが大剣のようになっており、<無頭型>でないこと。


<歩兵>と比べ口が小さいせいか、剣で切り裂き、切り落とした部分を貪り食らう。



「コノ野郎!!」



先ほど槍を折られた兵士が俺の肩を貫いている人型に剣で切りかかる。


振り下ろされた剣は人型を捕らえたが、肩を20センチ程度切り裂いただけ。致命傷には至らない。


俺の肩から大剣を抜き、正面の男を横なぎに殴りつける



「ひっ」



ボグ、と鈍い音が鳴り、俺を助けようとした兵士がバリケード上から内側に吹き飛び、転がり落ちる。


…奴は運が良い。逆なら100%死んでいる。


俺も隙を突いて<剣持ち>の元を離れ、転がり落ちる。貫かれた肩は痛いが、腕自体は動く、それ程重傷ではない。


転がり落ちながら、俺の肩を貫いた<剣持ち>の動向を確認する。



「畜生、ここまでかよ…」



絶望的な気分になる。


視界の端には、<剣持ち>を含めさらに複数体の<人工人型>がバリケードを越えて来ているのが見えていた。


後ろの味方がコイツらに対応するまで、俺は生きていられるのか?


それでも、戦うしかない。俺たちが抜かれれば、後は非戦闘員しかいない。



「死にたくねえ、死にたくねぇよぉ…」



泣き言を述べ、貫かれた肩を抑えてなんとか敵に向き直る。


最前線には剣持ち。その背後に上がって来たのは…3体。


戦うしかない。逃げる場所は、無いんだ。



「ちきしょおおおおおおおおおおお!!」



絶叫し、槍を出鱈目に振り回して牽制する。


時間を、味方が登ってくる時間を、少しでも稼ぐんだ。


だがそんな必死の槍も、無造作に振るわれた腕剣に弾かれる。


膂力が違う。1対1で戦える訳が無い。俺は、ここで死ぬのか。


槍を弾いた剣が、横合いから俺を狙う。



「嫌だーーーッ」



咄嗟に弾かれた槍をそのままの勢いで立て、剣を柄で受け止める。


だが、受け止め切れなどしない。


槍と鎧のおかげで切り殺されはしなかったものの、無様に吹き飛び、転がされる。



「げほっ」



ああ、だめだ。後続の3体にまで抜かれてしまった。


皆あの3体の対応に追われるだろう。


もう、俺に援軍は望めない。


俺は見殺しにされる。


手ひどく一撃を食らったおかげで膝が笑い、体も上手く動こうとしてくれない。


このまま、コイツに切り殺されて終わりだ。



そう思った直後、バリケードを乗り越え、<人型>よりもさらに巨大な影が戦場に踊りこんだ。

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