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2つ目の異世界  作者: ヤマトメリベ
第3章 クーデター編
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5-4<治療>

「………これが、治療……ですか」



アーリントン家のとある一室の寝台の上に、仰向けになって力なく寝転んだフィオが、その片方の瞳で自分を正面から見下ろしている俺を見つめ、淡々と言う。


収監された際に着替えさせられた簡素な衣装は脱がされ、着けているのは肌着だけ。それも下半身の大事な部分を秘匿する1枚のみ。


…さらにはそれも着崩れてしまい、かなり、際どい。


正直、眼ぷ…いや、目に毒な格好。肌も桜色に染まり、息も絶え絶え、と言った体になっている。


…べつに卑猥な行為の結果、という訳ではない。


ソフィー、メリアと同じく、<走査><記録><生命強化>と施した、その感想の第一声だ。


彼女の過去と、<走査>で確認した彼女の全身の状態を考えると、その感覚に嫌悪感を抱いても仕方ないだろう。


まだ何も分からない生まれたばかりの少女でもなく、自ら進んで求めたソフィーたちとも違う。


此方の意思で、一方的に行ったのだ。


さらには事の最中に『背徳的じゃな』などと言われ、改めて見つめ直したその状況に動揺し、かなりの回数の乱れを産んだ為に、俺にもかなりの余計な感触が残っている。


ソフィーにも劣らないサイズであって、より張りのある胸部とか、痛々しい状態だがその実メリアよりも、ソフィーよりも柔らかい体だとか。他にも…


………いやまて、落ち着け、そっちの方向への回想はいけない。


邪な感じの思考を必死に追い出し、再びフィオの経過を見つめる。



「……私を、辱めて、……満足……ですか…?」


「…」



そんなつもりは無いのだが。


俺の危惧しているのはここからだ。多分然程時間はかからない。もうすぐ…


<走査>で確認した彼女の体の状態と魔法脈からすると、まず間違いなく……



「……何か、言った、ら…? ………っ!? がっ…あ………!? う、ひ…、あ、あああ゛ア゛ア゛ガ、ア゛―――――――!!!!!!」



…やはり、始まった。



「―――<ヒーリング>」



さっと詠唱を終え、治癒魔法を施す。最も、これは気休めに過ぎない。



「――――!!? ――――!!!! ―――――――――!!!!!」



全身を強張らせ、白目を剥き、フィオが痙攣する。


限界まで開かれた口は何かしら叫んでいるようだが、最早声になっていない。



「何が、起こっているのですか?」



ソフィーがフィオの状態に驚きを隠せない声で聞く。



「彼女の魔法脈は<自動治癒>の原種のようなものを維持する事にその殆ど全てを費やしてたんだ。

…そこに<生命強化>を割り込ませるようにして施した。

 だから今本来ゆっくり時間をかけて定着…いや、矯正されるべき魔法脈や体が物凄い速度で再最適化されている。

 …有り体に言えば、<自動治癒>と<生命強化>のせいで、不具合のある患部が急速に砕けて、再生してる」



一瞬で最適な状態になるなら良いのだ。だが、どうしても<自動治癒>が勝る。


そして<自動治癒>が治した部分の大半は再び<生命強化>に異常と判断され矯正と言う破壊が行われる。


本来なら、ほんの少しだけ破壊、適正な状態に再生、それが済んでからまたほんの少しだけ破壊、とじっくりと時間をかけて行うので、本人が苦痛を感じることは無い。


それが同時に二つが作用する事によって爆発的に反応し、全身を許容量を遥かに超えた激痛が苛む。



「<生命強化>は子供が健康に、健やかに育つためのもの、ということではなかったか?」



今度はメリアだ。また振り向かず治癒魔法を続けながら答える。



「その通り。健やかに育てるように『体の異常を一度全て最適化する』んだ。だから一旦奇形も、持病も、障害も、傷跡も、全て矯正して健康体にする…」



激しく全身を痙攣させ、目を、口を、限界まで開き、涙を流し、よだれも垂らし、異常なまでの発汗、さらに自ら引っかいた事による出血、爪の破損、…そして失禁、


目を、背けたくなる。


たとえ激痛に耐え切れず失神しても、即座に反応した<自動治癒>に嫌でも意識を戻される。


脱水症状も、ショック状態も起こる事事態が許されない。


脳内物質が過剰分泌される事すら阻害され、慣れる事も出来ず、痛みから逃れる事が…許されない。


いわばどんなに行き過ぎても開放されることの無い拷問。



…覚えがある。これはまだ若干軽度ではあるが、あの時の自分と同じ。


だから、治癒魔法をかける。これは鎮痛になる。


あの日俺が、俺の心が砕けきらなかったのは、こうして治癒魔法を施してくれたティーナのおかげだ。


だから、俺も施す。俺のときのように救いになってくれれば良い。



「この状態は、どのぐらい続くのですか…?」


「多分、今から24時間がピークでその後は痛みも耐えれる程になって定着を始める…と思う」



これは<走査>から予測した時間。


俺の時のピークは一週間以上で、定着するのに1月を費やした。


だがあの時とはかけている魔法の数も、質も違う。そんなものだろう。



「では、私も交代で<治癒魔法>を施しましょう。ユートさんが24時間つきっきり、という訳にもいきませんですし」


「それは…」


「なら私にも任せて貰おうかな。これで治癒魔法は得意なんだ。セバスよりも上手い自身がある」



ソフィーに続きメリアも申し出る。…ありがたい。



『…何故あの時自分で治癒魔法を使わなんだんじゃ…?』


「あ、あの時は! …その、気が動転して………」


『頭が桃色に茹で上がって、の間違いじゃろうに』



恨めしそうに呟いて、マールが混ぜっ返す。


ちなみに今は俺の頭の上でなくメリアの頭の上に居る。



「お姉様……いえ、お姉様らしい、と言えばその通りですわね。ともあれ、わたくしも施しますわ。<治癒魔法>。王家の血筋の娘が3人も居れば<治癒魔法>を24時間かけ続けるなど造作もない事ですわ」


「皆………ありがとう」



水晶状態から開放されたマールはまた魔力切れだろう、だがメルも手伝うと言ってくれる。


…本当にありがたい。この状態の時の<治癒魔法>は唯一人間らしい思考が戻る時でもあるのだ。



「……ぎ、がぐ…い…ぐ……わ、…………た、……し、…………は」



そうこう話していると、限界まで開いていた口をギリギリと閉じ、フィオが声を作る。


まさか、と思い覗き込んだその瞳に、明確な感情が宿っている。



「もう、話せるのか…でも喋らない方が良い。喋るだけで痛むだろ?」


「…………わ………たしは……そ……い、…ギ………ア、な、……………………い」


「そう言わないでくれよ。それにこれは俺の自己満足だよ」


「…な………………ぜ………………」


「俺も同じ体験をしたから、かな。その時の<治癒魔法>は俺の救いだった」


「…す……………く……い…………?…………」



分からない。そんな瞳だ。


無理も無いだろう。でも理屈じゃない。


ただ自分の時の事を思い出し、なんとなく救ってあげたい。と感じたのだ。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「失礼します。皆さんここでしたか…………これは?」


「フィオの治療中、ですわ。セバス」


「そうでしたか…いえ、それよりも報告を」


「いいぞ」



メリアが促す。



「はい。陸・海軍は予定通り『演習中に事故が起こり不時着した空軍』を保護に向かいました。それから、飛竜の準備が整っております」


「そうか、では、出るか」


「そうだね」「そうですね」『そうじゃの』「そうですわね」



みなまでも無い。最大の攻撃であったろう空軍の侵攻を止めたのだ。ここからはこちらのターンだ。


電光石火で進撃し、この争いで貴族連中が介入を始める前にバルナム卿との会談を設け、事態を治めるのだ。



治癒魔法を維持したまま、水魔法を行使し、ざっとフィオの全身を洗い流す。


さらにそのまま抱き上げ、踵を返し、部屋を後にする。


反撃作戦が始まる。

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