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皺くちゃな年賀状
家の仏壇には皺くちゃな年賀状が額縁に入れられて飾られている。
鉛筆だけで描かれた朝日が昇る密林の絵の年賀状。
数年前亡くなった父の、大戦中戦死した年の離れた長兄が描いた物。
此の年賀状は戦争が終わってから数年経った木枯らしの吹く11月の終わり頃、長兄の戦友だったという方が届けてくれた物だと昔父に教えられた。
届けてくれた方の話しでは、部隊がビルマのラングーンからインパール方面に移動する前日に空襲に合い、投下された爆弾によって片足片腕を失う重症を負った彼を残して部隊は移動する。
その際、仲の良かった長兄から託されたのが此の年賀状だった。
長兄にはこう言われて託されたと言う。
「後送されて日本に帰る事ができたら、此の年賀状を家族に届けて欲しい」
バンコクの病院で日本に後送されるのを待っている時に敗戦になり、イギリス軍の捕虜になる。
その際、持ち物を全て取り上げられそうになったが年賀状だけは、傷口を覆う包帯の下に忍ばせて隠し通し見つからずに済んだという。
届けてくれた時に隣県に住むその方は、皺くちゃにしてしまった事や届けるのが戦後数年経った今になってしまった事を、何度も何度も詫びた。
だけど父や祖父母からしたら、戦死公報とカラッポの遺骨箱しか帰って来なかった長兄の遺品を届けて貰った事に感謝する気持ちしか無く、泣きながらその方に感謝の気持ちを口々に伝えたという。
私は仏壇の前に跪き香炉に線香を立ててて拝み、伯父たちが流した血の代償として得られた平和に過ごせる日々を感謝しながら、仏壇に話しかけた。
「お父さん、伯父さん、新しい年になりました。
あけましておめでとうございます」




