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剣劇魔王の竜祭儀(ドラマツルギ)  作者: LOVE坂 ひむな
過去編は語り直されよ
17/59

祭礼:ワイルドハント・ブレイクオール

 飲めや歌え。吐いては食らえ。明日をも知れぬ身の人の子なれば。


 成人式でのことだった。披露宴でのことだった。もしかすると告別式でのことだった。


 時間と空間との限定の下に意味領域が創り出され、社会秩序は反転する。

 人はすべてのしがらみを忘れ、心を解放する。


 御祭り騒ぎである。




 舞台が廻る。


 革命の歌が響き渡る。

 王という王すべて死ね。

 人間の自由に栄光あれ。


 凱歌は闘争心を模っている。


「お前たちの運命はお前たちのものだ。わたしは必要なかったな」


 古びた王が、自ら断頭台へ登る。当時すでに、舞台の上にのみ居場所を見出していた。神話に近い歴史の中の人物だ。

 万雷の拍手の中で、演者は終劇に向かって頭を下げる。


「自由を謳歌せよ。お前たちは遠からず、第二第三の魔王(わたし)をかたどるからである」


 王殺しの刃が落ちた。



「魔王というキャラクターは、人気を見込んで、無関係の作品にも登場させられることがあったのです。ほんの二百年前という最近の作品でも冒頭に、王公の革命劇に通りがかり、当の王家のついでに斬首される場面が描かれているのです。この場合は、滅びゆく王統にあって気高く終わりを飾る、という主題にも関わってはいるのです。お話のハイライトは革命前夜の場面なのです」



 月明かりが露台を照らす。

 ここは宮殿である。

 露台は、月光を浴びるために最も相応しく張り出していた。


 地上から伸びた梯子は撤去された。

 革命前夜の貴種に、援助者たちは落ち延びるよう説得を試み、失敗に終わったのだ。


「明日には革命の凱歌が響きましょう。じつに我々にとって、愚王の子であるとは、死に値する罪ですよ」


 受け継ぐ能力ゆえでも恵まれた養育ゆえでもない。

 王族は偉いから偉い。

 滅びゆく価値に、貴種たちは殉じた。


 王という王すべて死ね。

 人間の自由に栄光あれ。

 遠からず、第二第三の魔王をかたどるからである。




 舞台が廻る。


 都市が拡大し郊外を呑み込む中、夜の街道を走る荒くれ者たちがいた。

 目的地はなく、目標はなく、風導戦車を走らせる。


 風が彼らの王であり、剣であり、歌だった。


 風導戦車を速く走らせるには、帆の制御と風要素魔力の制御とが必要である。過てば、乗り手の命は終わってしまう。

 互いに競走相手でもある同朋たちの間に、暴力的な連帯があった。

 生み出す風が互いに干渉しないよう無言の協調が求められ、そして馴れ合いへの堕落を嫌う。夜駆けの徒党に甘えた輩は不要だ。


 あらゆる時代あらゆる地域の荒くれ者たちと同じく、彼らも酩酊を神とした。

 〈愚者の聖杯〉という器がある。


 荒くれ者の頭領が、長く尖った杯を掲げ持ち、杯を乾す、と宣言する。

 飲み干すまで置くことはできない。形状が許さない。


 頸を大きく反らして中身を喉に流し込むと、杯を突き出して叫びを上げる。

 杯は蛮勇を模っている。

 荒くれ者は将来を思わない。飲め。吐け。走れ。


 仕える主君はなく、誓いを立てる剣はなく、武勲を伝える詩はない。

 風が彼らの王であり、剣であり、歌だった。



「成立年代でも舞台となる年代でも、飲酒運転は法により禁止されているのです。地域によっては酩酊しての歩行にも刑罰が定められます。絶対真似しちゃダメなのですよ? 置けない杯にも、平衡が取れないもの、指で塞ぐための穴が空いているもの、など多くの種類があるのです。穴が空いた杯を通過した飲み物は聖なるもの、とする文化もあちこちにあったようなのです。

 また、動物や人間の角は広い地域で魔除けなり祭具なりに使われていたのです。次に上げるネズミ捕りの笛も一環なのです。動物操りの笛として、もともと、竹、木の葉、貝、骨、などさまざまな素材のものが伝承されていたところ、ある時期から角笛が取って代わり急速に広まるのです。魔王伝承の変遷との関連が問題にされ、いまだよく分かっていないのです」



 山賊が減ると、通行者同士の喧嘩や事故が街道の問題となった。

 官吏が街道交通の取締を行なう。

 通称を、ネズミ捕り人という。

 当時は権限が強く、場合によっては速度制限竜スピード・オーダー・ドラゴンまでもを詠唱することが許される。大気に音速の壁を設けたのは、この亜竜である。


 多くのネズミ捕り人は、自然界に通じる力を有した。乗り手たち同様、彼らもまた混沌より生まれた者である。

 官吏と荒くれ者たちとの敵対は、友情でもあった。


 結果的には、外的要因が夜駆けの乗り手たちを追い払った。街道はさびれ、生産と輸送は有様を大きく変えた。

 そして荒くれ者は、朋友や長幼の関係を職能集団に引き継いだか、走る道を野原に見出したか、それとも、風の向こう側へと消えて行ったのか。


 風が彼らの王であり、剣であり、歌だった。

 滅びゆく価値に、荒くれ者たちは殉じよう。




 舞台が廻る。


 今となっては神話に近い、歴史の中の一幕だ。

 兵士は息も絶え絶えで、衣服もぼろぼろだった。


「ですから、王よ、どうかお聴きください。私が見た、信じがたい事跡の数々を、凄まじい王のことを」


 彼は、伝説を紡ぐために、長い距離を走ってきたのである。



「魔王譚といえば、瀕死の兵士が語るという形式の中で進行するものが有名なのです。兵士の語りは、生活規範や諸学問の記述に脱線し、長い伝本でおよそ三万行に及ぶのです。けっこう元気なのです。あからさまに後世の挿入である箇所も多くあるのです。異本の相互関係や成立過程はかなり分かっているのです」



 誰もが呆気にとられた。

 魔王が手をかざす先で、山が動いていた。


「これが、覇王の地政学だ。後世には、動く島の伝説が語られることになる。旅人たちが巨大な亀または鯨に上陸し、島だと考えて火を焚き、驚いた亀か鯨は水に沈むので、旅人たちは死んでしまうのだと語る。笑い飛ばすに値する。経験した者が死んでは、誰が語り継ぐというのだ。実際は、わたしが陸の上で山を動かしたのである。あまりにも信じがたいとみえて、場所を海に移し、巨大な海の動物を登場させるのであろう」




 舞台が廻る。


「あなたに教えておく。覚えよ、わたしの亜竜人。メオレム、エテルレウゲム、アグロテビレム・ドゥズゴイア。レウグル・エイテラジル・エオン」




 舞台が廻る。

 廻るたびに過去が再生し、魔王ゆかりの伝承を映し出した。


 やがて、蛍光灯が教室を隅々まで照らす。

 ここは学園迷宮、〈時空(ジクウ)円周城(エンシュウジョウ)コーギトー〉である。


「駆け足ながら情報源を紹介したのです。気になる点、不明な点がありましたらどうぞなのです」


 亜竜人ヴィクロム・インヴィットは尋ねた。


「終わりの方で、俺に魔王語で話しかけてきた気がします。あれ何て言ってたんですか」


 聖女は首を傾げた。


「そんな映像あったのです?」


 映像を手元で何度か眺めてから、答えた。


「ないのです。たぶんインヴィット君にだけ聞こえたのです。言い換えると、当人が直接話しかけたのです。喜ぶのです」




 種まきと成人の春祭りに、納涼と結婚の夏祭りに、収穫と慰霊の秋祭りに、冬至と再生の冬祭りに、年ごとの祭礼にあたって、御祭り騒ぎは繰り返す。

 異界に近づく時や近づく場所には、種々の鬼神や祖霊が現れるのだという。

 とりわけ前夜祭の行列の中には、何が化けて出ていても不思議ではない。


 飲めや歌え。吐いては食らえ。我ら明日には朽ちる身なれば。


 魔王は囁いた。


MEOREM(わたしは魔)ETERLEVCEM(わたしは異界)ACLOTEVLEM(わたしは踏破され)DVSGOIA(ざる未知である)LEVCR(世界の)EITERASR(残り半分で、)EON(わたしは、ある)

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