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剣劇魔王の竜祭儀(ドラマツルギ)  作者: LOVE坂 ひむな
過去編は語り直されよ
14/59

プロローグ:勇者らの決戦を、霊が語り給え

 人の子は理解しないからである。


「五識の鏡」

「分割双剣」

「陽公子、は使えないな」

「引きて押す茶葉結界」

「黒の相乗だと。襤褸の浄」

「重ねること二つか!」

「魔法〈音の向こう側〉」


 魔王が押し負けた。


「くく、あっはは。わたしが一本取られたな」


 愉快に笑う。

 註釈者が伝えるには、「鏡」に淵を定めたことが勝負を分けたという。また「浄」の札を切らなければ勇者らは全滅していたはずだという。


 戦いにはそれぞれ文脈がある。

 乗り物競争の語りは、乗り物競争のコードに則る。

 見世試合は、見世試合のコードに則る。

 剣術小説は、剣術小説のコードに則る。


 勇者らは魔王を打倒するに至った。最後の戦いは、経験したことごとを踏まえて演じられた。

 全貌を把握することは、今や誰にもできない。




「こんなとき君が傍にいてくれると嬉しいな。魔法〈ナイト・オブ・ワイツ〉」

「亡者も、そう思います」


 魔王は呪文を唱えた。亡霊戦士が現れた。


「あなたの語る美食を味わわず仕舞いとなりそうだ。魔法〈フォーク・テイルズ〉」

「なあに、わらわが麺でもこねてくれよう」


 魔王は呪文を唱えた。幻影狐狸が現れた。


「わたしはあなたの母親ではない。魔法〈ウォー・ホーク〉」

「知っている、知っているとも。俺は分かる男だともさ」


 魔王は呪文を唱えた。仮想将軍が現れた。


「魔王軍、総勢一名参陣」


 使い魔たちを現出させ、自ら嘲って宣言する。

 ここは魔王城である。

 残ったのは彼女一人だけだ。




 使い魔たちについて、物語の断片が伝えられている。

 魔王を倒すに至る旅の中で、立ちはだかったという。


 草花に埋もれた廃墟の中で、戦士たちは対峙した。


「生きてた頃のお前となら、ダチになれたかもしれねえな」


「亡者も、そう思います」


 敵は首をなくし、決まった言葉を繰り返すばかりだった。

 鎧を剥がし、剣を折り、拳で殴り合って倒した。

 制した者は、後世の勇者像の中で、拳闘と治療を得意とし実直の美徳を担うとされている。


 偉大な河の上で、戦士たちは対峙した。


「まだ、人の子がお嫌いですか」


「おぬしは嫌いではないぞ。楽しかったからの」


 敵は尻尾を豊かに実らせていた。

 数百年は戻ってこないよう放逐した。

 制した者は、後世の勇者像の中で、観察と戦術を得意とし節制の美徳を担うとされている。


 いまだ不気味な戦場跡で、戦士たちは対峙した。


「てかおっさん、帝国将軍じゃん。なんでそっち側にいたのさ」


「分かったんだよ、魔王に勝てないことが」


 敵は帝国人としての技能と魔王配下としての力を持ち合わせた。

 多くを語らず、満足げに死を遂げた。

 制した者は、後世の勇者像の中で、魔法を得意とし慈悲の美徳を担うとされている。




 最後の戦いは容易に決着しない。


「第二形態だ。見たまえ、婚礼衣装向きではないか。自力で歩けないのだからな」


 豪奢なドレスは固定砲台だ。

 強大な魔法が飛ぶ。近づこうにも、辺り一面に罠がある。


「逃げ惑うわたしは滑稽だったかな。今度はお前たちが逃げる番だよ」


 戦闘場面としてよく知られる。

 制した者は、後世の勇者像の中で、剣術を得意とし信頼の美徳を担うとされている。


 剣士は仲間の声を頼りに、罠を避けて魔王に接近した。

 頭上を掠める致死の魔法も、たびたび不安を煽る囮も、彼を止めなかった。


 剣の戦いになれば、魔王をしだいに押し始めた。

 ついに剣士が足を斬りはらう。魔王の身体が傾ぐ。


 勇者らは、つぶやき声を、魔法の言葉と判じ損ねた。


「あんたなんか大っ嫌い。はりぼて。できそこない。死んじゃえ。死なないで。虚礼から連れ出してくれればよかった。名誉なんて笑い飛ばしてよかった。中途半端に騎士ぶるな。後悔するなら置いていくな」


 戦いには文脈がある。

 最後の戦いは、経験したことごとを踏まえて演じられた。


「いなくならないで。魔法〈魔王の懐刀〉」


 魔王は呪文を唱えた。

 大剣が生えた。


 胴を貫いて刺さり、失われた足の代わりに身体を支える。


「最終形態だよ」


 放っておいても死ぬような状態で宣言する。戦いを続行する。

 油断ならない、と相対者は知っている。




 勇者らは魔王を倒した。

 最終的にどのように倒したかは、明らかでない。


 虚構性の高い伝説が曖昧に語るには、過去と未来とをすべて捧げた一撃を放ったという。根拠もなしに倒せることを確信し、賭けられるものをすべて賭けたという。


 魔法の戦いの勝利とは、相手を見惚れさせることだった。

 余人の知りえない前提のもとで、魔王は感じたはずだ。


「これになら、殺されてもいい」

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