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8話 買い出し、参拝、そして練習in雑司ヶ谷1

 ギンコと共に、買い出しに出ていた。


「お、昨日上げたツイート小バズしてる」


 ARディスプレイに表示されるツイッティング画面を視界の端で見て、俺はぽつりとつぶやいた。「んん?」とギンコが俺の顔を見上げる。


「何をツイットしたのじゃ?」


「死体の集合体を電車でひき殺した時の写真」


「何をしておるか……」


 呆れ顔のギンコが「お、安い」と一瞬で興味を失って鶏肉を買い物かごに移した。10個くらい。いやまぁ安いけどさ。


「狐なら油揚げじゃねーの?」


「油揚げは元々、肉を捧げものとして安定確保できなかった代替物じゃ。何が悲しくて、鶏を買える環境で油揚げを食うのか」


「油揚げでおいしいレシピ見つけたから作ろうかと思ってたんだけど」


「油揚げも同じだけ買おう」


 またもやどさどさとカゴに詰め込むギンコ。こいつも極端だな。


「そんなに食えねーよ。今の拠点で後何食するつもりだよ」


「何を勘違いしておるか。すべて儂のじゃ」


「何だと」


 まさかの展開だった。俺はどうやら料理担当専門らしい。いや少しくらい食わせてくれよ。


「ギンコ体の割によく食うからなぁ……」


 むしろ俺が体の割によく食わないというか。ギンコが居なければ、食費削って武器を買い漁ってたかもしれない。


 食費削って、で思い出した。


「あの~……ギンコさん、ちょっとご相談があるのですが……」


「む、やめよコメオ。お前が下手に出るのは不吉の兆しと相場が決まっている」


「そこまで言うことなくねーか」


 明日は雪か台風か……。とこの夏前半の晴模様を前にうそぶくギンコだ。だが俺はあくまでおねだりする立場、ぐぬぬ、と思いつつも感情を抑えこみ、デバイスでそっと画面を見せた。


「何じゃこれは」


「欲しいものです」


「自分の金で買えばよかろう」


「いやぁその、今月ソードブレイカー買って厳しくって……」


「とはいっても“べーしっくいんかむ”があるではないか。あれを足してもダメか」


「ダメです……」


 ギンコは「はぁぁあぁぁ……」と思いため息。「スイマセン」と俺はとても腰低くおねだりする。


「儂の主義は知っておるな?」


「うん。金の貸し借りは人間関係を壊すからダメ。プレゼントか、対価を用意すること」


「うむ、よくよく理解しておるな。で、今の儂の立場からすれば、特にコメオに何かを贈ってやる理由もない。誕生日も過ぎたばかり。となれば、対価を用意してもらうのが筋となる」


「お願いします。何でもしますから」


「今何でもと言ったか?」


「ほどほどに何でも」


「それは何でもではなかろう」


 ギンコはクスッと笑って、「ふーむ」とアゴを親指でさすりさすり考える。


「コメオ、買い出しには付き合ってもらっているが、この後の予定はどうするか決めていたか?」


「割りと。つってもダンジョン潜ってひたすらボス練するだけだけど」


「ぼすれん、とは何だったか」


「狙いのボス相手に無限に殺し合う奴。ノーダメを十連続で達成するまでは時間がある限りやる」


「その一心不乱さが他にも向けば、それこそ何にでもなれたじゃろうな」


 とはいえ、これがコメオか。ギンコはツンとすました顔で目を瞑り、それから開眼。俺を真正面から見つめて、こう言った。


「ならばコメオ、お前の今日一日を、儂に献上せよ。要するに、でぇとに付き合え。さればそのよく分からん機材を買い与えよう」


 返答や如何に、とにんまり問いかけてくるギンコに、俺はへの字口で考え込む。


「今日一日、か……」


 腕を組んで、顔をしかめてしまう。いや、ギンコとのデートが嫌とかそういう事では決してない。それだったらそもそも一緒に旅なんてしていない。


 問題は、今日一日、という点だ。


 何故なら、俺たちはアドレスホッパー。しかも今の拠点には一週間と決めて滞在している。そして残るは六日ばかり。その六日という少ない時間の内、一日をもRDA以外に費やさねばならないのか、という葛藤だ。


 俺は唸ってから、こう提案した。


「今日じゃなく、次の拠点で一日、とかはどうだ。中継ぎで一日しか泊まらない宿とかあるだろ。そこなら攻略もクソもない。むしろギンコとのデートを心から楽しめるってもんだ。どうよ」


 ギンコは「ふむ」と目を斜め上に持って行ってから、こう言った。


「納得しかけたが、コメオ。お前はあーるでぃーえーが出来ずとも、とりあえず攻略、と言って飛び出してしまうじゃろう? 前にもそんなことがあったぞ」


「……アッタネ」


 ぐうの音もないわ。あったもん。帰ってきたらギンコがすげー不服そうな顔で待ってたの覚えてるもん。ごめんあの時は。


「コメオ、なれば、儂の要求は変わらぬ。今日一日じゃ。嫌ならば断わってくれてもよい。儂はフラれてしまった悲しみに打ちひしがれながら、元々立てていた予定をこなすとしよう」


「あー分かったよ。今日はボス練じゃなく、デートの日だ。代わりにさっきの奴頼むぜ」


「ふふん、任せろ。あの程度の金額、儂の懐から見ればはした金よ」


 ドヤるギンコに、俺はハハー、とひれ伏すばかりだ。流石有名配信者。登録者数的に、多分常人の五倍稼いでいるのがギンコである。


 ……これ客観的に見るとヤバいな。幼女に金をせびってひれ伏す成人男性か……。レベチだな。もちろん低い方で。


 ご満悦な様子でギンコはざかざか食材を籠の中に詰めていく。料理は交代制だが、今日の献立一体何になるのか分からんな……、と思いつつ眺めた。それから、「んで、今日って何する予定なんだ?」と俺は尋ねた。


 ギンコは振り返って、ニッと答える。


「コメオの攻略配信で急に旧友と会いたくなってな、奴を尋ねようと思うておるのよ」











 ギンコに連れられて、何とも趣深い道を通る。


 左右を小高い木々に挟まれて、その道は続いていた。石畳の床。チラチラと動く木漏れ日。道途中にある瓦屋根の駄菓子屋の奥でおばあちゃんが団扇で涼んでいる。


「都心も長閑なもんだな」


「ゴミゴミしているのは本当の都心ばかりよ。住宅地に入れば静かになるし、さらに離れれば一面が緑になるのはよく知っておろう?」


「あーアクセスゴミの拠点が脳裏によぎる……。一面のクソ緑……」


「あそこは大変じゃったなぁ……。二人揃って免許もないまま、車でしか行けない拠点を予約してしまったばかりに」


「タクシー頼んで片道七千……。周囲に店もないと判明して買い出しでまたタクシー頼んでさらに七千×二回……」


「あの頃は登録者数も全然なかったからの。困窮しているところにあの出費は痛かった」


 昔懐かしの嫌な記憶だった。無人タクシーが普及した今でも、地方の暮らしというのはどこか前時代的なところが残る。無人ならもっと安く使わせてくれや……。


 そんな過去の恨み言を考えていると、ギンコはそのまま道を抜けてしまった。ここに用はないのか、と俺はチラリ道を振り返る。


「結局どこ行くんだ?」


「もう目と鼻の先じゃ。ほれ、そこ」


 ギンコがアゴでくいっと指し示す。その先には、立派な門構えの神社が建っていた。


 神社というのは大抵二種類あって、一つは神秘的で荘厳で活気に溢れているタイプ。もう一つは、見るからにヤバイタイプだ。


 ここは都心だけあってもちろん前者で、観光客もいつつ巫女さんが掃除もかけつつ、という具合だ。活気に満ちている神社は、何だか気分がよくなる。


 まっすぐ進むギンコについて行くと、本殿で立ち止まった。普通に参拝するらしく、カバンからゴソゴソ財布を取り出して、小銭を漁っている。


「コメオ、小銭あるか。5円」


「10円でよくね。二倍ご縁あるだろ」


「そうじゃな、10円でよいか」


 ギンコは俺に10円手渡してから、垂らされてる縄を握って、カランコロンと鈴揺らす。それから自分の分の賽銭を、賽銭箱に投げ入れた。


 続いて二礼二拍手一礼を済ませて、じっとしている。「お願いごとでもあんの?」と問うと、「何のことはない。ただの挨拶よ」と答えられた。


「さて、如何せん。旧友じゃが、どう引っ張り出したものか」


「ん? さっき言ってた旧友さん? どっかに居んの?」


「多分な。とりあえずコメオ、お前も参拝するのじゃ」


「そうすっかね」


 俺もギンコにならって鈴をじゃらじゃら鳴らし、賽銭を投げ、二礼二拍手一礼だ。ここの神様は何て名前かな、とちらり上の大看板の文言を盗み見た。


『神母子鬼』


 子鬼が祀られているとは珍しい神社だ。


「逆よ逆! 右から読むのよ!」


 本殿の奥から女性が乗り出してきて、俺は「うおお」とのけぞった。誰かと思えばキッシーママである。ザクロもお子さんも抱えていないと、古めかしい格好なだけの普通の女性に見えるから不思議だ。


「おお、コメオに参拝させたらもしや、と思ったが、うまく行ったな」


 ギンコがしてやったり、とドヤ顔をしている。後ろの方で「鬼子母神様が出てくるとは珍しい……。ありがたやありがたや」と観光客のご老人たちが祈っている。


「ああ……。あまり人目をひきすぎるのも良くないわね。お上がりなさい、二人とも。仕方がないからもてなしましょう」


 不承不承、といった雰囲気で、キッシーママは本殿の奥に引っ込んでいった。ギンコは「ではありがたく」と気負いもなく上がっていくので、とりあえず俺もそれにならって招かれる。


 靴を脱いで階段を上り、正面畳を横に曲がって廊下を渡る。そうする中で、ぐんにゃり違和感が襲ってきた。時空の歪む感覚だ。そういうダンジョンで初めて味わった時は思わず吐いてしまったことを思い出す。


「まったく、攻略に来た若者が異様に強いと思ったら、あなたの差し金だったのね、ギンコ」


「いいや、コメオを差し向けることなどない。こやつはいつだって自ら飛んでいくのじゃ。儂に制御のしようもない」


「なおさら悪いわよ。道理で規格外だと思った」


 前で二人が話しているのを、俺は口を曲げながら聞いていた。「この部屋よ。すでに歓待の準備は出来ているわ」と超速準備の済まされた和室に通される。


「あっ! 人間! 何故ここに!」


「あ、キッシー君じゃんこんちー」


「キッシー君!?」


 通された先には、お釈迦様の仏壇を守っていたキッシーママの息子が居た。キッシーママの息子だからキッシー君と適当に呼んでしまったが、ネーミング的にはめちゃくちゃだなぁと自分で思う。


「ともかく、お座りなさいな。歓迎するわ。不服だけれどね」


 キッシー君の横に、しずしずとキッシーママは座る。何という展開だろうか。配信しておけばよかった。


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