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4話 移動日、都心の拠点へ

 電車に、揺られていた。


 窓の外の景色は、いつしか田んぼではなくビル郡に変わっている。乗り継ぎ乗り継ぎで疲れたらしいギンコが、俺の肩に頭を預けて眠りこけている。銀色の狐耳が俺の頬をタシタシ叩く。


 俺は「くあ……」と大口を空けてあくびをし、それから電車の揺れで遠くに行きそうになったキャリーバッグを慣れた手つきで引き寄せた。


 そして思うのだ。


 移動日はやっぱダルい、と。










「到! 着!」


 ギンコはとても元気に両腕を上げ、そんな風に叫んだ。駅前。周り行く人々が、何だ、というような目で見てくる。叫ぶな。


「いやぁ長旅であったなコメオ。さ、このまま今宵の拠点まで案内せよ」


「はいはい。メイディー、今日の拠点まで案内して」


『かしこまりました。本日の拠点までの経路を表示いたします』


 バーチャルメイドアプリことメイディーは、ぺこりとかわいらしくお辞儀してから、地図アプリを立ち上げて俺の視界に青く立体矢印を表示した。


「サンキューメイディー。愛してる」


『私もです、コメオ様』


「人工知能といちゃつくなコメオ。いちゃつくなら儂といちゃつけ」


「ギンコといちゃついたら俺のチャンネル燃えちゃうじゃんやだ」


 というか『俺といちゃつけ』構文流行らせるのやめろよ。反応に困る。


 俺はギンコの要求を即断ではね除けつつ、ギンコのキャリーバッグを引いて歩き出した。ギンコは俺の拒否に、特に何も感じていないのだろう。俺の軽いバッグを背負い直してついてくる。


「して、今日もあーるでぃーえー、か?」


「そりゃもちろん。と言いたいところだけど、その前に攻略だな。都心駅構内ダンジョンの感覚を取り戻しておきたい」


「つまり迷宮ではないか。儂にとってはどちらも同じよ」


「確かに」


 RDAに興味なければ、違いなどあってないようなもんか。


 俺はメイディーの案内に従って左の小路に入る。ちょっと下り坂。キャリーバッグを半分手放し、小走りで後を追う。楽。


「コメオ、子供のような真似をするな」


「いいじゃん、ギンコの荷物重いんだよ。何入ってんだこれ」


「普通の物が入っておる。着物に日用雑貨。諸々をいれたらそのくらいになろう」


「俺の諸々、ギンコの背負ってる奴に全部入ってるけど」


「お主が不衛生なだけよ」


「不衛生ではないが」


 失礼な奴だ。汗とかかいても死んでリポップすれば服も清潔な状態になるので、着替えとかあんまり必要ないだけなのに。


 そんな話をしながら拠点に到着。何か入り口の壁にアーティスティックな落書きがされている。良い。


「コメオ、錠の番号を言うから開けよ」


「ほいほい」


 言われるがままに番号を揃えて鍵を開ける。そして玄関を開くと、何だかおばあちゃん家、といった風情の和室が俺たちを出迎えた。


「ほう、中々良いではないか。家主どのー! 居られるかー!」


 ギンコの呼び声を受けて「はーい」と奥から男性が顔を出した。飄々とした、かなりカジュアルな格好の人だ。俺は会釈しつつ名乗る。


「今日予約した米一です。一週間よろしくお願いします」


「よろしくお願いします。個室二人のご予約ですよね。……ご関係は?」


 毎度のことだけど、ギンコがロリだから怪しまれてる。ババアなのに。


「夫婦じゃ」


「嘘つくな。戸籍上は親子です。このちっこいのが親。血の繋がりはないですが」


「……何か複雑そうですね」


「まぁ」


 否定はしない。


 家主さんは「んー……」と言いながら、ギンコを見つめていた。ギンコは流石にもうふざけるつもりがないらしく、五尾の尻尾を広げる。


「これで良いか? 家主どの」


「ああ、なるほど。これは失礼しました。妖孤の知り合いは一人いますが、五尾とは恐れ入ります。案内しますね」


 家主さんは二階へと歩いていくので、俺たち二人もついていく。俺はギンコの重いキャリーバッグを両手で持ち上げて、階段をえっちらおっちら上がった。


「この部屋です。ちなみにアドホ歴はどのくらいですか?」


 アドホ。つまりアドレスホッパーの略だ。家なき子歴はどのくらい、という質問になる。で、家を引き払って渡り歩き始めたのは……。


「大体半年くらいだっけ?」


「まぁそんなものじゃろ」


「じゃあルールはお分かりですね。シーツ類はこの棚から持ってってください。分からないことがあれば呼んでくださいね」


「ありがとうございます」


 家主さんは早々に階段を下りていった。部屋を見ると大きめのベッドが一つ。またギンコと同じベッドか。ギンコ寝相悪いからなぁ。


「さて、では儂はこのまま夜の配信準備をする。コメオは自由にせよ」


「やったぜ」


 んじゃ早速行くしかないじゃん。駅構内ダンジョンに。











 俺はモンスターカプセルからビーバードのハミングちゃんを呼び出して、いつものようにその足に小型カメラを装着した。ハミングちゃんはチチッとないて、つぶらな瞳を俺に向けてくる。


「よし、準備完了……っと。配信ボタンも押して、告知もして、完璧」


 早速コメ欄が流れ始める。


『コメオ~。米食ってっか~』『お? 都心じゃん。どこよ』『あ、ここ雑司ヶ谷だな? 渋いな』


「特定早ぇよ怖えよ」


『凸るからそこで待ってろ』


「絶対やだ。……ごほん、えー、配信開始直後に場所を特定されてクソビビってるけど、どうもコズミックメンタル男チャンネルです。音ダイジョブ?」


『ミュートだぞ』『声大きい下げて』『BGM消せ』


「息をするように嘘をつくなクズども。全員思い思いに嘘つくからよくわかんねーことになってんじゃねーか」


『真実は遍在するんだぞ』


「やかましいわ」


 流れを見て、何となく大丈夫そうだと判断する。善良な視聴者の名前は何となく覚えてるから、そういうメンツのコメントで把握だ。


 嘘つきどもは嘘をついたりつかなかったりするので最初から当てにしてない。


「よーし良さそうだな。じゃあ説明。えー、今日はRDA前の試行錯誤攻略日です。立ち向かうはこの都心駅構内系ダンジョンの一つ、管理番号003488、旧雑司ヶ谷駅ダンジョン。ここの特徴は旧新宿駅みたいな大規模大人気ダンジョンとは違って死にダンなことですね」


『旧新宿駅は慣れれば楽しい。子供向け』『広いからな。レイドとかやると楽しいんだよ新宿』『雑司ヶ谷は……うん……』『鬼子母神様に八つ裂かれてバリバリ食べられるの痛かったゾ~』


「成仏してクレメンス……。とまぁ、さらっと死んでるやつが一人いる通り、旧雑司ヶ谷駅ダンジョンは中々の死にダンです。でも割と人気なのが特徴。何でかってーとボスの鬼子母神様が美人だから。しかも侵入者を殺す目的が食べられることだからな。そっちの性癖の人からしたら貯まらんらしい。俺は嫌だが」


『か~ら~の~?』


「いやぁ実は……実はもクソもねぇよ。何度か食われたことあるけど痛いだけだわあんなん」


『食われたことあって草』『えーいいじゃんぐちゃぐちゃにかみ砕かれながら神経を直接舌で嘗め回されるの。気持ちよくね』『丸のみに飽きたらこれよな』『今日のコメ欄怖いな……』


 俺も怖いのでこの話題から離れることにする。


「えー、で、他は、そうだな。そもそも駅構内系ダンジョンって何かって話するか。元々さ、駅構内って過去はクソ迷ったらしいんだよ、デカい駅ほど。それが巡り巡ってローグライクダンジョンみたいになったわけだな。つまり、入る度に道が変わると」


 旧新宿駅は分かりやすいな、と軽く言及しつつ俺は続ける。


「で、旧雑司ヶ谷駅もその例に漏れず入る度にマッピングし直さなきゃならん。それが難しいところで、駅構内系ダンジョンの良さってところか」


『RDA的にはかなり運が絡んでくるところよな』


「お、鋭いコメントがあったな今。そう、毎回変わるってことは、まんま運の良さがクリアタイムに直結する要素になってくるってことになる。だからチャート組みとかに自信のあるプレイヤーほど駅構内は避ける傾向にあるな。そして腕に自信ニキは好む場合も多い」


『コメオ向きじゃん』『ブレパリまた見してくれよ~』『あの切り抜きすごかったもんな』


「あ? 切り抜き? 何それ」


『え、知らんの?』『コメオの切り抜きバズってたじゃん』『アレでファンになったよ』『登録者数もかなり伸びたんじゃねーの?』


「は? は? ちょっと待て」


 戸惑いがちに、俺は『コズミックメンタル男チャンネル』のアカウントページを開く。今までは100人ちょっとの登録者数で、まぁ人気のためにやってるわけでもなし、と特に気にせず好きなことをやっていたのだが。


「……」


 登録者数、一万人くらいになってる。


 やば。


「やば」


『語彙力死んでて草』『お、今ちょうど登録者数一万人になったな、おめ』『俺もコメオ古参になっちまったな……』

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