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26話 武甲山異界ダンジョン Any%RDA タイマーストップ17分32.99秒

 その回で、爆発熊はきっと油断していたと思う。


 何度も同じ奴が来て、何度も自分になすすべなく殺されるのだ。挑みかかられる回数こそ異常だったろうが、間違いなく倒せる同じ敵を何度も屠るなど、もはや作業でしかないはず。


 だから奴は、本当に、ただまっすぐに俺に突撃してきた。俺はそれをして傲慢だとした。侮り。蔑み。邪魔なアリを捻り潰すがごとき驕り。


「俺は、そんなクソボスを叩き潰すのが大好きなんだ」


 俺はそれにただ走り寄った。激突すればまず間違いなく巻けるのは俺だ。それはこれまでの戦闘でも明らか。だが俺の手にはもはや起死回生の武器が握られている。だから俺は奴を殺す。倒す。そして世界唯一にして最速になる。


「スキルセット、ダブルパリィ」


 俺は襲い来た爆発熊にソードブレイカーで一度目のパリィを決めた。爆発熊は己を武器にした体当たりに、『武器破壊』の概念抽出を適用されて血まみれになってのけぞる。直後発生する爆発、衝撃、轟音。俺は対爆盾で、二度目のパリィを発動させる。


「ぅぐっ、ぐぁっ!」


 吹き飛ぶ。だがこの感触を俺は知っている。完全にタイミングが合わなかった時のパリィ。だが効果が僅かに残っているそれ。俺は地面を跳ねるように飛ばされながらも、五体満足で着地する。


「来た……キタキタキタキタ!」


 もろに食らえば必ず死ぬような爆発。だが俺の身体にある傷は、ちょっとした擦り傷程度のものだ。全身がひりひりして痛いが、そんなもの勝利を目前にしたドーパミンには敵わない。俺は脳汁をドバドバ垂れ流しながら、大声でブレイカーズに命令する。


「ダブルパリィを再設定! タイミングを合わせれば爆発は無力化できる! タイムトラッキング機能を起動! 一度目のパリィから爆発の判定までの時間は何秒だ!」


『計測。一度目のパリィ発動から、爆発への接触までにかかった時間は、0.1581秒です。マルチチャンターの詠唱を調節し、タイムラグ時間を0.1581秒になるように設定しますか?』


「『はい』だ!」


『承りました。ではスキルセット「ダブルパリィ」を再設定。マルチチャンターによる詠唱を再調整し、パリィ発動間のタイムラグが0.1581秒になるように再設定いたします。およそ一分お待ちください』


「おーけぃ……! 一分、この場を耐えれば、この流れでアイツをぶちのめせるって訳だ」


 よろめきながらも体勢を立て直した爆発熊が、こちらを動揺の目で見ているのが分かる。『何故奴は生きている。俺の爆発を食らい、なすすべもなかったはずなのになぜ』。そんな事を言いたげな顔だ。


 俺は熊に向けて、ゆびでちょいちょいと手招きをしてやる。


「来いよ、勝負に蹴りをつけよう」


 挑発に乗って、爆発熊は「フシュ―……グルルルゥゥウ……!」と低く唸った。奴のいら立ちを表すかのように、火薬が大量に散布される。まったく恐ろしい敵だよお前は。


「けどよ」


 そして、爆発熊は突進した。だが、開幕のような油断しきったそれではない。初日のように、油断のない、かく乱を入れたそれ。まず斜めに移動してから、爆発による急旋回を行った急襲。


 俺はそれに、ただこう応えた。


「近接攻撃以外は、もう完全に抑えてんだわ」


 俺はステップで的確に回避し、横薙ぎで切りつける。直後怒る爆風を対爆盾でパリィし、そのまま素早く離れた。


「ヘイヘイヘイ! どうしたよ! お前はこんなもんか!? ええ!?」


 俺の煽りに、爆発熊は怒髪天だ。全身の毛を怒りに逆立たせて、唸りを上げてもう一度襲い来る。


「ハッ! 流石知恵が回るな。火薬量をだいぶ増して、今のやり方だと剣が届く領域には入れさせねぇってか」


 爆発シミュが、俺の剣先が奴に届く前に爆発が起こる事を示している。俺は少し考え、そしてニヤリと笑った。その程度の小手先の技なら、俺にだって策がある。


 俺はジグザグに爆発熊の突進をよけ、ある程度火薬量が減ってきたタイミングでロングソードを足場に跳躍した。一本くらいくれてやろう。何せ俺にはもう一本ある。


「直下型回転切りじゃあ!」


 そして落下しながら俺は回転切りを爆発熊に食らわせた。ロングソードでの跳躍は意表を突き、奴の火薬による防御膜がちょうど攻撃可能な量に達した瞬間を掻っ捌く。そして対爆盾のパリィ。俺は完璧にムーブを決めて飛びのいた。


「グルルルゥゥウ……!」


 爆発熊の唸りの意味合いが変わってくる。不覚にも一撃貰ってしまった敵ではなく、自らを追い詰めうる強敵へのそれにかわる。熊は俺のブレパリと二度のロングソードの剣閃を受け、大きな傷を負っていた。


 だが、それでも奴とて歴戦。何百人という挑戦者を、すべて爆発させて勝利してきた猛者である。その動きに精彩が欠ける様子はなく、まだまだ健在であると思わせられる。


「まだまだ元気だな。ついでに毒もいっとけ」


 俺は再度突進してきた熊に毒クナイを食らわせ、概念抽出魔法にて毒を盛った。【麻痺毒】【劇毒】。熊は血を吐き、震え出す体と激痛に耐えながら俺を睨みつける。


「いいね。手負い、毒でようやくお前の動きにも隙が出来た。ここまできて、爆発さえなければ、お前はただのその辺の熊だ。けどお前には爆発がある。死にダンじゃないこのダンジョンを、お前の存在ただ一つで死にダンすら生ぬるい地獄に帰る爆発が」


 だが、と俺は言う。ブレイカーズが、俺に通知を入れる。


『再設定が完了しました。スキルセット「ダブルパリィ」のタイムラグは、現在0.1581秒となります』


「これで、お前の爆発は俺にとって無力になった。来いよ。決着だ」


 もはや油断も何もなく、全力で爆発熊は俺に向かってきた。何度もフェイントを入れ、最後には爆風を利用して高く跳躍し、上空から俺に襲い掛かる。俺はそれを向かうながら、ただ、こういうのだ。


「スキルセット、ダブルパリィ」


 爆発熊が降ってくる。俺のソードブレイカーが風を切る。Tatsujinは洗練されきったパリィの動きを俺に再生させ、その切っ先が爆発熊の鼻先に触れる。


【パリィ】【付与効果武器破壊】。


 爆発熊の前身が、爆ぜるように血しぶきを上げて吹き飛んだ。俺は回転しながら次に備える。襲い来るは奴の置き土産。全身に降りかかる火薬。衝撃波火薬に火をつけ、一気に燃え広がり、俺を包み込み―――


【パリィ】【付与効果爆発耐性】


 対爆盾のパリィが決まった。俺に衝撃は一ミリたりとも伝わらない。俺は吊り上がる口角を抑えられなかった。


 盾が爆風を薙ぎ払う。地面に墜落する熊は、その様子にただ瞠目する。俺は右手にソードブレイカーを、左手に対爆盾を、そして腰には残り一本のロングソードを携えて、奴に向かう。


「爆発熊」


 俺は、奴を見た。熊が、そこでやっと俺に怯みを見せる。俺は笑った。


「蹂躙タイムだ。初めてだろ? 楽しんでけ」


 爆発熊はそれでも果敢に俺に向かってきた。俺は哄笑を上げて迎え討つ。「スキルセット、縮地」と唱えて即座に距離を詰める。火薬に身を投じる。爆発。対爆盾でパリィする。爆発熊はそこに居る。


「グルルルルルルルルァアアアアア!」


「負けるかオラァアアアアアアアア!」


 俺はロングソードで切りかかった。爆発。パリィ。熊が殴りかかってくる。ブレパリ。爆発。パリィ。切る。爆発。パリィ。殴打。ブレパリ。爆発。パリィ。


 繰り返す。何度も、何度だって。俺は返り血で真っ赤になりながら、切りかかり、パリィし、攻撃を弾き、パリィしを無限に続ける。


「言ったよなぁ! 何度死んでも! 何度負けても! お前に勝つって! お前を蹂躙してやるってよぉ!」


 一度だってミスったら死ぬ。そうすれば初めからだ。だが俺には、この流れで死ぬような気が全然しなかった。空間すべてを把握しているかのような全能感があった。


 爆発熊は、自分の行動の全てが無為に帰していくのを、信じられない目で見つめていた。攻撃は防げず、攻撃すれば反撃され、頼みの綱の爆発も意味をなさない。分厚かったはずの毛皮は傷だらけになって、血をさらし、肉をさらし、骨をさらし、内臓をさらす。


『ヤバすぎる』『何だこれ。俺は何を見てるんだ』『爆発全部パリィしてるよ……。つーか熊タフ過ぎじゃね?』『何分一方的に切ってるんだ……何でまだ終わらないんだ……?』


 コメ欄は称賛を越え、とうとう怯えだしてしまう。だが、仕方がない。ここにあるのはただ求道。理解を得られぬ自己満足の世界。立ちふさがるものを倒さずにはいられない、俺の狂った本性。むき出しにして理解が得られるはずもない。


「だけどよぉ! それはお前も同じだろ!?」


 爆発熊は怯えながらも俺に向かって攻撃するのを止めない。そのすべてをソードブレイカーで弾き、腕を不能にし、顎を砕き、何より爆発を打ち払うが、奴は何も諦めちゃあいなかった。


「お前もよォ! 狂ってんだよなァ! この美しい景色を自分だけのものにしたいってエゴのために、この何百年もずっとここを陣取って、異界まで作り上げて、侵入者を殺し尽くしてきた! 否定はしねぇ! お前のわがままも狂気も俺は肯定する!」


 だがよ、俺はなおも切りつけながら、熊に叫んだ。


「俺の狂気とお前の狂気がぶつかったら! 残るのは殺し合いだけだ! そうだろ!? だからお前は諦めない! 俺だってお前を諦められない! お前はこの花畑を! 俺はお前への勝利を! だからやり合うんだ! だから逃げられないんだ! 宿命から! 呪われた業から!」


 とうとう熊の火薬量が少なくなってくるのが分かった。とうに奴は、右腕が落ち、左腕は力なく垂れ下がり、顔も見るも無残な姿になっている。それでも果敢に噛みつこうとしてくるのだから、本当に頭が下がる。


「なら楽しむしかねぇよなぁ!? この呪いを! この業を! だからもっと楽しめ! もっともっともっと! 俺に抗って見せろぉぉぉぁああああああ!」


 顎の下から、分厚い毛皮と筋肉を引き裂いて、俺のロングソードが脳天を貫いた。対爆盾のパリィは空振りし、爆発が起こらないことに俺は目を剥く。


「……そうか。楽しい時間は、ここまでか」


 熊は静止し、風が流れた。芝桜の花びらが宙を流れていく。俺は血まみれの右手を捻り、言った。


「爆発熊。―――雪辱、晴らしたぜ」


 剣を抜く。血が軌跡となって地面を彩った。同時、そのすべてが光の粒子へと変わっていく。同時にタイマーストップ。17分32.99秒。気付けばこんなにずっと、爆発熊とやりあっていたらしい。


 俺は深呼吸をして、拳を掲げた。


「―――世界記録! &世界初、単独での爆発熊攻略だぁあああああああああ!」


『やべぇええええええええ』『おめでとう!』『すげーもん見ちまった……今日寝れねぇ』『お前について来てよかった【10000円】』『いや、マジですげぇ。意味わかんねぇ』『おめでとうございます!【20000円】』


 コメ欄が称賛の嵐に代わる。俺は震えるほど力を込めて拳を掲げる。ハミングちゃんが「チチチチッ」と喜んでくれている。ギンコも見ていたのか、DMで『おめでとうじゃ! 今日もご馳走を奢るぞ!』と大盤振る舞いだ。


 俺はじんわりと勝利の余韻に身を震わせ、それからハミングちゃんのカメラに向かってこう言った。


「じゃあ、ここまで長丁場を見てくれたみんな、本当にありがとう。このダンジョンは昔惨敗したところだったから、マジでうれしい」


『よかったな。いやマジでよかったよ』『世界初かぁ……。すげーなぁ』『いや! 最高だった! なんなら怖いくらいだったw』『コングラチュレーション!【50000円】』


「ありがとな、みんな……。じゃあ、いつものやり方で今日はお別れだ!」


『おいバカやめろ』『勝利の余韻を返せ』『何でコメオすぐ自殺してしまうん……?』『あのさぁ……』『まぁコメオらしいっちゃらしいけどさw』『あーあ。マジでアーカイブ上げろよ! 全部追っかけられてないんだから!』


 俺はコメ欄の温かな言葉に送られながら、首を掻き切った。死。


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