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2話 『不踏の闇』略してフトダン 計測:~20分まで

 一つ目のモンスターエリアで通行の邪魔になるサイクロプス6匹を殺してから、俺はさらに道を駆け抜けた。タイムは5分ジャスト。かなり良い。新チャートが上手くハマったときの醍醐味だ。


「よぉし! モンスターエリアをいつもより5分早く抜けれたし、このまま進みたいところだな。んじゃ続く第二トラップエリアについて解説しつつ走るぞー」


『コメオのモンスターの殺し方えげつねぇよな……』『嬉々として殺すな』『モンスターの命を大切にしろ』


 コメント欄のツッコミを俺は聞き流しつつ、俺は腕を振って全力疾走を続ける。


「次のトラップエリアは、序盤の奴に比べても初見殺しでな。どうなってるかって言うと、狭い道があって、滅茶苦茶な数のスイッチがあって、そのどれか一つを踏み抜いたら落とし穴に落とされて死ぬか、せり出してくる壁に押しつぶされて死ぬか、天井が落ちてきて死ぬ」


『ヒェ』『殺意高すぎひん?』『ここの天井に押しつぶされたとき痛かったゾ~』とコメントが流れていく。しかし、俺はそれに首を振って「違うんだよ」と説明を続けた。


「要するにさ、ここの怖さって、スイッチが発動するまでは普通に走り抜けてるようにしか見えない点なんだよな。もっというと取れ高がないこと」


『配信者魂じゃん』『嫌な予感してきた』『そうか、勝ったな! 風呂入ってくる』


「そんな皆様のためにぃ~」


『やめろ。ホモ会長の汚い映像を流すのはやめろ』『RDA協会の会長は語録だけでいいから』『おっ、良いっすね。ワクワクしてきました』


「俺のツイットアカウントに固定してるレターチョコレートを食べていきたいと思いまーす」


『やったぜ』『コメオのレターチョコレートは真面目でもふざけてても面白いから好き』『マジか。さっきの魔法について急いでレタチョコ投げるわ』


 コメントを聞きながら走りつつ、俺はARディスプレイを操作して、匿名メッセージサービス『レターチョコレート』の画面を開いた。数千近いレタチョコが蓄積しているが、これ毎日百通ずつ目を通してなお片付かないんだぜこれ……。何なら増える。


 そんな訳で、俺は死地であるはずのフトダンの初見殺しトラップの密集するエリアを走りながら、レタチョコ返しを開始した。仕方ないね。トラップの配置全部覚えてるからね―――ッ、と、あぶな。今スイッチ踏みかけた。流石に油断はできねぇな……。


「はい、じゃあ一つ目。『ようコメオ。昨日米何粒食べた?』粒単位で数えるか馬鹿野郎。次」


 しょっぱなゴミチョコなのはいつものことだ。


「『コメオの悲鳴を以前に聞いて、こんなにきれいな悲鳴があるんだって感動したんだ。もっと聞かせてほしい』サイコパスかな? 何度も行ってるけど悲鳴は絶対ミュートする」


『は?』『は?』『悲鳴を聞きに来てるんだが?』『悲鳴ミュートする奴を……ッ、この世から、全員、駆逐してやる……ッ』とうるさいコメ欄は完全に無視して次のレタチョコを読み上げる。


「『さっきやってたパリィの仕組み教えてくれ。魔法詠唱してたけど、ファイアボール的なのじゃなかったよな? あれ何系統?』あー、久々に見たわ真面目チョコ。んじゃちょいと走りながら解説するかな」


 俺は一つ咳払いをして、先ほど唱えた魔法について説明する。


「さっき使ったのは、『概念抽出魔法』って奴だ。概念抽出魔法ってのは簡単に言うと、その道具の運用効果を、実際の物理法則を無視して現実に適用する、みたいな効果を持つ」


 そうだな、と俺は思案して、こんな例え話を始めた。


「例えばサイクロプスとかデケーモンスターに素の銃撃っても大したダメージはないんだが、その弾丸一つ一つに概念抽出魔法を発動出来れば、サイクロプスはそれこそハチの巣同然になって死ぬことになる。何故なら、銃弾には『貫通』と『破壊』の概念が付いて回るからだ。概念抽出魔法を使うと、敵の防御力を無視してそれを実現できるって訳だな」


 そこで、『え、じゃあコメオも銃買ってRDAした方がいんじゃね?』と指摘するコメントを発見し、俺は「いやー、俺も一時期は銃と概抽の合わせ技チャートも考えたんだけどさぁ……」とため息交じりに返した。


「そもそもさ、さっきのブレパリ概抽もそうなんだけど、あれって全部タイミングが合わないとダメなわけよ。つまりサイクロプスと俺のパリィと魔法詠唱の終わり? の三つが揃って初めて発動できるから、多分他に使い手も居ないんだが」


 過去のことを思い出し、俺はさらに深いため息を落とす。


「そのタイミングが銃はブレパリ以上にシビアでさぁあああ。着弾と同時に詠唱完了しなきゃならんわけ。概抽って誤差許容時間はコンマ一秒未満だからさ、手元でやるのにも苦労すんのに、手から離れた弾丸でタイミング合わせんのなんかむーりむり。人間技じゃねぇ」


『いやその話聞いてるとコメオのブレパリも大概だろ』『敵の攻撃に合わせてパリィするのは辛うじてわかるけど、そこに詠唱が間に合うようにしてるってこと……?』『コメオやべぇな』『練習したもんな。ちなみに何百回死んだっけ?』


「千は余裕で超える程度には死んどるわ! やめろ! トラウマなんだからな一応! 人間ってこんだけ死んでも意外に精神破綻しないんだなって思ったわ!」


『メンタルがコズミックじゃん』『ああ、そういう由来か』『違うぞ、コメオ。お前はメンタルじゃなく米が大好きだからコメオなんだ。いいな?』『米食え米』


「俺を異様にお米好きにしたがる勢力は常に一定層いるな……。まぁそれはいいや。レタチョコ主はこの回答で満足してくれたかな? まぁわかんなかったらまた聞いてくれ」


 と。そこで俺は急ブレーキをかけ、素早く岩陰に隠れた。直後大量の吸血蝙蝠が塊で通路を抜けていく。アレに巻き込まれたときは全身干からびて死んだっけ。痛かったなあ。


「ここからは再びのモンスターエリアだ。さっきよりも殺意が高いので、進みながら解説するぞ」


『レタチョコタイムはおしまいか』『コメオのレタチョコは今の内に倍にしておくからな』とコメントで妙なことを言う視聴者たちを余所目に、俺は深呼吸をして第2モンスターエリアの様子を窺う。タイムは13分。第2トラップエリア単体で見ても、いつもより少し早い。


 複雑な地形はいつも通りだった。故に、道順も完全に頭に入っている。そして、その中で闊歩するサイクロプスたちの居場所もすぐに分かった。


 以前のように、サイクロプスだけなら余裕で捌けるのだ。今更サイクロプス相手のパリィで失敗などしない。だが、ここにはもう一種類、嫌な敵がいる。


「ここの敵はサイクロプスがいるのともう一種、さっき通過した吸血蝙蝠がいる。んで、実際に厄介なのはこの吸血蝙蝠なんだ」


『え?』『(* ̄- ̄)ふ~ん』『そうなん? 意外』と初見さんが不思議がる一方で、常連は『分かる』『ウザイよな蝙蝠』『蝙蝠は殺せ』と殺意をあらわにコメントしている。


 俺は一度深呼吸を挟んで呼吸を整えてから、再び全力疾走で駆け出した。


「ここの蝙蝠はさ、吸血蝙蝠っていうくらいだから侵入者の血を吸って回復してくるんだが、そんなのはどうでもいいんだよ。奴らの一番嫌なところは――」


 そこで俺は、まさにその吸血蝙蝠の“嫌なところ”が目の前で発現しようとしていることに気が付いた。まっず、と腰に携帯していた毒クナイを抜き取り、戦闘統括アプリ『ブレイカーズ』に『投擲』をスキルセットする。


 俺の姿勢は行動再現アプリ『Tatsjin』によって洗練された準備動作に移行させられる。『Tatsjin』発動中は呼吸が自動で深くなり、意識が鋭く、かつ広くなるのが分かる。


 そして俺は大きく振りかぶり、ブレない体幹を回転軸に毒クナイを投擲した。


 それは素早く周囲を確認して、敵の接近がないことを確かめながら、今度は詠唱補助アプリ『マルチチャンター』なしに、概念抽出魔法の詠唱を始めた。『マルチチャンター』は基本的に、動作と詠唱を同時に行えないような緊急事態でしか使わない。自前の詠唱の方が、ニュアンス変更によって効果の幅が広いからだ。


 そして、毒クナイが蝙蝠たちの群れにうずもれた瞬間、詠唱は完了する。


 込めたニュアンスは『拡散』と『阻害』。毒クナイを中心に、蝙蝠たちの群れは拡散する毒の霧に包まれ、行動を阻害される。


『いつもの』『今日はガバらんな』『もっとガバれ』『コメオの手法渋いの多いよなぁ』


 コメント読み上げに「あっぶねぇえええ!」と返しながら、俺はダッシュで蝙蝠たちの群れの真下を走り抜けた。ついでに効果の切れた毒クナイを回収して、さらに走る。途中でルート取りに邪魔なサイクロプスにブレパリを決めてぶち殺しつつ先を進む。


 そうしてやっと余裕を取り戻したところで『つーかさっき焦ってたのって何なん?』『結局蝙蝠の嫌なところの話聞けてないな』というコメントを発見し、「ああ、解説出来てなかったな」と走りながら呼吸を落ち着けつつ、俺は話し始めた。


「アレに焦ってたのが何なのかって話だが、吸血蝙蝠って全身麻痺効果のある音波を発射してくる時があんだ。一つ一つは一秒も麻痺らないんだが、大群で一斉にぶつけてくると一分とか動けないのよ。んで、サイクロプスにゆーっくりぶち殺されるわけさ」


『即死コンボじゃん』『蝙蝠は死ね。死にダンだけじゃなく普通のダンジョンの奴も死ね』『素早くて攻撃当たんねんだよな蝙蝠』『蝙蝠は殺せ』


「そうそう、蝙蝠は殺せ、犬も殺せ。ってのがRDA界隈では常識よ。一応麻痺対策に仕込んできてはいるが―――」


 そこで、カメラを持ってきてついて来てくれてたハミングちゃんが、俺の肩に留まってチチッと鳴いた。緊急信号の合図だ。俺は総毛だちながら周囲を見回し。


 蝙蝠の群れが、まとまってではなく、俺の周囲を取り囲むようにして音波を放つ準備をしていることに気付いた。


 ――――――え、何それ初めて見るパターンなんだが。


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