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15話 到着 秩父&武器調達

「ちーちーぶー!」


「ギンコ到着時いつもテンション高いよな」


 両手を広げてわー! となっているギンコに言うと、「旅の醍醐味であろ? ほれ、コメオもこちらで叫んでみよ」と返されてしまった。


「えー……まぁほとんど人いないからいいけどさ」


 ギリ夏休みに入っていない、みたいな時期なので、お昼前の今はほぼ人通りがなかった。都心とは違う、自然の気配が色濃いホーム。俺は周囲にもう人が居ないことを確認して、叫んだ。


「秩父―!」


 あ、これいい。


「どうじゃ」


 ドヤ顔で見てくるギンコに、「……いいじゃん」と返すと「コメオも分かってきたな」と満足そうに頷いた。


 それをして、こいつも長生きしてるだけあって人生の楽しみ方を知っているなぁと思う。というより、こういう一瞬一瞬を楽しめないと、何百年と生きられないのだろう。


「よし、コメオも叫びも聞けたことだし、外に出ようかの。先階段を上がっているぞ」


「俺はギンコのキャリーバッグが重いからエレベーターで行きます」


「若者が何を腑抜けたことを言っておる。自分の立派な足があるじゃろうに」


「え、何でここに限ってそういうこと言うん。いつもエレベーター使ってるじゃん」


「叫べという無茶ぶりに応じた故、これも行けるかと思うた」


「嫌でーす。RDAに必要なのは高速で長く走れる足なんだよ。これ以上重いもの持つ予定もないし、今が完成されてんの」


 俺はキャリーバッグを押して一人でエレベーターに乗った。「わがままじゃのう」と言いながら、階段を上ると言ったギンコも何故かエレベーターに乗り込んでくる。寂しかったのだろうか。


 まぁ寂しがり屋か。俺が旅に出るって言ったときに超嫌がって結局ついてくることになったし。今となっては助かっているが。


「メイディー。宿までよろ」


 俺がARディスプレイから常駐型メイドアプリのメイディーに雑な指示を出す。それから、指示だし伝わってっかなマズったかな、と思った瞬間、表示されたメイディーがこう応答した。


『かしこまり、です。ではナビを視界に表示いたします』


 えっ、かつてないほどメイディーの反応がカジュアルなんだが。こんな機能があるの今まで知らなかった。やめろよ、開発者のこと好きになっちゃうじゃん。どこの開発なんだろメイディーって。


 俺はきゅらきゅらキャリーバッグを押しながら、メイディーの開発会社について調べる。隣でギンコが秩父の街並みに想いを馳せている。


「うーむ……久しぶりに来たが、やはりいいところじゃのう秩父」


「だなぁ……。ちなみにどんなところが?」検索しつつ尋ねてみる。


「覚えておらぬのかコメオ」


「ダンジョンのボスしか覚えてない」


 爆発しまくって記憶もまとめて爆発四散した感じある。


 答えると「お前は本当に迷宮迷宮じゃのう……」と何故か少し口角を上げながら、「そら見よ」と手で街並みを指し示す。


「昔を思い出す町並みが、まず挙げられるじゃろうな。次に食べるべきものが多い。わらじかつ、ほるもん焼き、味噌ぽてと、あと珍達そばもよいぞ、うん」


 言いながら、ギンコの視線が完全に道端の珍達そばの看板に吸い寄せられている。「どんなそば?」と問うと「ネギラーメンじゃ」と答えられた。なるほどネギラーメンか。ネギラーメンじゃん。


「ネーミングよく分からんになったな」


「儂も分からん」


 適当に言いあいながらきゅらきゅら進む。ギンコの言う田舎道。確かに何とも昔な感じが、じんわりいいと気づく。検索も面倒になって、俺はARディスプレイを閉じた。


「都心とは全く違うよな。日差しも空気感も」


「うむ。こういう場所に来ると、懐かしさを感じる。都心の簡便さもよいが、やはり自然の方が近いというのが肝要よな。人工物が大半を占めるような場所にいると、どうしても息がつまる」


「雑司ヶ谷きつかったか?」


「ああいや、傾向として、という話じゃ。雑司ヶ谷は住みやすかったし好ましかったぞ」


 ただ、こういうのでよい、というだけよ。ギンコはふふ、と口元を綻ばせる。


「そういうもんか」


「うむ、そういうものじゃ」


 そうしながら20分程度。俺たちは徒歩でぽつりぽつりと言葉を交わし、宿にたどり着いた。











 荷ほどきが終わって伸びをしていると、「これは珍しい。コメオが迷宮に向けて走り出さないとは」とギンコにからかわれる。


「ちょっとな。この後、というよりダンジョン前にやっておくことがあるんだよ。今回のボスはハチャメチャに強くてさ」


「強い、か。余程の敵でも己が技量でどうにかしてしまうお前がそこまで言うとなると、よほどの難物なのだろう、というのは予想がつくが」


「あー、まぁ。なんのこっちゃねぇよ。攻撃すると全部爆発が返ってきてやってらんないんだよな」


 そう話すと「それは……近接戦主体のコメオにとっては、倒せない敵と表現すべきなのではあるまいか」とギンコが渋い顔をした。俺も肩を竦めながら、「俺もそう思う。だからひとまず、武器を変えようってな」と話した。


「というと、用事とは武器屋に寄ろうということか?」


「それもある。買い出しは必要だ。けど、それだけだとどうにもならんから、ちょっと郵便を頼んである」


「郵便……コメオ、もしや」


「うん。そのもしやで多分あってる」


 うげ、とでも言いたげなギンコの顔だ。眉根を寄せて口をへの字に曲げている。ギンコ、ハッピーちゃん嫌いだからなぁ。ハッピーちゃんはそんなギンコのことが大好きだが。ハッピーちゃん基本性格悪いので、嫌がられたり嫌われたりするのが好きなのだ。


 と、そんなことを話しているとちょうど窓をコンコンと叩く音が聞こえた。見ると、口を猫のようにしながら爛々と目を輝かせてこちらを見る、ハーピーがそこに居た。両腕が翼と化した、西洋伝説系の亜人だ。ここは3階なのだが、飛べる彼女らには関係ないらしい。


 彼女は荷物を抱えていない方の足で右の方を差し、そのまま素早く飛んでいってしまう。そう言えばそっちの方向にバルコニーがあるとか家主さん言ってたな。そっち行ってみっか。


 俺はギンコに鍵を任せて、スリッパをつっかけ早足でバルコニーへと向かった。扉を開けると「んん~、つっかれた~! あ、コメオちゃん! この誇り高き空の民が持ってきたげたよ~? ニヒヒ」とハーピーはひょこひょこ跳ねるように近づいてくる。


「ん、お疲れハッピーちゃん。ちゃんと頼んだ奴持ってきてくれたか?」


「あー多分? 8割くらい注文通りだと思う!」


 ニヒヒ、と笑いながら答える、『ハーピー印の配達業者』社員ことハッピーちゃんだ。この適当さでよく商売が成り立つなぁと思うが、ハーピー印さんは社員の可愛いハーピーとのコミュニケーション代金込みで商売を考えているらしく、割とうまくいってるのだとか。


 実際可愛いもんなぁ、と俺は腰に手を当て評価する。猫のように愛嬌のあるアーモンド形の目とか、しなやかで小柄な体躯とか、気まぐれな態度とかは好きな人は本当に好きだろう。俺? 俺は友人料金で安いから使ってる。


「8割合ってんなら十分じゃね? むしろ8割正しいの持ってこれたのか、すげーなハッピーちゃん」


「だしょ~!? アタシすっごくない? ハーピーの中じゃマジ天才なんだから!」


 多分本当のことを言ってるのだろう。ハーピーって全体通してだいたいアホなのだ。社長だけ飛びぬけて天才だが。


「よーし。んじゃ早速御開帳といきますか」


「あー♡ 御開帳だなんて……コメオちゃん、エッチなんだから♡」


「うーん邪推」


 ARディスプレイで調べてみたら、御開帳って仏教用語か。日本語って大体仏教用語だよな、と思ったり。


 いやんいやん、と恥ずかしがってくねくねするハーピーちゃんを見て、まぁいいや、と俺は興味喪失。受け取ったカバンを開き、バルコニーに広げてしまう。


「えーっと、軽量対爆盾、マグナム、サブマシンガン、ソードオフショットガン、爆風シミュレーションソフト、オヤツ詰め合わせ……」


 なるほど。今回はお試しで取り寄せたパラグライダー一式セットがオヤツ詰め合わせになったか。同じセットだからどっちでもいいと判断があったに違いない。にしても誰のオヤツ詰め合わせなのだろう。


「うん。8割強合ってるじゃん。このオヤツだけ違ったな。パラグライダー一式だった」


「あー! そうなんだ! ハーピー印でパラグライダーに興味持つバカ誰だよ、って笑って捨てたの、コメオちゃんのだったんだね!」


「捨てられちゃったか~」


 あれ新品だと30万くらいするのだが。中古で買ったから10万くらいで済んだ奴だけど。


「……むー、やっぱりコメオちゃん嫌な顔してくれない。コメオちゃんつまんなーい!」


「嫌な顔すればするほど激化するじゃんハッピーちゃん。流石に学んだよ俺」


「じゃあじゃあ、ギンコちゃん出してよ、からかいに行くから」


「したら俺が後でギンコに大説教食らうからダメ」


「それ神コンボじゃーん……も~……。じゃあ後で、追加で持ってこなかったパラ一式持ってくるね……」


「やっぱり捨ててないし」


 ここまで分かりやすいと面白くて笑ってしまう。その俺の笑みを見て、さらにハッピーちゃんは「むー!」と不機嫌そうになるのだ。まぁ、うん。ハーピー特有の小柄さもあって、ほぼメスガキだよな、と思わないでもない。空のメスガキだ。


「あ、でさハッピーちゃん」


「ん、なぁに~?」


 勝手にオヤツ詰め合わせを広げて、器用に足を使ってハッピーちゃんはパクパク食べ始めている。俺もその場に座り込んで、そのご相伴に預かった。


「最近俺、空飛ぶ予定があってさ。良ければ空の飛び方教えてほしいんだけど」


「え~、ヤダ~♡」


「んじゃいいや、他当たるな。社長とか頼めば行けるかな」


「あーあーあー! 分かった、分かったって! もー、そこは頭を地にこすりつけて『お願いします! 何でもしますから!』ってへりくだるところでしょー? も~……これだからコメオちゃんは」


 何で叱られてんの俺。あとハッピーちゃんに『何でもする』とか言ったらそれこそ人生終わりだろ。むしゃぶりつくされる未来が見える。


「だから、社長に頼っちゃだめだよ! 社長にそんな新しいこと言ったら『そういう需要もあるのか! 新事業だ!』とか言って私たちの仕事が増えるんだから」


「ハハハ。分かったよ」


 俺とて本当に言うつもりはない。ハッピーちゃんに言う事を聞かせられる魔法の言葉として使ってるだけだ。


「も~……、それで、いつ? コメオちゃんのことだから、どうせダンジョンで飛ぶんでしょ?」とバリバリハッピーちゃんはスナック菓子を貪り食っている。


「ん、まぁな。明日から一週間この辺りにいるから、その内のどこかで、って思ってるけど」


「なら~、明日明後日以降は空いてるよ。場所は適当にGPS情報くれれば飛んでく~」


「おう、サンキュー」


「こっ、こんなことしてあげるの、コメオちゃんだけなんだからねっ! かっ、勘違いしないでよねっ!」


「何で急にツンデレになるんだ……」


「これがコメオちゃんの嫌な顔を見れる鉄板ネタだから」


 ニヒヒ、と笑って、ハッピーちゃんは「じゃっあねー」とひょいと塀に登り、そしてバルコニーから飛び立っていった。


 ハーピーは自然法則と魔法の両方を使いこなして飛ぶ。特に優秀な彼女は、燕のように宙返りして高度を上げ、そして遥か高みから見下すような笑みを浮かべ、遠くの空に消えていった。


「誇り高き空の民、ね。誇り高いの意味調べ直した方がいいと思うが」


 俺は荷物を抱えて、ハッピーちゃんが散らかしたオヤツのごみをまとめて部屋に戻った。扉をくぐると、警戒した表情のギンコが「奴は行ったか」と二段ベッドの陰から顔を覗かせた。


「行ったよ。ギンコに会いたがってた」


「儂は願い下げじゃ。まま、上手くとりなしてくれたようなので、儂から言うことはないぞ。よくやった」


「呼び出したの俺だけどな」


 武器を部屋に広げ直して、俺はどれを持っていこうか吟味を始める。まだ昼過ぎなので、可能であれば一回くらい挑戦しておきたいのが人情というものだ。


「ほう、いつものやり口とは全然違うのう。銃が多い」


「本当は苦手なんだけどな。今回ばかりは仕方がない。どれにしたもんか……」


「何か違いがあるのか? 銃の種類には疎い故、どれも同じに見える」


「ああ、俺の戦闘スタイル的に、全部手に納まる奴だもんな」


 その中でも大型を用意してはいるが。俺は順番に並べて、ざっくり解説する。


「このいかにも拳銃って形の奴が、マグナム。強力な一撃をお見舞いする奴だ。次にこの持ち手の所が変に長い奴。これはSMG、サブマシンガンだ。連射しまくる。最後にこの銃口が広い奴。これはソードオフショットガン。散らばる弾、散弾を発射する」


「ふむ……使い分ける必要があるのか?」


「ある。が、ひとまず全部使ってみて試して見るのが良いって感じだな。どれが刺さるのか分からんし」


「あとこの透明な盾は」


「対爆盾。パリィしやすい軽量型だ。頑丈な奴だぜ。概念抽出しかできないけどな」


 ちなみに歴史のある超高級品になると、概念抽出ではなく過去召喚で頭おかしい効果を発揮できたりもする。遺物系なら、破片だけでもRDAプレイヤーからすれば喉から手が出るほど欲しいものになるだろう。


 その意味では、実はあのソードブレイカーの詠唱はちょっと過去召喚のニュアンスも込めてたりする。あの武器は非常に質が良く頑丈で、下手な使い方をしなければ100年は折れないし使い続けられる。


 その中でパリィを何度も繰り返せば、いずれ過去召喚で『パリィ』の過去そのものを召喚し、敵が攻撃の意志を持っただけで、直後にパリィ成功後の状況を召喚できるチート武器になるだろう。


「気の長い話だがな」


「ん? 何がじゃ?」


「何でもなーい」


 俺はとりあえず全部持っていくか、とリュックに武器すべてを詰め込んで立ち上がった。「行くのか? であれば、今日の食事は任せよ」とギンコは胸を叩く。


 俺は、「ああ」と答え、こう続けた。


「今日は頼むぜ。多分、身も心もボロボロで帰ってくるから」


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