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12話  『旧雑司ヶ谷駅ダンジョン』 タイマーストップ:14分25.99秒

 無限ホームへと降り立った俺は、昨日確認済みの「地面から無限ホームくんになり替わる辺り」まで一直線に走り、そこですかさずロングソードを地面に突き刺した。


 無限ホームくんこと死体の巨人は、巨大な唸り声を上げて屹立する。だが今回俺は投げ出されない。何故ならこの挙動を理解した上で、立ち上がる頭の辺りに立っていたためだ。ちょっと場所を調節するだけで、俺は巨人の頭上に立ててしまう。


『絵面草』『なんか微笑ましい』『巨人とコメオ』『アニメ映画みたいなキャッチコピーできてるやん』


 適当なことばかり言うコメント欄を黙殺して、俺はロングソードを構えながら、「なぁ、無限ホームくんよ。俺は昨日考えたんだ」と言った。


「ブレパリが最速だって思った。けど、よくよく考えたらおかしいよな。だってよ、ブレパリはパリィだ。相手の攻撃をカウンターで崩す技だ。もっというなら、相手の攻撃を待つ必要があるんだよ。分かるか? RDAの大敵、待ちがそこにあるんだ」


 言いながら、俺はロングソードをさらに突き刺す。巨人は咆哮を上げて暴れるが、俺はロングソードで固定されてるため何のその。


「そんなの最速じゃないよな? だから俺は考え直した。お前を起動して逃げるなんて普通のやり方じゃあ、“面白くない”。面白くないって最悪だ。だって俺は、面白くて仕方がないからRDAやってんだ。だから、もっともっと面白い方法がある。見つけなきゃならん。そう思った」


 言いながらザクザク刺していく。『今日のコメオこえーな……』『いつもいつも』と雑に言いあうコメントは置いてけぼりにして、一心不乱に。


 死体の巨人とて内側に血を抱えているのか、僅かに黒く濁った液が剣に付着し始める。それを確認して、俺は概念抽出魔法を唱えた。


 再度突き刺すその瞬間に、詠唱完了を合わせる。そして、俺は囁いた。


「それで思いついたんだよ。お前の活用法。お前、電車に轢かれるだろ? だから、その時飛び移るための足場になってくれよ」


 概念抽出魔法が、巨人に【出血】の概念を抽出して適用する。俺が刺した剣からド派手に血が吹き出し、巨人は唸り声を上げて倒れこもうとする。


「メイディー、『駅構内ダンジョン・召喚用1』」


『かしまりました、コメオ様』


『ガタンゴトン~、ガタンゴトン~』


 電車のSEが流れ始める。俺は巨人がのけぞって倒れようとする中で、急いで過去召喚魔法を詠唱する。1秒。余裕じゃねーか。俺はニヤリ笑って、巨人の背後、俺の正面に輝く二つの光を前に笑った。


「お仕事ご苦労さん」


 無限ホームくんは例のごとく電車に轢かれて散らばり死んだ。俺は『跳躍』で飛び上がり、それから電車の上に『着地』する。スキルセットとはいえ電車の速度で動く地面には対応してなかったらしく、俺は何度もでんぐり返しをしてから、振り落とされる前にロングソードを電車の屋上に突き刺してしがみついた。


『やべぇ』『何してんだこいつ』『あーそうかなるほどな! そういや初日、キッシー君が乗ってたって話してたもんな!』


 勘がいい奴というものは、どこにでもいるもんだ。そう思いながら、俺はロンソを杖代わりに立ち上がる。


「おし、いいね。さて、目算十秒くらいここで耐えることになるだろうから、っと、何でこんな事をしたのか解説だ」


 俺は曲がる電車に体勢を崩しかけるのに耐えながら、俺の肩に懸命にしがみつくハミングちゃんのカメラへと話しかけた。


「一瞬迂遠なところから説明するが、ローグライク型ダンジョンダンジョンとはいえ、旧雑司ヶ谷には一定の法則性がある」


 例えば、侵入直後では必ず下りエスカレーターがあるとか。ボスはキッシー親子だとか。そういうことだ。


「その一つとして、この線路、キッシー君の持ち場とつながってんじゃねーの? という仮説がある。昨日の練習配信でもそうだったし、お前らに隠れてのコソ練でもそうだった。そしてさっきのマッピングで、今回も確定済みだ」


『コソ練すんな配信しろ』『お前のRDA活動のすべてをさらけ出せ』『むしろ私生活まで暴露しろ』してたまるか。


「極めつけはさっきコメントにもあったように、キッシー君がこの電車に乗ってたことだ。つまり、あのホームは法則として、必ずキッシー君の持ち場につながってるとみるのが妥当なんだよ」


 そして、それが分かった以上、利用しない手は存在しない。


「だから俺は、この電車の過去召喚に飛び乗るのが最速のキッシー君エリアへの移動法だと睨んだ。実際あの道って、動く歩道が設置されてる程度には長いしな。っと、そろそろ過去召喚も期限が来た―――っと!」


 空気に溶ける過去召喚魔法から飛び降りて、俺は線路へと五点着地からゴロゴロでんぐり返しで背中を痛めながら転がり、そして勢いを保ったまま軽く地面を蹴って走り出した。『この運動エネルギーを絶対無駄にしない姿勢は見習いたい』とコメントが流れる。


「よしっ! そこのホームから上がればキッシー君の道まですぐそこだ!」


『無限ホーム君をそんなに刺さないで上げて可哀そう』『激遅無限ホームくんコメントすこ』『キッシー君コメオに殺されて可哀そう。ベッドで慰めてあげたい』『未来予知ホモも居るやん何ココ楽園?』


 俺は線路から先ほどとは別のホームに一息で駆け上がり、迷わずキッシー君の道へと駆け出した。動く歩道へと足を踏み入れながら、今度は拡声機なしで「あー!」と叫んで『ぎょえーくん』を起動する。


「ッ! 早速現れやがったな!」


 道の先から、キッシー君が猛スピードで迫ってくるのを『ぎょえーくん』で確認する。彼は姿を現すなり動く歩道の手すりに乗り上げ、左右の手すりに行ったり来たりしながら俺をかく乱して近づいてくる。


「師匠、お覚悟」


 そして肉薄。寸前まで迫ったキッシー君は跳躍し、天井を蹴って高速で俺へと襲い掛かってきた。俺がやって見せた三次元挙動をモノにしてきやがったか! と俺はその成長速度に目を剥き―――笑う。


 そして、一つ謝罪した。


「ごめんな、キッシー君。俺、RDAにだけはちょっとガチなんだ」


 参拝日に模擬戦をして、RDA当日までには習得してくるだろうとは思っていた。だからこそ、俺は“それを込みでチャートを練ってきている”。


「ッ!?」


 キッシー君は、俺へと落下して生きながら、急に走った痛みに驚きを示した。そこに刺さっているのは、彼の跳躍に合わせて俺が投げた毒クナイ。そして俺はちょうど、概念抽出魔法の詠唱を終えた。


【劇毒】【猛毒】【即効毒】【遅効毒】【麻痺毒】【神経毒】【出血毒】【鉛毒】【汚毒】【鉱毒】【血液毒】【大毒】【死毒】【激痛】【麻痺】【出血】【失血】【鈍化】【停止】


 キッシー君はまず口から大量の血を吐き、体勢を崩し、直後完全に動けなくなって落ちてきた。それを俺は、せめてもの情けだ、と彼の喉笛からロングソードを突き上げ、頭蓋まで貫通させる。


 そして捻りながら抜き払うと、即死したのだろう。瞬時にキッシー君は粒子へと変わった。その中に俺は手を突っ込み、鍵を入手する。さぁ、大詰めだ。俺は動く歩道を駆け抜ける。


 その先にあるのはやはり閉ざされた仏壇だ。俺はスライディングで接近して、そのまま屈み体位に移行して鍵を差し、回す。そして開きながら「おっ、開いてんじゃーん」と呟く。『開けたんだよなぁ』とコメントからツッコミが来る。


「失礼しますよお釈迦様」


 俺はお釈迦様の目の覆いを取り払って、そのまま仏像を持ち上げた。振り返っても、攻略時とは違いキッシーママはそこに居ない。何せ以前とは状況が違う。キッシーママは俺の実力を知っているし、何なら何度か俺に殺されている。


 俺は空いた手で拡声機を手に取り、再び大声を出して『ぎょえーくん』にマッピングさせた。キッシーママの現在地点は、最初からだいぶ動いている。恐らく逃げ回っているのだろう。さぁ、大詰めだ。


 俺は動く歩道を全速力で掛け、過去召喚魔法で呼び出した電車に『跳躍』で再び乗って移動した。途中でホームに飛び降りて、お釈迦様を抱えてごろごろ転がってまた走る。


 マッピングからの推測上、この辺りのはず―――そう考え走っていると、推測通りキッシーママが俺の向かいから走ってきて、そして俺のことを発見するなり息をのんで反転した。


「っしゃおらぁああああ! 逃げんじゃねぇ往生せいやごらぁあああああ!」


「いやぁあああああ! 来ないでぇっ、来ないでぇぇぇえええええ!」


 俺とキッシーママの追いかけっこが始まる。コメント欄が『どっちが鬼か分かんねぇ』『コメオだろ』『怖がる女性を追い回す人間の屑』『ダンジョンボスから涙目で逃げられる男』と散々だ。だが俺はそんなもの知ったこっちゃない。これはRDAなのだ。


 故に俺は走る。俺の方が足が速い。だから俺は走る。走って走って距離が縮まり、そして思い切りお釈迦様を投げつけた。


「ひっ、いやっ、いやぁぁぁあああ!」


「お釈迦様! よろしくお願いします!」


 詠唱するは過去召喚魔法。お釈迦様はあきれ顔で後光を宿し、そしてキッシーママを飲み込んだ。キッシーママは断末魔を上げて灰となり粒子となる。タイマーストップ。14分25.99秒。


 短い静寂。それを経て、俺は片手を高く掲げ、大声で叫んだ。


「これにて―――旧雑司ヶ谷駅ダンジョン、俺、世界ッ! 最速ッ!」


『クズ』『コメクズ』『黙れ』『世界一足が早いコメクズ代【500円】』『キッシーママの御香典【10000円】』『キッシー君の解毒代【50000円】』『お前もお釈迦様に怒られろ』


 勝鬨を上げる俺に反して、コメント欄はとても冷たい。だが俺は世界一位なので上機嫌でその場を飛び回った。あー最高! 俺が世界で一番速い! ひゅー!


 しばらくその場でるんたったと踊りながら、コメント欄の罵倒を聞き続ける。あーマジ最高の気分だ。ぐるぐると意味もなく跳びまわる。喜びの気持ちがあふれて止まらず、調子に乗ってブレイクダンスまで披露してしまう。


 それから数分、俺は段々落ち着いてきた。大の字になって地面に横たわり、長い息を吐く。


「ふー……。楽しかったなぁ」


『バカやめろ』『例のアレ』『スンってなるな』『テンション上げたままダンジョンの入り口に向かえ』


「超達成感あったわ。あー……疲れたなぁ」


『面倒くさくなるな』『おめでとう! いい気分で入り口に向かいましょう!』『疲れてないよコメオは』


「……」


『なんか言え』『配信者が黙るな』『黙ったり黙らなかったりしろ』『無言でハミングちゃんに荷物を預けるな』


「と、いうことで、今日の配信はお開きにしたいと思いまーす」


『その手に持ったソードブレイカーは何だ』『あーもう! またこの動画BANだよ!』『お前いつかアカBAN食らうぞ』


「ではでは皆さん、お疲れ様でした~」


『はいいつもの』『何で俺たちは応援してるやつの死に様で毎回さようならしなきゃなんだ』『グロすぎてダメですチャンネル解除しません』『やめろ! あー!』


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