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コレだから俺は……【前編】

作者: アオハル

 だらだらと、なにとなく。

 嫌になるほどの綺麗な夜空の下。つい最近ノーベル賞を獲った技術の粋である発行体に彩られた街中を歩いていると、どこかの店のスピーカーから流れてくる有線放送が耳に入り、俺は顔を顰めた。ついで顔を上げれば青白く輝く街路樹の下にチラホラと群がる男女のダブルスどもがこれみよがしに鬱陶しかった。

 またこれかよ……。

 そんな溜め息モノな今日の日付は12月24日。そう、言わずと知れたさる宗教の祖が亡くなられた日の前日、世間一般でいうところのクリスマス・イブというやつである。今頃は予約したケンタッキーでフライドなチキンのパーティバーレルや舌を出した女の子がトレードマークのお菓子屋のホールケーキでも受け取る頃合いだろうか。2人だけの世界へと旅立ってしまう人や――同時に「いや自分、葬式は仏教なんで関係ないよね?」と思わず言いたくなるような、胸爆発してしまえと叫んでしまいたくなるような人が1年で最も多いであろう日でもある。当然俺は後者だ。いやだってウチ葬式は仏教なんで……。

 そんなわけで暇を持て余した神々の一員である俺は、反抗期の妹にパシられて、周囲に倣って予約していたチキンとケーキを受け取りに行っていた。意外と混んでいなかったのが不幸中の幸いだった。

 その帰路でコレだ。

 少なくとも今視界の端に無駄に映った2人の男女に架空の殺意を抱くくらいには、今日という日が嫌になった。かれこれこの甘ったるい声と歌詞でひたすらピンク色なナニかを謳うBGMは、行き来だけで何十回と聞いていた。聞いてしまっていた。

 そんな事を思い出し、口から、重苦しい白い息が零れた。

 両手に提げたビニール袋が重く感じた。



(…………………………アレ?)

 家の前まで来て、ふと違和感を感じた。

 家に電気が点いていないのだ。

 確かに今日は両親はいない。何でも100年の恋だとか何とかでどこか遠くの方へ泊りがけで旅行に出かけてったのだ。そんな計画をキャッキャウフフと話された時はもういっそそのまま雲の上まで片道で行ってくれて構わない気がしたのはともかくとして、家には妹が残っている筈だし……。

 明かりが点いてないのは……もしかしてブレーカー落ちた?

 そんな取り留めもない事を考えていると、体がブルっと震え、ここが外だと思い出した。俺は急いで鍵を取り出して、玄関のロックを外し――――



 ガチャッ。

「ただいま~~っ!! ねぇ、ご飯にする? お風呂に――」

 バタンッ。



 ――――て家に駆け込もうとして、開けたドアをさっさと閉めた。目をゴシゴシと擦ってから、ドアの左隣に掲げられた表札を2、3度見返した。そこには慣れ親しんだ苗字が刻まれていた。

 ……いやいやいやいや!!

 一瞬家を間違えたかと思ってついドアを閉めたがどう見てもココは俺の家だし今のってまさか嘘だろ何でアイツが(絶賛混乱中)……もう一回見てみよう。

 ガチャッ。

「――もぅ! ひどいよ折角寒い中こんな恰好で待っててあげたのにぃ!」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 俺は精一杯の自制のおかげで、頭を押さえる醜態だけは晒さずに済んだ。

 多分自身の短い人生の中で最も疲れた顔で、俺は取り敢えず尋ねる事にした。

「………………………………………………………………………で、何でお前がいんの?」

「?」

 キョトンとするコイツ――明かりも暖房も何も点いてない我が家にいたこの下手人は、勿論妹ではない。すぐ隣に住む幼馴染みだ。短く切った栗色の柔らかそうな髪、黒曜石のようにキラキラとした瞳が特徴的だ(が、家の中が真っ暗なので精々が表情と、コート(?)みたいな上着を羽織ってるぐらいしか判別できない)。コイツとの関係性は解り易く言えば『〇まこラブストーリー』から恋愛要素を引いた感じで、つまりは生まれた時から保育園も学校もクラスも一緒の仲、それだけだ。

 で、だ。

「な・ん・で、お前がココにいるんですかね!?」

「いやぁ~、妹ちゃんに『馬鹿兄貴をヨロシク』って言われちゃってさぁ~」

 流石に長く家同士の付き合いがあるだけに声真似巧いな……、って、そうじゃなくて。

「は? 妹は??」

「友達の家に泊まるってさぁ~」

 あっけらかんとそう言う幼馴染み。

(アレ? アイツって今日一日何もないって言ってなかったか?)

 確かに2日前ぐらいから『あー、クリスマス暇だなー(棒読み)』とか言ってチラチラこっちを見て来てた記憶がある。それに、アイツが基本友達の家に行くって言った時は親と喧嘩した時で、その場合いつも祖母の家にいるパターンだ。まさに真相は闇の中。



 さて。

「……じゃあ、家が真っ暗なのは?」

「サプライズ!」

「そうか。……って、ソレ言っていいのか?」

「ああっ! しまった!?」

 失敗した、という思いが如実に表情に表してる幼馴染み。俺はその顔を嗤って見やりながら、両の手のひらで彼女の顔を掴む。

「みゅ?」

 途端にフグみたいな顔になった彼女に平べったい微笑みをかけて。

 俺は、

「せめて暖房は点けとけやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「むにゅにゅにゅにゅにゅにゅ!!?!!?」

 堪忍袋の緒を、自ら切った。

 後編は明後日の午前0時には多分いやきっと。

 ……後でURLここに貼ります。

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