蜃気楼
図書館で探してみたものの、都市伝説大会についての参考資料は見つからなかった。
ただし別の収穫があったので、心理・占いコーナーにある本を五冊借りることにした。鞄が重い。自習用の席はあっさり確保できたが使用せず、借り出し手続きが終わると、すぐに建物を出た。
司書の女性がなかなか俺に気づいてくれないこともあって、時間を食ってしまった。
すでに夜だ。十二月の夜は寒い。
電車で移動し、最寄駅から家までの道を歩いていると、くしゃみが出た。
風が乾燥した空気を運び、その空気が鼻腔の粘膜をくすぐっていた。
家に着いた。ナギーが使っている部屋に、明かりが点いている。
「おかえり~」
部屋から出てきた。
「ただいま……。どこ行ってたんだ」
「そのセリフ逆じゃない? 帰ったの私が先だよ。今日は京都に日帰り」
「ああ、そうだったな。俺は図書館」
自分の部屋のドアを開ける。
いったん床に鞄を置いて、上着を脱いだ。脱いだ上着は張りっぱなしの注連縄に掛けた。
「寒かったでしょー」
「服脱ぎながらのタイミングでこの会話って、どこの夫婦だよ」
「おや? そーなるんだ。これはつまり、結婚して欲しいのね」
「そっちこそ何でそうなる。まあ、考えておく」
「ふーん。寒くて淋しいんなら、あっためてあげたんだけどなー。……な~んて」
「自分のほうが寒いくせに」
「へ?」
「何でもない」
縄をくぐってから鞄を運ぶ。机の上では、ノートパソコンの占有面積が大きい。鞄は机上の空きスペースにゆっくり置いた。
「重そうだね」
「ああ重い」
ナギーが部屋に入ってきた。
「いっぱい持ってったの? 借りたの?」
縄に掛けたばかりの俺の上着もすり抜けて、近づいてきた。
「借りたんだ」
「ふうん」
借りてきた五冊の本を、一冊ずつ鞄から取り出す。
一冊目は、『死後の世界』の体験記。
「うーん、都市伝説ワールドはそれとは違うんだけどなー。ちょっとかぶるけど」
二冊目は『易』の本。表紙に、陰陽を象徴する巴のマークが描かれている。
「あ。あの話、本当だったんだ」
三冊目は『五行推命』の本。『四柱推命』とも呼ばれる占いだ。
「オンミョージュツの勉強? テスト勉強はしてないの?」
「テスト勉強もしてる」
嘘だ。
「無理すると脳ミソ破裂するよー? 脳漿ぶちまけシーンは見たくないなあ」
「さんざん拳で脅かしておきながら、今更何を」
残り二冊を出す前に、それらとは別の物を探る。
「昨日、パソコン返してもらってなかったよな。いつの間に置いたんだ」
「今朝マサヒロがあわてて学校行ったあとに。おかーさんには見られてないよ」
「縄が張ってあっただろ」
「かわしました。パソコンを引っ掛けたりはしてません。それくらい余裕です」
「霊気の壁も?」
「平気。道真様は、インテリジェンス溢れる私を追い出すことなどいたしません」
「それは持っていった」
鞄の中からお守りを出し、ノートパソコンの上に置いた。赤く輝くお守りには、御神体――小さく分割された菅原道真の霊魂――が納められている。本体に較べれば、その霊力はずっと弱いことだろう。
「え? あれ? じゃあこれって」
ナギーが部屋を見回す。
「幽霊を弾く結界だ。死んだけれど、幽霊じゃないんだよな」
「死んだ……知ってるの?」
こちらを向いた。
「まあ、バレるよね」
「探しているの、推薦人じゃないよな」
訊ねながら、残りの二冊を取り出して、すでに出した三冊の上に重ねた。
それを眺めていたナギーが、ゆっくりと答える。
「うん、そうだよ……」
相反する主張をそれぞれタイトルに掲げる二冊。どちらが都市伝説なのだろうか。
二つのタイトルを目で追う。
一つは、『本当の自分が見つかる心理テスト』。
もう一つは、『自分探しがあなたを不幸にする 本当の自分なんてない』――。




