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痛快都市伝説 the Reverse  作者: 玄瑞
第四章
34/44

潜航

「推薦人、見つからなかったんだな」

「うん……」

 幽霊少女ナギーは、力なく頷いた。

 俺の部屋は幽霊を弾く結界が作動中なので、その隣の部屋に移動する。一ヶ月の推薦人探しの旅に出る前に、ナギーが寝室として使っていた部屋だ。

「これからどうするんだ」

「アニーと相談する……」

 元気が無い。まあ当然か。相談内容は、次の大会出場のために成仏を延期できるか、といったところだろう。成仏されたら修行が空回りみたいな感じになるので、俺としては延期してほしいかな?

「あ」

 ナギーは部屋に入ると、急に何かを思い出したように、辺りを何度も見回した。

「一ヶ月ぶりだね」

「そうだな」

 壁に掛けてあるカレンダーで確認した。きっちり一ヶ月だった。

「本当に、ちょうど一ヶ月ぶりだよね」

「ああ。何かくどいな」

「いえいえ。懐かしい気持ちに浸っていただけです」

「大げさだな」

「我が家は良いものです」

「借り暮らしだろ。そうだ、追加の家賃と契約更新料をくれ。素敵な笑顔でお支払いを」

 ナギーが苦笑する。

「高いな~。最高級じゃない」

「ゴージャスな部屋を提供してるんだ。当然の権利だ」

「ぷっ」

 ナギーがベッドの上に寝転んだ。十年以上も前に両親が家具量販店で購入した、セルフ組み立て式のゴージャスなものだ。

「うん、ゴージャスです。とおってもゴージャス」

 少し元気が戻ったようだ。

「お気に召して頂いて光栄でございます……って、これだとホテルになるな」

「パソコン使っていい?」

 笑いを収めて尋ねてきた。

「持ってくる」

「何で。あっちの部屋でしょ」

「冬用衣類の緊急虫干し中だ。入るなよ」

 結界を張ったままだと、邪険にしているように思われる。後で外そう。

「へー、黄ばんだハンカチとか干してたんだ。超レトロな映画の真似するのね。昭和の香りと一緒にアンモニア臭が漂ってきそう……。パンツも干してる?」

「黄ばむか!」

 清浄・清潔な生活を送っている俺に、なんてことを言うんだ。

「でもマサヒロの部屋、本当におかしな空気出てるよ」

「おかしくない。期末テストに備えて、菅原道真様のご加護を受けるのだ」

 結界の霊気はミッチーのせいにでもしておこう。

「大宰府の? どーりで。お守りかお札ね。でも『真面目に勉強しろ』って言われちゃうんじゃないかなあ」

「お前も代弁していい存在じゃねえよ。一緒にカンニングやっただろ」

「あれは知恵とチームワークのタマモノ。学問の本質を突いた行動です。大宰府かあ……。九州楽しかった?」

 どこか淋しげに聞いてくる。

「買ったのは大宰府じゃない。神戸の北野だ」

 注連しめなわをよけて、ノートパソコンを運ぶ。

 途中で玄関のチャイムが鳴った。宅配だ。パソコンをナギーに手渡して、受け取りに行く。

 パソコンと入れ替わりに、小包を自分の部屋に運び入れることになった。

「それ、何? 何か気になる」

 閉めたドアから首だけ出して、ナギーが尋ねてきた。

 人払い用の結界を隠す必要は特になさそうだが……。話すか、黙っているか。どちらにしよう。

「今、おとーさんもおかーさんもいないよね。つまり……」

 まずい、変な風に推測し始めた。

「違う。断じて違う」

 これは十八歳未満でも使用できる品物だ。

「あれえ? インスタント食品のことなんだけどなあ。違うんだ」

 くっ。そう来るなら、修行のことは伏せていよう。ナギーはまだ知らないはずだ。黙って続けてからいきなり見せつけ、少しでも驚かせてやりたい。修行妨害を防ぐために、結界も張ったままにする。……アイテム頼みなところが少し悲しい。

「さあ、白状しましょう。中身は何かなー?」

「んー、お察しの通り、大人の世界の鑑賞だ。鑑賞中は邪魔しないように」

 俺の嘘を聞いたナギーは目を閉じるとおもむろに、ふーっ、とカッコつけて溜息を出した。

「とても残念です。私という美少女がいながら……。でも、私でハアハアされると伝説力が変になって逆流してきそう……」

「もう変だろ」

「私は純真だよ? けがしてはいけません。ということで、ハアハアは控えめに。できれば鑑賞・・だけにしておきましょう。隣で行為・・はちょっと……」

 とても純真とは思えないことを言ってから、ナギーは首を引っ込めた。

 別の嘘にすればよかったか……。だが、もう遅い。とにかく、この方向に勘違いさせておけば邪魔されることはないだろう。パソコン内に残っているメールにも、修行のことは書かれていない。

 とはいえ、アニーか赤靴のどちらかからバレるのは時間の問題だ。今日すぐにバレる恐れもある。

 急がねば。

 よし、今夜は秘密の特訓場を作るための特訓だ。


 朝、疲れて寝過ごした。

 予習の成果が炸裂して人払いの結界を一晩で張れたのはいいが、誰も呼びに来たり、起こしに来たりしない。うっかりすると孤独死の結界になりそうだ。

 学校まで全力疾走して、一時間目の開始時刻に間に合った。期末テストの零点回避には成功だ。後は、数時間に及ぶ苦難の時を耐え忍ぶのみ。

 うーむ、期末テストの特訓にも時間を使うことにしようか……。


 帰り道、信号待ちのついでにスマートフォンで受信メールを確認する。

 新着が一通あった。



  前略 久坂雅弘 様


   訓練は順調ですか?

   途中でやめてはいけません。少なくとも翌週の土曜日までは続けて下さい。

   特に護符は肌身離さず、三枚以上は持ち歩くように。

   寝るときには対霊結界を忘れずに。

   学期末テストや大学受験が気になるかもしれませんが、修行を優先して下さい。

   翌週の土曜日を過ぎれば、やめていただいても構いません。

   よろしくお願いいたします。


  草々 渡会阿仁女


   追伸:ナギーが京都から帰ってきたら、できるだけ彼女のそばを離れないように。

      ただし、彼女が離れろといったときには、すぐに従って下さい。



 何かおかしな話だ。

 推薦人がまだ見つからないのに、そんなに急いで間に合わせる必要があるのだろうか。護符と結界を優先という指示も、しつこい感じがする。まるで俺が誰か、いや何か・・に狙われているかのような……。

 そうだ。結界は修行の邪魔をしてくる幽霊を弾くため、とアニーが言っていたから、他の参加者の妨害工作かもしれない。ナギー本人に手を出すと反撃されるから、活動拠点とそこにいるスタッフにダメージを与えるのだ。推薦がないことを他の参加者が知らなければ、これはありうる。これまでも妨害があって、そのせいで推薦が得られない、という可能性もある。

 襲撃してくる相手が何者かわからない状態では不利だ。帰って調べてみよう。


 ――見つからなかった。

 帰ってすぐにネット上を二時間以上も探してみたものの、妨害工作をしていそうな幽霊はいなかった。この時代、幽霊の・・・大会ならともかく都市伝説の・・・・・大会なら、ネットを使わないはずがない。

 妨害工作どころか破壊工作をしているらしい、ある凶暴な幽霊のサイトとそのブログはある。ナギーの宣伝工作用に、修行の合間を縫って集めた情報の中の一つだ。

 けれども、これは違うだろう。やる気のなさそうな古めかしいサイトデザイン。頭蓋骨の中身が細胞分裂を拒否しているようなブログの文章。大会にかける熱意や工作を仕掛けるための知性は、まるで伝わってこない。

 いや、幽霊を名乗るだけで実は人間、人間を名乗っているが実は幽霊、というケースもありうる。幽霊だけを調べたのでは駄目なのかもしれない。

 とはいえ、これではキリが無い。

 大会に関係がありそうなサイトを絞るために、都市伝説大会とやらそのものについて調べた。


 結果――。

 大会そのものについて誰も、何も話していない。

 普通の『都大会』は検索に引っかかるのだが、『都市伝説大会』のようなものは滅多に引っかからない。『都市伝説集』はあっても、その中で順位付けしたり対戦したりするというものは少なく、あったとしても、古い。

 『今年度版・冬の都市伝説ランキング』や『某所にある冬季モンスタートーナメント』といったものは、無い。それらしきものは何も無い。

 都市伝説の大会なのに、緘口令かんこうれいが布かれているのか?

 他の方法で調べよう。

 さしあたり思いつくのは、話のできる幽霊に会いに行くか、オカルトに詳しい人間に訊ねるかだが……。

 心霊スポットは夜に行かないと駄目だろうし、その幽霊が凶悪だったらまずい。俺はまだ防御しかできない状態だ。

 オカルトに詳しい人間……。ライブチケットがいまだ捌けずに焦っているUFO騒動野郎は、問題外だ。

 では、アニーと赤靴はどうだろう。

 これもいい方法とは言えない。電話はつながりにくく、二人がいる京都は遠い。行ったところで、留守かもしれない。話ができたとしても、二人にも緘口令が布かれていたら詳しいことは聞き出せない。

 知り合い以外なら、お寺、教会、神社、占い師……。

 この中だと、陰陽師絡みで神社が有力か。でも、初対面でいきなり『都市伝説大会をご存知ですか?』なんて尋ねると怪しまれるよな。そもそも、会ってくれるかどうかもわからないし。

 残る手段は……図書館だ。

 死後の世界の体験記。まずは、あれを読んでみよう。幽霊も参加できる大会のことなら、載っているかもしれない。書いた時期が古すぎなければいいのだが。

 鞄の中身を入れ替える。

 筆記具はそのまま。ミッチーのお守りも入れっぱなし。教科書、ノート、問題集、資料集を明日のテスト科目のものにした。

 机の奥に隠してある護符を四枚取り出し、ポケットに突っ込む。

 最後に閉館時刻を確認してから机の上のノートパソコンを閉じ、縄をくぐり、鞄を片手に図書館へ向かった。

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