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痛快都市伝説 the Reverse  作者: 玄瑞
第四章
28/44

 ノートパソコンの画面には、ある掲示板の投稿のうち、最新五十件が表示されている。

 俺が最初に立てて書き込みしたスレッドではなく、その続きに当たるものだ。

 上から二番目のものを読む。番号は、427。


『切れちまった。

 カツオだカツオ。カツオ食いに帰るんだ。トロトロの戻り鰹。

 じゃあなキモヲタオカルトマニアども。

 俺は隣に座った高校生の女の子と一緒に楽しいドライブだ。

 橋からの夜景がすばらs』


 426番以前の投稿も全て表示されるように、操作した。

 427番につながるものは、424番にあった。


『いま夜行バスの中だ。

 ヒマなんでちょっとだけ付き合ってやるよ。

 友達がそいつの兄貴から聞いたって話なんだが、橋の車道に出るらしいぜ。

 なんでも沈没した船に乗っていて死んだんだとか。

 十数年前にでかい事故あっただろ、あれ。

 去年のやつだって噂もある。まあ、去年のは沈んでないから釣りだな。

 そんで、そのとき双子の姉が巻き込まれたそうだ。

 本州側に養子で引き取られた妹に会いに行く途中だったって話だ。

 そんで一年に一回、死んでからも橋を渡って会いに行くんだと。

 毎年大橋のふもとで妹が供養してたらしいが、その子も病気で死んだらしい。

 それからは姉妹で友達を増やすために大橋を通る車を狙ってるって言われてるから、気をつけろよ。

 あ、おまえらヲタはお呼びじゃなかったかwwwww

 早く家でカツオくいて』


 文体と英字の使い方から見て、明らかにネタとしての書き込みだ。

 『鰹の一本釣り』に引っ掛けた釣りだろ、とわざわざ突っ込んでいる奴はいない。

 明石海峡大橋、大鳴門橋、瀬戸大橋、瀬戸内しまなみ海道、関門橋、これらのいずれにおいても、バスが転落したというニュースはなかった。レインボーブリッジや横浜ベイブリッジなど、東日本の橋でも同様だ。橋以外での事故ならば、数年前のものや外国のものがあるのだが。

 一応、ローカルディスクに保存しておくことにする。

 分類Aから分類Cまで――『ナギーの名前が出ている』『名は出ていないが、特徴からみてナギーのことを語っている』『ナギーに似ているが、別人の可能性がある』――には該当しない。

 拳・手刀・赤毛・長髪・制服・電波・美少女自称・食パン……などの、ナギーと重なる要素はない。せいぜい女子高生ということぐらいだ。

 分類はD、『話題に便乗、リンクとトラックバックでコバンザメ式宣伝作戦』レベル。

 間接的に使える情報もストックしておくのが、真の工作員。俺は今や、謎のオカルト組織『陰陽寮』の情報工作員なのだ。末端で、請負なのだけれども。

 報酬があるわけでもないし、断ればよかったな、と思いつつ、作業を中断してインスタントコーヒーを淹れる。日曜日に一人で何をしているんだろう、俺。

 コーヒーカップを持って、作業に戻る。

 今度は掲示板ではなく『呟き』だ。

 掲示板に貼り付けられていたアドレスをクリックし、別サイトに移動する。

 口の悪い掲示板利用者の言葉を借りれば、リンク先の呟きは『キモヲタオカルトマニア』たちのものだ。彼らは情報収集、情報拡散のいずれにも役立つ。その中の、ある一人のページを見る。


『俺、無事に帰れたら結婚するんだ……』


 またしてもネタのようだが、最新の呟きだけ見ていても、何のことだか分からない。

 一覧表示にする。新しい呟きから先に表示されてゆく。


『俺、無事に帰れたら結婚するんだ……』

『同じ日に同じ船wwwオワタwwwオワタ……』

『おまいのいうとおり、第二金曜だ。よくわかったな。週末だから無理かと思ったけど、そんなことはなかったぜ!』

『ガクガクブルブル……やべぇよ。俺やべぇ』

『呪われた別の船にぶつかられるとかorz』

『ちょwwwwww聞いてねえwwwwww』

『地図よく見てみ。ずれてるだろ』

『遠くから撮るだけ』

『《ムーンフラワー スノーフレーク》だ。雪月花カコイイ!』

『愛車も一緒』

『船にしますた』

『ガソリンたっけええええええ』

『バイクっす』

『免許更新に行ってきました』

『準備中なう』

『おまいら焦るな、まだまだ先だ』

『今度その近くを通るんだ。写メうぷするから楽しみにしていてくれ』


 心霊スポット巡りの旅、マニア風に言えば『巡礼』のようだ。さっきの掲示板の話と同じく、船の事故に関するものだ。

 この二つに共通しそうな都市伝説をしばらく前に読んだ覚えがある。『魔の航路点』とかいう、海の都市伝説のことだろう。

 ナギーの宣伝工作に使える要素は無さそうだったが、それでも気になるところがある。

 年末で、第二金曜。

 十二月中旬、不吉といわれた、あのヘビメタライブの日と重なっている。

 ライブと船の事故に、関係があるとは思えない。このライブコンサートの会場は船上ではなく、地上の建物内なのだから。

 ただ、会場が問題なのではない、と陰陽師の少女は言っていた。この日に俺が騒ぐことが良くない、とか何とか。

 大安吉日の反対の、仏滅だったかな。あれかもしれない――。そう思って『仏滅 大安 カレンダー』で検索して調べてみたが、仏滅ではなかった。違う理由らしい。

 他に何かないか、探ることにする。理由も分からず不吉と言われて行動を制限されるのは、気分のいいことじゃない。ライブの日を検索エンジンの入力フォームに書き込んで、Enterキーを叩く。

 しかし、俺に不幸や凶事をもたらしそうな、怪しいものは見当たらなかった。

 検索結果の二百数十件目までをざっと眺めてみても、何もない。

 昨年の同じ日、一昨年の同じ日、さらにその前の年の同じ日、と同様に繰り返し調べても、不審なところは何もなかった。

 ネットじゃわからないことなのか。それなら、どうしようもない。今日は作業終了にしよう。

 ……何か忘れているような気がする。

 何だろう。

 何だった?

 何かを思い出せない。

 目を閉じて、記憶を探る。

 コンサートの日は不吉だから、行くな。騒ぐな。これだけだったはずだが……。

 ……。

 そうだ。二日間と、コンサートの翌日も不吉だと、陰陽師アニーは言っていた。

 十二月中旬の、土曜の日付けを入力した。

 不審な検索結果は、すぐに見つかった。去年のニュース記事だった。


『関西共同日報WEB

 ○○日午前0時30分頃、香川県丸亀沖でフェリーと貨物船が衝突する事故が発生したとの連絡が、第六管区海上保安本部に入った。フェリーは神戸から大分への航行中、貨物船に船右側からぶつかられたという。両船舶はともに沈没を免れたものの損傷が激しく、現時点において自力航行は困難と見られている。

 現在、高松・たまの・水島など複数の海上保安部から出動した隊員達がヘリと救助艇で救出活動に当たっているが、作業は難航している。なお、瀬戸大橋を見るためにデッキに出ていた乗客のうち一人が行方不明となっており、安否と身元の確認が行われている。』


 この記事が書かれているページには、続報のリンクが張られている。それを辿る。


『関西共同日報WEB

 ○○日早朝、丸亀沖で操業していた漁船の乗員が女性の遺体を発見し、同船に引き上げた。関係者の話によると、身に着けていた物から同日のフェリー衝突事故の際に行方不明となっていた乗客と思われるという。乗客の家族と通報を受けた海上保安庁の職員が、身元の照合を行うために丸亀港に向かっている。』


 この続報も読む。


『関西共同日報WEB

 …………このフェリー衝突事故で亡くなったのは、H県K市の高校に通っていた当時二年生の、絵沢渚(えさわ・なぎさ)さん(17)。一人娘である渚さんを失ったご両親はハンカチで涙を拭いながら、「娘が亡くなっていたなんて、いまだに信じられません。一刻も早く事故の原因が明らかになることを望みます」と記者団に語った。』


「なぎさ。なぎさ、か」

 そのまま画面を見ていた。

 画面上では、片隅に表示されている広告だけが変化する。部屋の中と窓の外では、緩やかな時間が流れる。記事の内容は、全く変化することがない。

 スクリーンセーバーが作動して、画面が切り替わった。

「本名が阿仁女なら、渾名はアニー……」

 コーヒーカップを手に取り、口をつけた。

 中の液体は、ひどくぬるかった。

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