96 好き嫌い
(ルーク)
色々となにかを考えている様子のジョアンにエールを送ると、ズピー!と盛大に鼻を啜る音が聞こえた後、離れた顔は戦う決意をした男の顔になっていた。
俺にできるのは、邪魔するモノをぶっ壊すことだけ。
だから、それ以外の戦いはジョアンに任せる。
「とりあえず、コッソリ召喚の様子を覗いてみるか。窓とか結構ある?」
「いえ、窓はありませんが、元々儀式を行う召喚の間は、屋外型になっているので、外から見ることは可能です。
それに部屋を囲う様に柱がいくつも建っているので、気配を殺してそこの影に隠れるのがいいかもしれません。
普通は移動するための魔法陣を通って登るので……まさか外から覗いているとは思わないでしょうから。」
「ほ〜!ソイツはラッキー。」
どういう原理か詳しく分からないがこの世界では、当然の様に今俺達が存在してる空間の他に亜空間という別の空間があって、それを魔法で使用する事ができるらしい。
その魔法を使って実際に亜空間を作ってみると、あららビックリ!
体積という概念を完全無視した空間ができあがるというわけだ。
俺は見えてきた頂上部分を見て、キラッと目を輝かせる。
「不思議なもんだ。外から見たら針の形なのに、実際はお椀型なんだもんな。」
「亜空間を使える能力者が稀有なモノである事が、これを見たら嫌という程分かりますね。常識全てが覆る。」
ジョアンの言葉を聞きながら、俺は1番近くに建っている柱がある場所に着地し、こっそり中央部にある召喚陣の方を見る。
するとそこには光輝く魔法陣と、ゲリー?らしき男、そして魔力を垂れ流しているドン・スネークの姿があった。
「召喚魔法陣を発動しているのは、あのヘビだな。加護付きって言ってたけど……。」
スキル<全視透神>を使い、ソイツを見ると、確かに加護らしきモノが書かれていた。
【ドン・スネーク】
<レベル55>
体力:3200
攻撃:880
魔力:780
知力50
物理防御力:550
魔法防御力:650
精神力:80
俊敏:300
現在の状態:ゲリーと契約状態
(加護)
【火の加護】レベル0
火属性魔法の威力が格段に上がる
「?レベル0……。あ〜……確か加護ってランクとかレベルとか、なんだかごちゃごちゃした設定があったな、そういえば。」
ゲーム上の設定を思い出し、加護のレベルが0である事にププ〜ッ!と吹き出す。
全然加護を活かせてないじゃ〜ん!
頑張れよ〜お前ぇ〜!
ゲリーのでっぷりと前に出ている腹を見て、ヤレヤレと呆れてしまったが、そうしている間にも召喚は成功したようで、一匹のモンスターが姿を現す。
<ポーク・ナイト>の様だ。
<ポーク・ナイト>
体長1m程の豚型Fランクモンスター
豚の体に剣の様に鋭い爪を持っている凶暴なモンスターだが、そこまで強くないのと、肉が食用として人気が高いため、討伐依頼は多い
「う〜ん……悪くはないが、強いってわけではないな。契約するのかな。」
「いえ、多分破棄すると思います。今契約しているドン・スネークの維持コストはかなり高いはずなので、余計なモンスターと契約はできないかと。」
「なるほどな。じゃあ、このまま森に帰して────……。」
────ガブッ!!
……………ゴクンッ。
突然俺とジョアンが見ている前で、ドン・スネークはその召喚されたばかりのポーク・ナイトに齧り付くと、そのまま丸呑みしてしまったではないか!
「……えっ、帰してやるんじゃねぇの?食べるの?召喚したら。」
酷すぎない??
初めて召喚の儀式について見たので、それが普通なのかとも思ったが、ジョアンが怒りに震えていたので、普通じゃない事に気づく。
「さ、最低だ……!『呼びかけに答えてくれたモンスターには最大限の敬意を』、それがシリンズ家の先祖代々からの教えなのに……。」
ジョアンはギリギリ……唇を噛み締めて怒りに耐えながら、何かを握ってゲリー達の方へ向けていた。
それはピー玉くらいの透明な球体で、初めて見るモノだったので、俺はヒソヒソと尋ねる。
「それなんだ?遊ぶヤツ?」
「いえ、これは<写影球>です。いつか母を助けるため、バレなさそうな時はこれで父の暴言や暴力の映像を撮ってチャンスを伺っていました。
コレも証拠の一つになるかもと……。」
「ほほ〜!それは凄い。」
<写影球>
その場の映像を記憶し映し出す事ができる魔道具
魔道具の制作者によって、その映像精度やメモリー時間に差が出る
「…………。」
ジョアンは褒められる事に慣れてきたのか、顔を赤らめながらフンッ!と鼻息を吹いてドヤ顔だ。
これが無表情なクールボーイに……ねぇ?
どうにもイメージが合わないジョアン少年に、ニッコリ笑っておいた。
「────クソッ!!!またハズレか!!」
ゲリーがイライラした声と何かを蹴飛ばす音が聞こえ、俺はジョアンから視線をゲリー達の方へ戻す。
ゲシゲシと蹴りつづけているのは、ドン・スネークの太い胴体で、蹴られている本人は特にダメージはなさそうだが……なんとなく不穏な雰囲気を感じた。
「……なぁ、契約したモンスターって、契約者に絶対服従なのか?」
「────いえ、契約者の方が明らかにレベルが劣っている場合、主導権はどちらかといえば、召喚されたモンスターにあります。
そのため、契約者はそのレベルの差を埋める様な代価を求められる事になりますよ。」
「……まぁ、そりゃ〜当然の事だよな。」
何も払わず働けと言っても、誰も働かないのは当然の事。
ましてや、格下相手に手を貸すなど、そうとう相手に情か恩がなければしないだろうと思われる。
俺はゲリーをジッと見つめたが、スキルを使わなくても、ドン・スネークより遥かに下の実力しかない事は分かった。
「なるほど……。モンスターって結構好き嫌いあるのかもな。
きっとあのヘビも、あのデブダルマの何かが気に入って契約してくれたって事か。」
ゲームのジョアンが最強の召喚モンスターと契約できたのは、父親と街の人達に抱いていた『復讐心』。
だから、愛とか友情とか優しさとか……そういったキラキラしたモノにだけ反応しているのだえはないということだ。




