(セレン)93 謝罪
(セレン)
◇◇
『────あ、そうそう。戦いに勝利した後の話になるが……悪人の謝罪には注意しろよ。』
森の中でルークとの修行中、突然襲ってきた格上モンスターに勝利し満身創痍で倒れ込んでいる私に、ルークが突然そんな話題を振ってくる。
『?』
よく意味が分からずキョトンとし顔をする私に、ルークはまだ動こうとしているモンスターを指差した。
『本当の謝罪は罪悪と後悔、そして相手に対する想いから出るモノだ。』
『……?それは当然の事じゃ……?』
謝罪は相手に悪い事をしてしまった時にする事で、ルークの言っている事に間違いはないと思った。
だから迷わず頷いたのだが、ルークはニッコリと嬉しそうに笑う。
『それが当然と思えるヤツは大丈夫だ。でもそれを当然だと考えられないヤツも世の中には沢山いる。
以前ドルマが、同じ様な事をヘビネロ商会の奴らに言っていたのを覚えてるか?』
『そういえば……。』
完膚なきまでに叩きのめされたヘビネロ商会の奴らは、事もあろうに今まで散々傷つけてきた教会のドルマに許しを乞うた。
しかしドルマは許さなかったのだ。
『更生の可能性はない』と判断して……。
その事を思い出した私を見て、ルークは満足気に笑う。
『そういうヤツにとって、謝罪は低コストで使える道具でしかない。
頭を下げて涙を流す、それを見てセレンと同じ考えを持っている人達は、心から反省したんだと思い、許す事を考える。
だけど悪人の考えはこうだ。
”こんな事で許してもらえてラッキー。次はもっともっと上手くやろう。”
そして次は同じ失敗を踏まない様、もっと狡猾で過激な方法で奪いにくる。更に復讐という厄介なものまで持ってな。』
『…………。』
ルークの指差す先にいるモンスターは、格下の私を狙い襲ってきたが、結果、私が勝ち……今は弱々しい鳴き声を上げている。
それはまるで人間なら謝るかの様に聞こえて、警戒を解こうとしたその時────……。
────ブシュッ!!!
突然口から小さな針の様な者を私に向かって吹き出した。
『…………っ!!』
慌ててレイピアで吹き飛ばそうとしたが……間に合わない!
…………トスッ。
やられた!────と思ったが、気がつけばルークが目の間でその針を摘んで立っていて……更にそれをモンスターへ投げ返した。
すると、針はそのモンスターの顔に突き刺さり、なんとその箇所から腐り始めたではないか!
『グォォォォォッ!!!』
そしてあっという間にモンスターは全身が溶けて死んでしまったが、その目はずっとルークと私を睨みつけていて……怒りと憎しみは消えずに最後までソコにあった。
「…………っ。」
青ざめて固まる私の頭を、ルークはポンポンと叩く。
『な?人間はこれの上位種。許す事は、ちゃんも見極めるように。』
◇◇
「…………言っておくが、私はお前を許すつもりはない。
周りが許しても、私がお前を突き出し、ゲリーとかいうゲス野郎のしてきた事を吐いてもらうからな。」
フッと挑発する様に笑うと、ウォンは涙を流した目で私を憎々しげに睨みつけてきた。
コイツの謝罪はただの道具。
そう判断した私は許さない。
そうしないと、また犠牲者を生み出すから。
堂々とその怒りと憎しみに対し睨み返してやると、突然ウォン達が苦しそうに咳き込みだしたので、また何かの作戦かと警戒する。
「往生際が悪いぞ。もう逃げられないのだから潔く────……。」
「────ガっ!!?……っぎっ……ギギギぎっ!!?」
全員が演技にしては尋常ではない苦しみ様に、違和感を感じたのは私だけではなかった様で、その場の全員が訝しげにウォン達を見つめた。
すると────……。
「う……おべぇぇぇぇぇっ!!!」
「────う、うわっ!!」
「きゃ、きゃぁぁぁぁぁ────!!!」
なんとウォンと他の仲間たちが全員口から大量の蛆虫の様な虫を吐き出したため、その場には大きな悲鳴が上がる。
勿論私もそれにはギョッ!としてしまったが、それもつかの間……なんとその吐き出した蛆虫達は、自分を吐き出したウォン達に群がり始めたのだ。
「────ヒッ!!……っ!!」
「た、助け……っあ……あがががががっ!!!」
そして体中を隠すくらい群がられたウォン達は、悲鳴をあげて暴れまわったが、みるみるうちに小さくなっていき……。
《────ゲフッ!》
後に残ったのは丸々太って、更に肌色に近い体表が真っ赤に変化している蛆虫だけだった。
コレは……<産肉赤虫>の幼虫だ!
<産肉赤虫>
体長10cm程のハエ型Fランクモンスター
長い針の様な産卵管で、草食性モンスターの体内に卵を植え付ける寄生型モンスターだが、数が多くなければ体の大きいモンスターではそこまで問題にはならない
ただし、体が小さいモンスターや人相手では内部の肉がゴッソリ食い荒らされてしまい死亡する事もあるので、繁殖期は生息区域に立ち入らない様に注意が必要
基本体の小さい人はめったに襲わない
体内で孵化した幼虫は寄生主の血肉を喰らい、体表が赤色になる
「こんな大量に、しかも人に植え付けるなんて……ありえない。」
パニックになっている街の人達をかき分け、すぐに蛹化しようとしている個体をレイピアで切り刻むが、元々食べる肉の量が人では足りずに、殆どの幼虫が痩せた体のまま地面で蛹になれないでいた。
この産肉赤虫は、蛹化するには沢山の肉の捕食が必要。
しかし、体内で孵化した後はその寄生主しか食さないため、あまりに小さい寄生主だとこうして餓死する。
そのため人程度の大きさなら二〜三匹が限界で、こんなに群がる程の量の幼虫が植え付けられたなど考えられない。
とりあえず最後の一匹までキッチリ始末してやったが、ウォン達は既に体の全てが食われてしまい、この場に残っているのは食べれない髪の毛や硬い爪、数本の歯だけだった。
「こ、これもゲリーの……?」
「そうだ、そうに違いない!」
街の人達は口々にそう言ったが……私はどうにも疑問が残る。
確かゲリーが授かった加護は、火の加護?ではなかったか……。そうなると、こんな虫を使った殺し方など可能なのか……?
明らかに口封じの様なタイミングの死に、またもや違和感が頭の中に浮かんだが……その瞬間、突然地鳴りの様な音が街の外から聞こえ、更に立っている地面が大きく揺れた。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「なっ、なんだ!?山の方から聞こえたぞ!?」
ワーワーと騒ぐ街の人達が音がした方向の山の方を指差しすると、なんと火柱が上がるくらいの大きな爆発が数カ所で起きているのが視界に入る。
まさか……設置型の魔法陣でも仕掛けていたのか?!
「このままだと山崩れが起きる。なら────……。」
街を襲いくるであろう土砂流を睨みつけながら、レイピアに手を掛けた。




