(セレン)92 街の人達の決意
(セレン)
「……何だコレは?」
ルークがジョアンと行った後、突然宙にスクリーンのような物が多数浮かび上がり、そこには様々な場所と人物が映し出されている。
その中の一つに女性の姿があり、それを見た街の人達が「ローレン様だ!」「サンド様もいるぞ?」とザワついているので、どうやらよく知られている人物の様だ。
「……ローレン……サンド……あぁ、ローレンは、さっきのジョアンという子供の母親か。
何故母親が映し出されているんだ?……このスクリーンみたいなモノは、誰かのスキルか?」
魔力の気配を辿ろうとしたが、元よりそんなに探知系は得意ではないため、よほど毎日一緒にいる人間でないと精密に辿れない。
更にそれにプラスして、どうも隠密に優れたスキルもある人物なのか、ブツリと途中でその気配が切れている様に感じた。
「……まぁ、殺意はなさそうだから、ひとまず様子を見よう。」
とりあえず周りの意見になる様なモノではない事は分かったので静観を選ぶと、なんと映像の中のローレンとサンドとかいう男は、言い争いの様な事を始めた。
『ゲリーがどうやって魔力コストを用意しているのか、アナタなら知っているでしょ?
今すぐそれを吐きなさい。これはシリンズ家のローレンからの命令よ。』
『頭のわりぃクソ女だなぁぁぁっ!』
『お前は黙って俺達のために仕事だけしてろよ、それしか特技がねぇんだからよぉぉ〜?』
『お前の使い道はもう決まってんだから、それまで大人しくしとけ?』
『ゲリー様は、愛人に子供を産ませるつもりだと言っておりました〜。』
『だってジョアン様には契約の才能がないんですからぁ〜。』
『流石は役立たずが生んだ子供ですよねぇ!ジョアン様もお可哀想に、こんな母親から無才で産み落とされて!』
聞くに堪えない暴言の数々。
あのサンドとか言う男は、恐らくゲリーとかいう貴族に味方する者の様だ。
それを聞けば、先ほどジョアンが言っていた言葉に真実味が増す。
「……お、おい……。何言ってんだよ、あの野郎。」
「ローレン様に、なんて事……!」
ざわつきはどんどんと広がっていき、怒りを顕にする者たちまで現れると、皆の目は縛り上げて転がしておいた痴漢男達へと向いた。
「……ウォン様、これは一体どういう事ですか?」
「ローレン様はシリンズ家の正統な血筋の方のはずでは?
そんな方に護衛であるサンド様が何故あんな暴言を?」
「ち、違う……これは……っ。」
痴漢男……ウォンとかいう奴とその仲間達は、真っ青な顔で首を横に振ったが、それを否定するようにサンドとか言う男の話は続く。
『アンタにはな〜んもできないんですよ。』
『シリンズ家を乗っ取られるのも、街の人達が魔力コストとして使われるのも、自分がそのうち生贄として使われるのも。』
『クソガキがぶっ殺されるのも、全部、ぜ〜んぶな♡』
ギャハハッという下卑た笑い声が響く中、街民の一人が我慢ならない!とばかりに怒鳴り始めた。
「ふっざけんじゃねぇぞ!!ゲリーの野郎、正気か?!
入り婿の分際で、シリンズ家を乗っ取る?ローレン様が生贄?ジョアン様が殺される??しかも俺達も魔力コストとして使うって……なんじゃそりゃぁぁぁ!!」
「そんな非道な事を本気でしようとしてるなんて……ジョアン様が言っていた事は本当だったんだわ!
そもそもこの街が機能しているのは、全てローレン様のお陰じゃない!ゲリー様なんて、えばり散らすだけで何にもしてないくせに!」
「契約できなかった奴らを不当に追い出している事も、俺は最初から納得してねぇぞ!
でもローレン様が追い出した後の生活を保障してくれてるから仕方なく皆従ってきたんだぞ?!それを────。」
一度不満が飛び出せば、それは凄まじい勢いで広がっていく。
どうもゲリーという輩は、元から碌でもない男だった様で、聞こえてくる話は全てため息しか出ない内容ばかりであった。
「お前達の主人は随分と人気者だったようだな。まぁ、飼い犬のお前達もどうしようもない奴らだし、当然と言えば当然か。」
「────っぐっ……!」
私が鼻で笑って言ってやると、ウォンとその仲間達は、全員悔しそうに唇を噛んでいたが、開き直ったのか突然ハハハッ!と笑い出す。
「うるせぇんだよ!下層民どもが!雑魚モンスターしか契約できなかった無能なんだから、使われたって文句言えねぇだろうが!
ほらほら、お前らが大好きなローレン様がもう死にますよ〜?ザマァ♬」
「…………いや、無理じゃないか?」
『そんな……!』『ローレン様!』と心配の声を上げる街の人達を尻目にポツリと呟いた。
何故なら、ローレンの影の中にフザケた弟弟子の気配がするから。
「……さっさと出てきて倒してしまえばいいのに、あのまま手を出さずに傍観して楽しむいつもりだな。」
相変わらずの性格の悪さを感じながら、チッ!と舌打ちをすると、なんとローレンがブルースター・マーメイドを召喚し戦い始めたではないか!
予想外の展開に驚いたが、街民達は一斉にワッ!と歓喜の声を上げ、ローレンを応援し始めた。
「ローレン様強い!まさか、こんなに戦える方だなんて!」
「いいぞ──!!そのままゲリーのクソ野郎もぶっ飛ばしちまえ!」
血気盛んな街民達は、タオルや箒、調理道具等を回して、<豆ノミ>の様に飛び跳ねている!
< 豆ノミ >
体長5〜10cm程のノミ型Gランクモンスター
全身が薄い緑色をしていて、スピードにのみステータスが全振りしているモンスターで、天敵を見つけたり、危機感を感じるとぴょんぴょんと凄いスピードで跳ねて逃走する
焼いて食べると美味しいのだが、捕まえるのに苦労する
「契約モンスターの戦いは初めて見たが凄いな。……もし自分がある日突然こんな『力』を手に入れてしまったら、変わってしまうんだろうか?」
ゲスというのに相応しい性格をしているサンドという男と、目の前で街の人達を睨みつけているウォンを見て、少しだけ怖くなったが────頭にフッと沢山の人達の顔が思い浮かびその恐怖は吹き飛んだ。
孤児院のドルマや他のシスター達、子供たちに憎たらしい弟弟子の顔、そして……なによりルークの事を思い出せば、どうしてもこんな風に『力』を使おうだなんて思えない。
「本当にバカだな、お前達は。本当に強いヤツは、そもそも『奪う』なんて概念自体ないんだ。
望む者はとても純粋で、今の望みは青春を謳歌する事らしいぞ?」
「あ”あ”?!何わけわかんねぇ事言ってんだ、この暴力クソ女!!」
サンドの戦況が思わしくない事に焦り始めたのか、ウォンはギャーギャーと喚いていたが、その後サンドと仲間たちは全員ローレンに倒されてしまったのを見て絶句していた。
「あ……うぅ……う……っ。」
言葉なく街の人達を見回すウォンと仲間たち。
そんなウォンを見つめる街の人達の目はとても冷たい。
「隣街の守備隊に引き渡そう。それから、街の現状も話して……。」
「そもそも冒険者ギルドや傭兵ギルドを戻して貰う様、ローレン様に相談すべきね。
だからこんなゲリーなんていう独裁者が好き放題できる様になっちゃったんだから。」
ギロッ!と睨みつける街の人達の目にハッキリと殺意が見えると、ウォンは大量の汗をかきながら地面に額を叩きつけた。
「す、すみませんでしたぁぁぁぁ!!ちょ、ちょ〜と調子に乗っちまって……これからは誠心誠意平民の皆様のために働き、この街を〜……。」
ペラペラと薄っぺらい謝罪を繰り返すウォンと仲間たちに、内心呆れてため息をついてしまったが、それでもボロボロと涙を流して謝るウォン達を見て『これ以上は……。』と許そうとする人達もいる様だ。
それを見て────以前、修行中にルークに言われた言葉を思い出した。




