(ルストン)8 輝く人生!
(ルストン)
「その通りだ!!やはりお前は素晴らしい女性だな!我が子のための慈愛に溢れ、多くを考える賢さもある。俺はなんて最高の妻をもらってしまったのだろう!」
「あら?私は当然の事を言ったまでですわ。使えるモノは使ってやりましょう。
私達にとっても、いい暇つぶしになりますしね。」
俺達は顔を見合わせ笑いあい、そのままルークには、我が愛しの子達を楽しませるための道具になってもらった。
ルークの存在によって、息子達は『負ける』事の意味を知り、惨めなルークを傷つける事で、幸せを知っていく。
更に、そんな存在が家に一人いるだけで、使用人たちのストレスも適度に解消できるため、まさにルークは役に立つ物であったといえるだろう。
しかし、それもいらなくなってきた。
一応書面上、ルークは正妻の子供。
才能ギフトが判明し正真正銘の役立たずと分かった今、息子達の光り輝く人生にとってなんの得もない不要な物になったからだ。
だから、そろそろ……実行に移さねばな?
「そういえば、ルストン様には、もう一人御子息がいますね。その後、体調の方はいかがですかな?」
意識は現実へと戻り、目の前にはワインの香りを楽しんでいるガレット様がいる。
私はフルートと再度目を合わせてから、ニコッ……と薄暗い笑みを浮かべた。
「生まれながらに病弱な息子で……もう長くはないでしょう。できる限りの事はしてきたつもりでしたが、これも運命なのでしょうね。悲しいですが、覚悟はできております。」
「そうですか……なんてお可哀想な御子息なのでしょう。せめて来世に幸せになる様、私からもお祈りを……。
どうか来世は価値ある才能を持って、国のために役に立つ人物になれますように。」
悲しげに伏せた目は、直ぐに弧を描き、まるでチェシャ猫の様に。
ガレット様は、すべてを知っている様だ。
私とフルートは、同じく悲しげに目を伏せて礼をすると、ガレット様は「楽しんで下さいね。」とだけ残し、その場を去っていった。
「フフッ。ライン様の即位が待ち遠しいわ。このまま息子達が実力をつけていけば、間違いなくライン様の側近の騎士になれるでしょう。
そうなれば、グリード家の名声は更に高くなるに違いないわ。」
「その通りだ。あの二人には素晴らしい才能がある。だから何も問題などありはしないさ。
さぁ、フルート、これから俺達がこの場ですべき事はなんだ?」
野心でギラギラ目を輝かせているフルートに問いかけると、フルートは馬鹿にしたように笑う。
「そんなの言うまでもないでしょう?アレの始末のための下準備ですわ。
あくまで病気で死んだと思わせるため、病弱な息子の話をできるだけ広めておきましょう。
情報は何よりの攻撃手段。
それは元奥様の件でも嫌という程分かっていますので。」
「ハハッ!あの時はお前のお陰でやりやすかったぞ。浪費家でグリード家を追い詰めた悪女の話。お前が社交界で広めてくれたお陰で、俺は立派な当主のままお前と再婚できた。」
「私は浪費家の奥様を正々堂々追い払った、グリード家の救世主。
でも、間違ってはいませんよねぇ〜?あんな役立たずの生活費は、無駄な浪費ですもの。
それにあんな無能な子供にグリード家を継がせたら、直ぐに没落してしまうでしょうから。」
フルートは扇子を広げて口元を隠し、クスクスと笑い……真実を広めるために、片っ端から話しかけていった。
◇◇
「ふぅ……すっかり遅くなってしまったわね。ライアーとスティーブがへそを曲げてないといいけど。」
「仕方あるまい。あとで好きな物でも買ってやれば機嫌は直るだろう。」
帰りの馬車の中、多少酔っているのかふわふわした気分で、俺とフルートは笑い合う。
俺達グリード家は、ライン様の派閥を支える支柱の一つとして、これからどんどん上へ上がっていけるだろう。
我が息子達は素晴らしい才能を開花させ、この国最高峰の教育機関【聖グラウンド学院】にも受かるはず。
そこでもっともっとグリード家の名声をあげ、そしてゆくゆくはライン様を守るための専属騎士に選ばれるに違いない!
「ククッ……将来を約束されて、俺の人生はなんてイージーなモノになってしまったんだろうな。しかし、こうもうまくいくと逆につまらんな。」
「そうですわね。でも、これからお楽しみのビッグイベントがあるでしょう?実は凄く良いものがあるの。
私が調合した毒なんだけど……コレ、凄く面白いのよ。きっとビッグイベントを、もっともっと楽しくしてくれるわ。」
フルートは沢山の指輪が嵌められている自身の左手を前に出すと、そのウチの一つ、指の関節1個分くらいの巨大なエメラルドがついた指輪を触る。
────カチッ……。
すると、小さなスイッチ音と共にエメラルドの部分が外れ、中の空洞になっている場所が姿を現すと、小さな赤と白の粒が入っているのが目に入った。
「?これが毒か?随分小さい薬だが……本当に人を殺せる程のモノなのか?」
「十分な毒性が入っているわ。でも、これは遅効性なの。
しかも、ものすごくゆ〜っくり進行するモノで、その耐え難い痛みに悲鳴は止まらず、その痛みから逃げるため、飲んだ者は全身の皮膚を掻きむしるわ。
それでも足りずに髪の毛もすべて毟り、血まみれのまま更に苦しみ藻掻き……最後は精神までも壊れて死ぬ。
まだ試作品で人間に使った事はないから、一応解毒薬も作っておいたけど……今回は使い道はなさそうね。」
フルートは、赤い薬を長くて真っ赤な爪で突付き、更に隣の白い薬も順番で突く。
赤が毒、そして万が一を考え白が解毒薬か……。
「なんと素晴らしい発明品だ。『死』という、誰もが一つしか持っていない命の最後を、より楽しく、華やかにしてくれるモノだよ。楽しみがまた一つ増えてしまったな。」
愛する妻の才能に震えながら言うと、フルートはニコッと笑った。
「本当は貴方の元正妻様に使おうと思って開発していたのに、あっさり風邪ごときで死んでしまうんですもの〜。私、あの時ほどガッカリした事はありませんわ。
この私を退屈にさせるなんて、なんて酷いのでしょう!
でも……その子供が責任をとって楽しませてくれるので、よしとします。」
「それは残念だった……。本当にサラは最後までなんの役にも立たずに死んだものだ。
これは、お前の言う通り息子であるルークにぜひ責任をとってもらわなければならぬな。
では、早速今晩ルークに飲ませてやろうか。
屋敷と敷地内には完全な防音魔法が掛けられているから、どんなに大声で泣いて叫んでも誰にも気づかれんからな。────たっぷり楽しめるというものだ。」
私達は同時に大声で笑い、ご機嫌のまま屋敷へと到着する。
これから俺達家族の未来は、光り輝いている!!
そう信じてやまない俺達が、キラキラ輝く夜空の下で馬車を降りて見たもの────それは、屋敷内の大きな木にボコボコの顔で全裸で吊られている、最愛の息子たちの姿であった。




